第12話 フレイムタン

 恐竜型が再び半身を翻し、長大な尾の一撃を繰り出さんと身構える。

 無論、二度同じ手を食うつもりはない。


 敵機の胴体の角度から尾の軌道を予測し、ブースト跳躍で回避と高度確保を同時に行う。

 すれ違いざまに確認した頭部にカメラアイらしき構造は無し。


 ボウガンで目を射抜いて楽勝、とは行かないようだ。

 逆から言えば視覚センサーは無いか、小さいか、またはカバー越しで鈍い。つまり、メインの索敵手段は音か魔力だろう。


『みんな気づいた?こいつ、目が付いてない。それに、機雷とセット運用するなら、音響センサーもアテにはできないよね。と言う事は~?』


:魔力感知型か!

:あー、そっか、音響かと思ったわ

:ここのガーディアン全体的に魔力兵器めっちゃ警戒してんな


 なるほど、プリズムアイズ対策に積んできたパルスミサイルが思わぬ形で役に立ちそうだ。

試しに3発ほど散らしてみる。


「GGGYYY!」


 尾撃の勢いを利用した頭突きでミサイルが蹴散らされる。

 やはり反応した、囮に使えそうだ。この隙に殴れるか?


『ハル、様子見で足首にボウガン。距離は最低10以上を維持して。』

「承知しました。牽制を行います。」


 尾を振り抜き、慣性を殺さぬまま頭突きに移行してしまった恐竜型は、今この瞬間、背後からの攻撃に対して無防備だ。


 回り込みつつ、右足首のジョイント部を狙って射撃。

 これでグラつけばよし。効果が見込めないなら、リスクを取ってクローを当てに行く必要がある。


「GY?」


:効いてんのか効いてないのか良くわからんね

:格闘武器の方がよくね?

:普通に蹴られるやろ


『蹴ってくるか微妙だなー。相手の姿勢制御装置の性能次第…まあ試してみっか。ハル、クロー構えて距離5まで近づいて。』


 白兵戦にはまだ移らず、フェイントを仕掛けよとのお達しだ。


 カメラのフォーカスを敵機両脚の腿と膝に固定。

 パルスブーストで前方ステップを刻み、飛び掛かるそぶりを見せる。


 その瞬間、高さ6メートルの巨体が信じがたい速さで姿勢を調整し、自重から解放された左足で鋭いバックキックを放って来た。


「GXXYYY!」


『おっとぉ!蹴ってくる方だったか!これはもう剥ぐパーツ決まったね。バランサーはマスト!ここテストに出ま~す。』


 軸足となった右足付近に飛び込むように回避。

 次の尾撃を考えると、クローの間合いは保てない。


 パルスミサイルを散布。

 対処させている間に、再び右足首をハードロックオン。


 距離を離しながら一点集中でオートボウガンを撃ち込む。

 手ごたえ無し。

 埒が開かない。


:こいつ足首めっちゃ硬くね?

:デカいから足元狙われる事は織り込み済みで固めてるんだろうな

:ここの装甲剥いだら高そう


『ちょーっと戦略ミスったかなこれ?ハル、敵の顔もういっぺん確認してみて。』


 お嬢様は慎重に距離を保ちながら、私を敵機の正面側へと移動させる。

 頭部に弱点がある可能性を考慮し、再度その形状を確認せよと言う事だ。


「…開口している?」


 恐竜型の頭部を改めて確認してみると、まるで本当の有機生命体のように、おおきな六角形の口が開いていた。


 なんだこれは?

 まさか本当に燃料供給口と言うわけはあるまい。

 嚙みついて格闘戦を行う機構?いくらなんでも趣味的にすぎる。


 火器の砲口?それこそ論外だ。

 玩具ならいざ知らず、こんな口径の砲身をすっぽり機体内に収めていたら、発射時の衝撃で全身バラバラになるのがオチだろう。


 第一、そんなサイズの弾をどこに…

 弾?

 いや、まて。

 そんなもの、魔力で作ればどうとでも


『ハル!避けて!こいつ純魔力兵器を積んでる!』


 だめだ、間に合わない。

 お嬢様はパルスブーストでの回避動作を既に入力しているが、私の筐体が動くよりも速く、恐竜型はその大口を、巨体に見合った膨大な魔力で、真っ赤に輝かせていた。


 せめてもの抵抗に、カメラアイをハイスピードモードに切り替えて、発射シーケンスをつぶさに観察する。


 弾体は存在しない。

 私の炎精榴弾砲のように魔術で実弾を発射するのではなく、機械に唱えさせた純粋な魔術を発射する武器だ。


 すり鉢状に抉れた六角形の各頂点から、中心部に向かって炎の術が投射され、それらをドーナツ状の結界術が搾り込むように圧縮して行く。


 本来ならば球面波となる爆発の威力を、前方に一点集中する為の機構か。


「ぬぅッ!」


 躱し切れないまでも、せめて一撃での大破だけは避ける。

 今回の探索で得たパーツもできれば持ち帰りたい。


 操縦アシスト権限で、右背部パルスブースト出力を300%まで強制上昇。

 超音速で迫りくる火炎ジェットの影響範囲を、可能な限り抑え込む。


 右腕部は放棄。

 肩がひしゃげて抉れる。

 マニピュレーターが千切れ飛び、外装の赤熱が疑似コアを収めた胸部ユニットまで侵食して来る。

 まずい、火力が高すぎる。


「bgBggGggyYy!!※!◾️?◾️」

『ハルーーーーッッッッ!!!!』


―出力低下

右腕部脱落

ライトアームユニット、ライトショルダーユニット:オフライン

胸部第2サブジェネレーター機能停止

活動限界まであと…

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