第10話 イズミール深度500

:ノーダメきちゃ!

:あー、なるほどバックラーか

:バックラー高騰の予感


 私たちの提示したサーベルトゥース攻略法にネイリスト達も沸いている。


:シールドを武器にするとは、面白い事を考えるね


『でっしょ~!やつざき、これ思いついた時は天下取ったと思ったよね。顔面はあんまレアなパーツ使ってないから、潰しても心が痛まないし。』


:ナチュラルサイコ発言やめーやwww

:金の亡者やつざき

:地獄の鬼は地上から通勤していた…?


 散々な言われようだ。

 お嬢様はその強さ故に、もっとも利潤が大きくなるよう戦い方を選り好みできるため、傍から見ると守銭奴じみて映るらしい。


 素人の浅知恵と喝破してやりたい所だが、お嬢様ご自身がこれを配信者としてのキャラ付けに活用する方針なので、私からは何も言わないでおく。


『ぐへへへ、カネじゃカネじゃ。おらっ!ジャンプしてみろや!もっと持ってんだろォん?』

「お嬢様、あまり剥いでも運搬手段がありませんよ。一個だけにして下さい。」


 なにしろ未探査ダンジョンだ。

 納品トロッコも、我々が今居るような深度ではまだ敷設されていない。


 この筐体のささやかなカーゴスペースに格納できる物量が、私たちがイズミールから一度に持ち帰れる成果の上限だった。


 それもあって、我々攻略組は、足を止めての狩りよりも、トロッコを通す為のルート開拓を優先するのだ。

 この辺りは協会にうまく乗せられている感もある。


『チッ、しゃーねーな。この足首のアクチュエーターだけで勘弁してやるか。まだレアだから、今でも10万くらいは行くっしょ。ハル、敵はしばらく居ないはずだから、剥いだらそのまま深度500まで強速前進ね。』

「承知しました。このパーツ、けっこう大きいですね…」


 照明の電源が既に死んでいるのか、複層構造の倉庫を抜けた先は、光の途切れた闇の世界だった。

 ある程度探索が進み、安全が確保出来れば、探索者協会が照明を設置するだろうが、それは当分先の話だ。


 深度500。

 前回攻略時は、ここに辿り着いた時点で武器弾薬が底をついており、なにも調べられないまま地上への引き上げを余儀なくされた。


 ここから先は他の探索者からの報告も上がっていない未知の領域だ。慎重に進まなければ。


「お嬢様、投光器の使用許可を頂けますでしょうか?」

『うーん、そうだね…この環境でアクティブになってる機種なら、暗視機能くらい標準装備してるか。点けちゃって。』


 お嬢様の読み通りなら、光を出さない事で、こちらだけ一方的に不利を背負う危険性が高い。

 許可が出たので、さっそく頭部と胸部から投光器を展開する。


 それなりに光量のあるランプを採用しているのだが、それでも向こう側の壁までは届かなかった。

 天井は高く、飛行に支障は無し。


 ぐるりと周囲を見渡したところ、恐らく何らかの機械製品の組み立てラインだったと思われる、ベルトコンベアのジャングルが広がっている。


 施設維持ワーカーの巡回は止まっていないのか、風化の跡は残っておらず、当面倒壊のリスクはなさそうだ。


 その代わり、原形を保った工作機械はどれも背が高く、物陰にウォッチャーが潜んでいる可能性を常に警戒せざるを得ない。


:うっわ、死角の塊やん

:これしらみつぶしに確認して進むの大変そう

:やつざき、どうすんの?


『そだねー、とりあえず高度15くらいで真っすぐ端まで飛んでみよっか。』


:えっ


「えっ」


 えっ、何言ってんのこの人?

 そんなんしたら下から丸見えじゃん。一発で敵に見つかるわ。


『いいんだよ見つかっても。ここにどんな仕掛けがあるのか、動かして調べるのが一番早いでしょ。天井は高いから、最悪敵に囲まれても逃げ場には不自由しないし。威力偵察っちゅーやつよ。』


 お嬢様の野郎!サラッと無茶言いよる!

 だがまあ、さっさと敵に手の内を吐き出させたいという点だけは同意だ。


 我々は、このダンジョンを使用しに来たのではなく、攻略しに来たのだから。


 投光器を前方下側に向けながら、グライドブーストで高速移動を試みる。

 入口から50メートル、100メートル、200メートル…


 450メートルを過ぎた頃、不意にシュポンと音が鳴り、私の目の前に真っ白いボールのような物体が飛び上がって来た。

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