第53話 エキサイトにダッシュする
第一コーナーと第二コーナーの間の直線はごく短く、通り抜けるまでの間にシステムリカバリを終えることは不可能だ。
チャッピーのミニターボを封じるために選んだ襲撃ポイントは、私自身にも等しく牙を剥いている。
予定ではこの隙にロイが先頭に出ているはずだった。
:ぐおお、これ追いつくのきっついぞ
:これぞルリちゃまって感じの展開よな
:4期生流石にキツいかー?
『なにがキツいものでありますか!突撃ーーーッッッ!!!』
不安げなコメント欄を笑い飛ばすかのように、炎城様が鬨の声を上げる。
すぐ背後にロイの反応!
既にトロンは追い抜いている!
「ロイ殿!パルスブースターを引き当てましたか!」
「おうよ!気前よく3回分だぜ!」
支給アイテム、使い捨てパルスブースター。
レース用ブースターからはオミットされているパルスブースト機能を、外付けするための装置だ。
これならダートも助走距離も無視して最短コースを突っ切れる。
『げげっ、炎城ちゃんも来た!ルリちゃま逃げてー』
:きゃー、ロイくゆ〜!
:来た!ロイ来た!これで勝つる!
:ぶっちぎれーーー!!!
加速力の低さと言う重量機の弱点をアイテムで補い、ロイがミーガンを猛追して行く。
第三コーナーまでの直線は我々が有利だ。
しかし、ミーガンもまた、アイテムボックスから獲得した武器で、後続に備えていた。
『ブーストはね〜、移動距離が一定だから狙いやすいんだな、これが。』
スリップゾーン発生装置。
最初に私が盾に使おうとした、低ランクの足止め用アイテムだ。
ミーガンがインコースに置いていったそれを、ロイは迂回して回避せざるを得ない。
直線が終わる。
第三コーナーに差し掛かる。
2連カーブの攻防は、ミニターボ性能の差で中量機の方が有利だ。
再び距離が離れ始める。
:ぬあー手強い
:嫌なタイミングで嫌なとこに置かれたー
私とチャッピーも依然として付かず離れずだ。
お互いが引いた衝撃弾から身を守るために、どちらもそれを前に向かって発射できない。
こちらもこちらで、負けるわけには行かなかった。
3位と4位では、獲得ポイントが3点違うのだ。
「にゃっはははー!2周目おーわり!悪いねぇ後輩ちゃん達〜」
まずいぞ、米良様にリードを許したままファイナルラップだ。
どうにかこの膠着状態を脱却して、ロイの援護に向かわなければ。
:トゲきちゃああああ!
えっ、トゲ?
ふと振り向くと、レース開始直後に私を襲ったトゲ付き衝撃弾が再びすぐ背後に迫っていた。
『うおわっ!あっっっぶな!』
『やっさん避けてぇー!トゲ引いたから即撃ちしたよっ!』
附子島様だ!
順位は依然として6位、順位が低いほど良いアイテムが支給されやすいルールを逆手に取り、援護射撃に徹しているのか。
私とチャッピーが間一髪で避けたトゲ付き衝撃弾は、一切勢いを緩める事なく、先頭グループ2機の元へと突っ込んで行く。
1位の走者を執拗に狙う地獄の猟犬が、今度は先ほどの飼い主である米良様を、無慈悲に追い立てていた。
『ねえぇ〜!3周目でそれは酷くな〜い!?』
ミーガンがクラッシュ!
ロイが再び1回分のパルスブーストを引き当て、1位との距離を埋め切った!
『こりゃー、1位の15点は持ってかれちゃうか。私はここでネイルちゃんを落としといた方が良さそうだね。』
『なにィ?』
お嬢様ガラが悪いです。
チャッピーが私の背後に回り、ホーミング衝撃弾を投げつけて来る。
私が背後に対空させていた反射式衝撃弾が相殺されて消えた。
「ぎゃは!ねぇねぇ、ご主人サマぁ!このコ、チャッピーがヤっちゃって良ーい?ちょー可愛いフェイス〜剥ぎ剥ぎしたーい!」
「は?調子に乗るなよ、曲芸屋が。貴機の顔面崩壊シーンを、グロ好き向けの切り抜きポイントにしてやろうか。」
こう来ると言う事は、次弾を既にアイテムボックスから引き当てているのだろう。
だが、こちらも今しがた2周目のゴールを通過した。
マリオネット・スカーミッシュは3周目からが本番だ!
『滑り込みセーフッ!ハル、斬り払え!』
「はい、お嬢様!」
3周目は、私たちゴーレムが一つだけ持ち込みを許された、本来の武装の使用が解禁される。
レフトアームユニット起動。
非魔力兵器、電磁クロー。
背後から襲い来る2発目の衝撃弾を鉤爪で両断する!
「遅い!」
「だよねっ!だから、本命はこーっちっ!」
振り向きながら正対した私に向かって、チャッピーが真っ直ぐに突っ込んで来る。
無論、無手ではなく、左手に巨大な推進力付きの槍を展開して。
揚戸様と愛機チャッピーの代名詞、ブーストランス。
いいだろう、受けて立ってやる。
一騎討ちだ。
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