第55話 第2レースに向けて
『ごめーん!あたし最後まで最下位から抜け出せなかったー!』
第1レースが終わるや否や、附子島様は申し訳なさそうに叫んだ。
元々このお方は狙撃やタレットによる搦め手が本職で、激しい機動戦は専門外だ。
ぶつかり合いの間合いまで辿り着けず、チャッピーのように逆関節の跳躍力を活かせる状況に持ち込めなかったのでは、逆転のしょうもない。
『仕方ないでありますよ、ベノち。アイテム支援は的確でしたので、引き続きサポートよろしくお願いします。』
『やつざきも最後の一騎討ちに夢中になり過ぎてやらかしたからなぁ…次はもっとレースに集中しなきゃ。』
:やつざき完全に釘付けにされてたもんな
:善戦してたけど、立ち回りで上を行かれた感じ
:ルリちゃまのアイテムの引きがヤバかった
:ヒスイちゃんを押さえておけなかったのがトドメやったな
:最初は先頭譲った方がいいかもー?
コメント欄もいつになく真面目だ。
引きの良し悪しは仕方ないにしても、序盤でたまたま首位になった時に、色気を出してそれを維持しようとした試合運びが間違っていた事は認めねばなるまい。
アイテムONのルールで、それは無謀だ。
「なあ、ハルやん。次のレース、俺たちは真ん中を固まって動いてみないか?」
「なるべく順位が連続するように、ですか?」
支給アイテムの質は、取得判定が発生した瞬間の順位によって大きく変動する。
特に1位で開けたボックスからは、まずマトモな防御手段は手に入らないと思っていい。
少なくとも1周目の前半では2〜4位をキープし、チーム全体での支給アイテムの質が安定するよう、順位をあまり離さない方が賢明かもしれない。
『ふーむ、なるほど。やつざき殿はどう思われます?』
『戦略としてはアリなんじゃないかな。集まって練習があんま出来てないから、ぶっつけ本番になるけど。』
そこなんだよなー
お嬢様の引っ越しもあったし、みんな何だかんだで個々人の探索業が繁盛してるから、その分ユニットで集まる時間がなかなか取れていない。
全員A級の4期生ならではの泣き所だ。
『うー、無理させてごめんね。あたしが0点なせいで…』
「負担をかけて面目ない。某にも策はある故、どうにか3周目まで保たせてくれ。」
イヴの言う策とは何だろうか?
少なくとも、右腕にいつものスナイパー手裏剣は取り付けられていない。
明確に口にしない以上、恐らくリスナー達に対する何らかのサプライズ要素を含むのだろうが…
『第1レースお疲れ様でした〜!みなさん反省会の最中かと思いますが、とりあえず第2レースのコース設定の抽選を先にしちゃいましょう!次のコースは〜?こちらっ!』
司会のBちゃん様がルーレットを作動させ、我々の選んだ候補コースのリスト上を、カーソルが滑って行く。
次のレースの会場は…!
――――――――――――――――――
『むあ〜、1位待ってかれた〜』
間延びした呑気な口調とは裏腹に、米良ルリ子ことアズール・ド・ネルヴァルは内心舌を巻いていた。
全体的に引きは良かった。
立ち回りにもミスは無かった。
その上でこの結果だ。
:ルリちゃまめっちゃ立ち回り良かったよ
:あのタイミングでトゲが自分に返ってくるとは
:最終ラップには魔物が住むんや…
数字を見れば24対21でこちらの3点リード。
だが、逆から言えば、この試合内容をもってしても、たったの3点しか貯金を作れなかった事になる。
第2レース、第3レースで何かひとつ下振れすれば、簡単に吹き飛ぶ数字だ。
『いやいやいや。強いねぇ、ネイルちゃん。私のランス、初絡みなのにしっかり対策されてたわ。』
『…私は今回ほぼノーマークだったから動きやすかった。第2レースは警戒されると思って動いた方が良さそう。』
矮躯と長身のアバター、同期メンバーの揚戸メノウと左道ヒスイも異口同音に4期生への警戒を口にする。
この2人もB級とは言え上澄の強者だ。
そんじょそこらの腕自慢など問題にならない実力の持ち主だが、それでも本レースでの後輩たちとの直接対決にはリタイヤの危険が伴う。
:それは確かに
:あそこで無敵引けたのは大きかったよね
:大破させられてたら、メノたそ強制的に最下位だったもんなぁ
強制最下位
その言葉が重くのしかかる。
マリカは殺し合いではなく、あくまでもレースだ。
そして、そのレースを制するための選択肢の一つとして、明確に走者同士の殺し合いがルールに組み込まれている。
『第1レースお疲れ様でした〜!みなさん反省会の最中かと思いますが、とりあえず第2レースのコース設定の抽選を先にしちゃいましょう!次のコースは〜?こちらっ!』
司会者が高らかに次のコースを読み上げる。
その名は"キングダムサーキット"
コース終盤に用意された、アイテムを必要としないショートカットを奪い合い、血で血を洗う修羅の路であった。
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