第43話 不思議な古代遺跡
2人と2機でひーこら言いながら、ようやく深度100まで到達した。
ボーパールは、風化せずに現存しているのが不思議なほど小規模なダンジョンで、最新部でも深度は200程度だ。
どうにかこうにか半分まで来た計算になる。
しかし、そんな私たちの前に、またしても頭痛の種が突きつけられる事となった。
『うっわ最悪…こっから先ぜんぶローグ
『げっ、マジ?』
ローグ様化とは、何らかの要因でダンジョン内の構造が一定しなくなってしまい、長期的に有効なマップデータが作成不可能になる現象を指す。
通常は施設維持ワーカーの動作異常によって引き起こされる事が多いが、今回に限っては当然、原因は例の魔法生物である。
「「「てけり・り」」」
覗き込んだ階段の先は、見渡す限りの蔦・蔦・蔦。
壁も床も手すりさえも、ビッシリと枯れたような茶色に覆われており、人工物は一切見えない。
いやまあ、この植物は恐らく人工的に作り出された種なのだろうが、それはそれとして。
あくまでも材質の問題ね?
本来であれば50メートルほどの高さがあるはずの広大な空間を下る階段は、ほんの2メートルばかりの所で、蔦で出来た床に埋まっており、その下の様子は窺い知れない。
ようは魔法生物の体によって、本来存在しなかったはずの新たな階層が形成されてしまっているのだ。
これは先に進んで大丈夫なのだろうか?
『ハルちゃん、イヴ、ゆっくり慎重に近付いてみて。見た目通りにリグニン沈着が進んでるなら、運動能力は喪失してるはず。』
えー本当に?大丈夫なのこれ?
まあ、専門家が言うなら信じよう。
引き続きシールドのある私がポイントマンを勤める。
ギシギシと軋む分厚いハンモックのような足場を、そろりそろりと徒歩で進んで行く。
天井の高さは浅層と大差ない。
本来であれば、この深度からはブースターで飛行移動できるはずだったのに、とんだ誤算だ。
「前方に敵だ。数は1。やや大きい。」
「了解!」
うぬぬ、また索敵をイヴに頼ってしまった。
蔦の廊下の向こうからノソノソと現れたのは、ズングリとした胴体に平べったい蕾の嘴を持ったガーディアン。
『あ、ワイルドハギスだ。食用になるやつ。』
「ハギスってガーディアンの肉だったんですか!?」
まさかの食用ガーディアンであった。
考えた事もなかったが、まあ機械生命体である私たちゴーレムも、ガーディアン由来の部品を筐体に組み込んだりするので、有機生命体が有機物で構成された生体ガーディアンを摂取しても、別におかしくはない…のか?
釈然としないが、まあやる事は変わらない。
敵性生命体がフックのように左右から伸ばして来た蔦を、ヒートブレードでリズミカルに切り払う。
遅いが使えはするパルスブーストで接近。
両手の爪の連撃をシールドで受け止め、飛び掛かりを誘って顔面を盾でパリィする。
使い慣れた電磁クローほど速くは振れないが、まあ要領は同じだ。
お嬢様の反射神経なら、やってやれない事はない。
「援護する。」
短い宣言に続いてイヴのブラスターから氷の槍が撃ち出された。
潤沢な水分を強く圧縮し、硬度と質量を兼ね備えさせた、即席の徹甲弾だ。
幸い水の供給源は周囲にワシャワシャ生えているので、その威力に妥協はない。
イヴの狙撃は、私が殴って横を向かせた首の付け根に過たず着弾し、ワイルドハギスの頭部を切り飛ばした。
「て!け、り…!」
「お見事です、イヴ殿。」
傷口からドロリと濃厚な金色の蜜を垂らして、ワイルドハギスが絶命する。
この蜜の色も地脈湧出の影響を受けた結果なのだろうか?
食用になるとの事だが、お土産に持って帰るのはやめた方が良さそうだ。
体内の魔力センサーが危険を告げている。
そうでなくとも有害ガスをたっぷり浴びているはずなので、お嬢様の口には入れたくない。
それにしても、さっきからイヴに索敵を押しつけっぱなしだな。
私が前衛なのに情けなや。
「面目ない。私が筐体の索敵性能を補う術を持たないばかりに、ご負担をおかけします。」
流石に申し訳ないのでひと言謝っておく。
が、イヴは別段気にした風でもなくそれをサラリと流した。
「構わぬ。貴機にはいつも守られてばかりだ。こうして借りを返す機会に恵まれ、某は誇らしい。」
き、気を使われている…!
もうやだ!居た堪れない!
穴があったら入りたい!
「ハル、前方に落とし穴だ。注意せよ。」
「えっ?」
イヴの言う通り、踏み込んだ部屋のど真ん中に、何の脈絡も無くまん丸な穴が空いている。
なんだこれは。
私はダンジョンに化かされているのか?
「蔦の床に、丸い穴だと?お嬢様、いかがいたしましょう?」
調べるか否か、一応お伺いを立ててみると、お嬢様の代わりにボルヘス様の声で返事が帰ってきた。
『あー、代わりにあたしが答えるよ。それはこの巣の中を生体ガーディアンが行き来するための通路。あたしたちにとっては、次の階層に降りるための入口だね。そのまま進んで。』
なるほど、生体ガーディアン達は、こうやって空間を立体的に活用しているのか。
何かと勉強になる一日だ。
「それでは、引き続き私が先行します。イヴ殿、足元にお気をつけ下さい。」
「心得た。貴機について行こう。」
ここまで体の性能が低いと、一種の縛りプレイみたいで逆にテンション上がって来たな。
もう開き直って、大破しない程度に不便を楽しんだ方が、いっそ健全かもしれない。
全部で何階あるとも知れぬ、植物製の集合住宅を、まずは屋上から最上階まで、一段下に降りて行く。
天井で煌々と輝く擬似太陽光の照明が、蔦の網を通して、少しだけ和らいだ。
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