第11話 攻城

『ハル!右舷方向にブースト回避!』


 私の復唱を待たずして、お嬢様がパルスブーストを入力する。

 さらに念のため、左肩部から電磁バックラーを展開。


 その直後、白いボールは案の定、大きな音を立てて爆発した。


BOOOOM!


:グワーッ!機雷原!

:ここ何かの組み立てラインだろ、なんで爆発物が置いてあるんだよ

:戦場にでもなってたんじゃね?知らんけど


『それは、めっちゃ有りそう!先史文明って確か、最後は魔力使った戦争で滅びたんでしょ!大崩壊とか言ってボカしてるけどさ!』


 四方八方、機雷はどんどん撃ちあがって来る。全てパルスブーストで避け回っていては、あっと言う間に動力切れだ。


 巡航ブースターを断続的にオンオフし、わざと高度を乱高下させて機雷の近接信管を欺く。


だが、落ちる高度の方が、上昇し直す分より僅かに大きい。

 いつまでもは続けられない。


「お嬢様、機雷は全て私たちの進行方向側から補充されているようです。」

『ね!壁の向こうに立て籠もってる感じするよね。ネイリストはこれ、どうしたら良いと思う?』


:進路上のだけオートボウガンで撃墜しながら突っ切る

:打ち上げ前に地上で爆発させちゃうとか?

:グライドで突っ込む!


 コメント欄に思い思いの解決策が提示される。

 リスナーの中には現役の探索者も混ざっている為、有用な案もあるが、どれも一長一短だ。


 可能な限り被害を抑えて、なるべく無傷で機雷の発送元に殴りこまねばならない。

 お嬢様はもう作戦を決めただろうか?


『はーい、時間切れ!ま、部分点ってとこかなー?正解は、こちらッ!』


 お嬢様は、手近な機雷をボウガンで射貫くと、私をその真下の床目掛けて一直線に降下させた。


 機雷が一定方向から流れて来ると言う事は、つまりそれらを運ぶレーンがあるか、あるいは自走台車の移動ルートが決まっているという事。


 思った通り、一列に並んだ台車の群れを、片っ端からボウガンで射貫く。

 ものの数秒で、爆弾を抱えた大渋滞の出来上がりだ。


 後は先頭の一台をわざと起爆し、後続車に積まれた機雷を誘爆させて処理する。


 黒こげのスクラップで詰まったその列には、もはや新しい機雷は供給されない。

 即席の安全地帯という訳だ。


:ワンミス即死こえぇぇぇ

:これは良い脳トレ

:かしこい


『でっしょ~!こういう事ですよ、こういう事!やつざきの頭脳なめんなよ!』


 とは言え、のんびりはしていられない。

 この2000年の間に、この施設で、この手のトラブルが一度も起こらなかったとは到底思えない。


 ダンジョン側にリカバリ手段がないと想定するのは希望的観測が過ぎるだろう。

 グライドブースト起動。

 ラインの復旧よりも速く、駆け抜ける!


:ふむ、いいね。動きにメリハリがある。


 どうでもいいけど、なんかさっきから後方腕組みしてるリスナーおるな?


 向こう側の壁が近づいて来た。

 飛行レコードから概算して、組み立てラインの全長は1キロメートル近くあったようだ。


 流石にこのまま機雷台車を吐き出すスリットに突入する勇気は私にはない。

 部材の搬入口だったと思われる大きなシャッターを電磁クローで引っぺがし、中に飛び込む。

警告!


『ハル、バックブースト!』


「GGGGGYYYYY!!!!」


 間一髪、私が飛び込もうとしていた空間を舐める様に、巨大な鋼の尾が一閃する。


 その持ち主は…二足歩行の肉食恐竜?

 体高約6メートル。

 復元図でしか知らないが、太古の有機生命体ティラノサウルスのような姿だ。


:え、なにこれ

:知らんガーディアン出て来た

:少なくともウォッチャーじゃないのは分かる


『恐竜型?初めて見るんだけど、配備位置から言って、多分ディフェンダーだよね。距離を…』


 言いながら、お嬢様はチラリを後方を確認する。

 依然として機雷は組み立てラインを埋め尽くすように供給され続けている。

 飛んで逃げるのは自殺行為か。


『はいはい、取れないね!いやーな配置!』

「同感です。」


 かくなる上は、覚悟を決めるしかあるまい。

 この体格差でインファイトとは、まったくウンザリさせられる!


:フレイムタン、ここにも配備されていたか。さて、どう対処する?


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