第8話 イズミール深度400
通路が終わり、再び視界が大きく開ける。
ここはかつての倉庫だろうか。
イズミール・ダンジョンも深度400からは、パラソルウィングの配備数がグッと少なくなる。
代わりに姿を見せ始めるのは、このエリアの主要ウォッチャーであるプリズムアイズだ。
音響センサーではなく、視覚と連動した魔力センサーで索敵を行う、このフクロウ型のガーディアンは、おそらく当時の最先端技術の産物だったのだろう。
お嬢様が私にわざわざ非魔力式の内装や武器を装備させている理由がここにある。
『この深度帯からは、魔力反応を探知する鳥みたいなウォッチャーがワラワラ出て来ます。みんなも普段はなるべく、かさばらない魔力式の武器を使いたいと思うんだけど、イズミールに限っては非推奨。やつざきもそれでボコボコにされた。』
「お嬢様でなく私がですけどね。前方に敵影。」
早速1機おいでなすった。
ハイデラバードで訓練したオートボウガン捌きを見せる時だ。
「『みだりに尖った物を人に向けてはいけません』!」
:それはそう
:説得力よ
:これはただのボウガンじゃ…
敵機の視覚センサーの死角からジリジリと接近した後、視界に入ると同時に、魔力を伴わない射撃を2発撃ち込む。
プリズムアイズは厄介な相手だが、機体サイズをコンパクトに収めるために、動作中枢がカメラアイと直結しているという構造上の脆弱性を抱えている。
対処法さえ知っていれば鎧袖一触だ。
センサーユニットは破壊せざるを得ないので、次善の策としてコンパクトかつ高性能なグラフィックボードを拾っておく。
なるべく真正面からボルトを打ち込み、側頭部を傷つけないのが破損させないコツだ。
『おけおけ!練習の成果が出たね~!こいつのグラボは需要が高いから、いい値段付くんだわ。ボルト2本で8000うめうめ!』
:ほう、やるじゃないか
「恐れ入ります。」
ふふふ、もっと褒めてもいいのよネイリスト諸君。
これがうちのお嬢様の実力だ。
倉庫エリアを抜け、破損した昇降機跡から更に下を目指す。
途中何度かプリズムアイズに遭遇するが、いずれも難なく対処した。
問題はこの先だ。
今回選択した暫定ルートは、多少の遠回りと引き換えにガーディアンとの遭遇を極力避けているのだが、それでもここで必ず1度は、アタッカーカテゴリの重点警戒エリアを通過することになる。
より安全なルートが存在するのかもしれないが、残念ながらそれは未だ発見されていない。
ここで確実に発生する戦闘をいかに無傷で乗り越えるかが、深度500以降の探索の成否を決める鍵なのだ。
『そろそろ例のサーベルトゥースの縄張りだね。何度か挑戦して分かったんだけど、あいつ速過ぎて機動戦はあんま安定しないっぽい。』
:へー
:速さ勝負はしちゃだめなのね
:まあ、見るからに相手の土俵だもんなー
サーベルトゥース。
確認個体数が少なく、破壊後の再生産間隔も長いため、あまり研究が進んでいないガーディアンだ。
大型のネコ科動物を思わせる四足歩行型で、とにかく瞬発力が高い。
私たちの目下の関心は、この機種への安定した対処法を確立する事にある。
速度と重量を兼ね備えた突進攻撃は、電磁クローの手振りで打ち払えるような代物ではなく、かといって、回避に専念しながら散発的に飛び道具を撃ったのでは、リソースを消費しすぎて後が続かない。
その手でここを切り抜けられたとしても、無補給での探索続行はほぼ不可能だ。
正攻法の対処としては、重量級フレームの積載量をなるべく装甲に割き、自ら近づいてくる敵を格闘の間合いで制するべきなのだろう。
だが、今日の私たちにはもう一つ、試してみたいアイディアがあった。
「敵影1。お嬢様、間もなくサーベルトゥースと接敵します。」
:ついに来たか
:毎回ここでボロボロになるもんな
:ハルやんがんばぇ~
コメント欄が応援で埋まる。
このポイントの攻略法確立は、B級勢にとっても悲願だ。
お嬢様がスティックを押し込み、グライドブーストを入力する。
先手必勝だ。
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