第44話 ボーパール下層
緑の立体迷路は、層状に折り重なった蔦のネットの集合体だ。
当然、下へと進むにつれて、だんだん照明は遮られ、届かなくなって行く。
一方、蔦の成長速度の問題か、天井は徐々に高くなって行った。
最上部からもう10階は下りただろうか?
今や辺りはすっかり暗闇に包まれた、それなりの広さの空間と化している。
「お嬢様、投光器の使用許可を頂けますでしょうか?」
『そろそろ欲しいね。どうかな、ヴィオちゃん?明かりつけて大丈夫?』
私はお嬢様に、お嬢様はボルヘス様に、それぞれお伺いを立てる。
生体ガーディアンの習性に関しては、ボルヘス様だけが頼りだ。
『うーん微妙。走光性は無いはずだけど、光その物は認識してるから、あんまり目立つと呼び寄せちゃうかも。ひとまず照らすのは足元だけにしといて。』
専門家の指示にしたがい、ロービームで私の筐体のランプのみ点灯する。
イヴとはぐれないように気を付けねば。
「イヴ殿、念の為にこちらを。」
「これは…紐か?」
私がイヴに渡したのは、ダンジョン産ハイパワーゴムで出来た紐だ。
この間の炎城様の配信を見て閃いたのだが、このゴムはパワーだけでなく、そのパワーで断裂しないだけの機械的強度も大きな利点だと言える。
ガスで視界が悪化した時に備えて、命綱代わりに借りて来た物だが、使うなら今だろう。
「両端にゆるく輪を作って、お互いの左腕部を繋いでおきましょう。はぐれそうになった際に、紐の抵抗で感知できるはずです。」
しげしげと紐を眺めていたイヴは、得心が行ったのか、素直に輪を結んで紐を手に掛けた。
私も合わせて長さを見ながら、同様に輪を作る。
長すぎれば機能せず、短すぎれば動きが制限されてしまうので、匙加減が重要だ。
一体何が面白いのか、イヴはしきりに私と繋がったゴム紐を気にしている。
「良い塩梅だ。貴機は気が利くな。」
「恐れ入ります。」
あざっす。
私、今回割と良いとこ無しなんで、頑張って挽回して行く所存です。
私とイヴは、互いの腕同士を紐で繋いだまま、暗がりを進む。
戦闘になったら即座に手放してシールドを使えるよう、私は腕ではなく、手でゴム紐の輪を持っている。
イヴも同様のようだ。
慣れない体同士、思うところは同じか。
地下10階ともなると、上の方の階に比べて、随分と道がクネクネ曲がりくねっている。
ゴーレムには防犯用の移動ログ自動記録機能があるため、そうそう迷うような事は無いが、この無意味な方向転換の多さには流石に辟易した。
なんら設計上の意図を感じさせない、無秩序な部屋と廊下の羅列は、さながらフロア全体の間取りがランダムに生成されているかのようだ。
…む?
「なにか擦れ合うような音が聞こえます。敵性生命体やも知れません。」
音響センサーに意識を集中する。
どうも今いる部屋から通路を隔てた1ブロック先に、大きく開けた空間があるらしい。
不審な物音はその中からだった。
『この先に大部屋があるみたいだね。慎重に近づいてみて。ハウスかも知れない。』
ハウスとは、この手のローグ様化ダンジョンに稀に発生する構造で、ガーディアンが通常の配備規則を無視して大量に常駐している、いわば連中のアウトポストだ。
いつものセッティングならいざ知らず、この殲滅速度の欠片もない体で踏み込みたくはないが…
「ハル、罠だ!」
珍しく焦った声と共に、イヴと繋いだ左手が強く引かれた。
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