第54話 一騎討ち
ご本人のアバターと同じく小柄な軽量逆関節フレームを、ミサイルモジュールでハリネズミのように武装した、ワンマンアーミーの体現者。
爆風で固めた大型の獲物を、これまた巨大なブーストランスの突進で仕留める、派手な狩りが持ち味のバーチャル探索配信者だ。
その無茶な積載の代償として、装甲は可能な限り切り詰められているが、相対した者がこの弱点を弱点たらしめるためには、高いハードルを乗り越える必要がある。
すなわち、今こうして目前に迫っている、冗談のような大きさの運動エネルギーに、ダメージレースで打ち勝たなければならないのだ。
「そんな大振りが当たるものか!」
「あっそ?じゃ、これでいーや。」
ランス突撃は自機を大きく動かしてしまうと言う短所があるが、揚戸様ほどの熟練者ともなれば、その欠点は攻撃のついでに位置取り調整ができると言う長所に読み替えられる。
私が背後にいなしたチャッピーは、すぐさま反転してグライドブーストを起動し、蹴りかかって来た。
だが予測の範疇!
ダートに蹴り込まれる事だけは避ける!
:はっや!
:おじの動体視力には辛い展開
:スーパーボールみたいやな
スーパーボールか、面白い例えだ。
レギュレーションの都合で強みの飛行能力を封じられた私にとって、敵機のこの跳躍力は中々に辛い物がある。
だが、当たれば致命傷と言う条件は、電磁クローも同じだ。
『ハル、もうすぐ第一コーナーだよ。ドリフト走行に切り替えて。』
最終周の前半が終わる。
マリカは殺し合いではなく、あくまでもレースだ。
揚戸様は、一騎打ちに気を取られて加速チャンスを逃し、むざむざ失点を確実にするような間抜けではない。
一時的にせよ相手の強みの突進力もまた封じられた格好となる。
互いにミニターボの準備をしながらのコンパクトな斬り合いであれば、私の電磁クローが有利。
『ぶった斬れろぉーーーっ!』
:やつざき完全に悪役で草
:メノたそ頑張ぇー
:この悪鬼を打ち倒してくれ…!
じゃかあしい!
勝ちゃ良いんじゃ!勝ちゃあ!
眼前にチャッピーの軽装甲が迫る。
『げっ、ヤバ…!』
平手で払い落とせてしまいそうな細首だ。
4位と言わずピット送りにしてくれる!
電磁クローを下段に構え、頚部を掬い上げるように一閃…
『はいはい、ちょっとごめんなさいね。』
マリカは殺し合いではなく、あくまでもレースだ。
試合は基本的に、レギュレーションに乗っ取ったパーツと、ボックスから手に入る支給アイテムのみによって進行する。
我々自身の持ち込み武装は、最終ラップの賑やかしとして許された、おまけ要素に過ぎない。
いかに私とチャッピーが一騎討ちを宣言した所で、他の走者が使用した支給アイテムの影響を無視できる法は無いのだ。
「2機とも、おどきなさいッ!道を塞ぐな!邪魔くさい!」
無敵バリアに身を包んだ萌葱色の巨体。
左道様のトロンが、もうすぐそこまで迫っている。
チャッピーも跳躍の姿勢を取っていない。
示し合わせた動きではなく、諸共に無理矢理どかして3位に食い込むつもりだ!
『ぬああああ!後ろのこと忘れてた!』
『ほげぇーっ!?まさかヒスイちゃん、私ごと轢く気ぃ!?』
そのまさかが実行された。
私とチャッピーは派手にクラッシュし、コーナーに設けられたダートへと仲良く叩き込まれる。
結果的に、左道様の体当たりが、お嬢様のクローから揚戸様を守った格好だ。
:このタイミングの無敵いちばん嫌や…
:これはしゃーない
:流石にもう逆転チャンスはないかなあ
第三および第四コーナーのミニターボだけでは、もはや首位争いには絡めない。
結局、最後の直線まで大きな順位の変動はなく、第1レースは私たち4期生の不利で幕を閉じた。
現在の総合順位は以下の通りだ。
1位:炎城ホムラ、15pt
2位:米良ルリ子、12pt
3位:左道ヒスイ、9pt
4位:八津咲ネイル、6pt
5位:揚戸メノウ、3pt
6位:附子様ベノミ、0pt
4期生の21ptに対して、2期生は24pt。
第二レースで上位を固めなければ厳しい…!
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