第86話 破られたルール
挨拶がわりに5発、電磁加速したボルトを熊型の頭部に叩き込む。
この距離で回避できるだけの機動力は敵機には無いと見える。
勝負ありだ。
確かに私の白兵戦技術はお嬢様には及ばないが、その代わり自律行動中は通信ラグを無視できる。
こんな愚図に遅れを取る道理がない。
「邪魔だ、ウスノロ。」
パルスブーストを起動。
荷台に覆い被さったデカブツの顔面を突進からシームレスに蹴り飛ばす。
この程度の動きなら私1人でも十分可能だ。
『ハル、予定変更!避難シェルターじゃなく、このままガレージに向かう!そいつを抑えておいて!』
お嬢様から通信。
ロイとイヴの探査用筐体は、ここから約300メートル先のガレージの中か。
地下から迷い出たガーディアンがこれ1機とは限らない。
確かに頭数の確保は優先的に行う必要があるだろう。
『承知いたしました。敵機を沈黙させて合流します。』
荷台から蹴落とした熊型に対峙する。
急所を潰すには長い手足が邪魔だな。
レフトアームユニットを機動。
電磁クロー、最大出力。
まずは、さっき私を殴った右腕だ。
指先から寸刻みにしてやる。
――――――――――――――――――
『ヴィオちゃん、ディアち!イヴちゃん達の起動、ここからできる?』
「やってみます!けど、ガレージのスタッフさんが避難してたら、ハンガーの固定を解除する手段が…」
通信越しに叫び合う人間たちをぼんやりと見上げながら、
この肉体はアルウェンが所有するいくつかの顔の中の一つだ。
ゴールデンドーン社の調査拠点にアルバイトとして潜入し、同社のエフタル遺跡群調査プロジェクトが人間社会に危険を及ぼさないよう、監視を行っていた。
そこに、つい先日要注意リストに加わったHAL-777が訪れたのは、単なる偶然に過ぎない。
ならば、今起きているこのガーディアンの異常行動も、単なる偶然なのだろうか?
キナ臭さばかりが増していく状況に頭を抱えながら、アルウェンは今浮かべるべき表情を取捨選択した。
「ケホッ…わ、私それ出来ます。バイトですけど、オペレーターの講習は受けてるので…」
「あなた…起きて大丈夫なの?」
大義そうに身を起こした、名も知れぬ負傷者の申し出にどう答えるべきか、ヴィオレッタは逡巡する。
渡りに船ではあるが、ついさっきガーディアンに襲われて死にかけた人間に、そのような負担をかけて良いものか?
隣のレディアも、運転席のヒカリも、答えを返しあぐねている。
だが、そんな彼女たちの葛藤を、状況は待ってはくれない。
『第2区画および第4区画に不明機体出現!繰り返す、第2区画および第4区画に不明機体出現!非武装職員はただちに最寄シェルターに退避せよ!』
警報が更なるガーディアンの出現を告げる。
やはり、異常行動を起こしているのは、先ほどの熊型1機だけではなかったのだ。
このベースキャンプに武装職員が何人配置されているのか定かではないが、ガーディアン相手の戦闘ならば、やはり探索ゴーレムによる鎮圧が最も効果的だろう。
ヴィオレッタはそう判断し、リーダーとして責任を負う覚悟を決めた。
「ごめんなさい、あなたの力を貸して。私はゴールデンドーン社専属契約探索者のヴィオレッタ・ボルヘスです。あなたは?」
「リヴ・タイラーと申します。よろしくお願いします。」
あちこちに打撲痕が残るタイラーの痛々しい姿に、ヴィオレッタは顔を曇らせる。
こんな状態の人間を働かせて本当に大丈夫だろうか?
まして危険な大型機械のすぐ側で。
胸は痛むが、現実として他に選択肢は無い。
とにかく今は可及的速やかに、この事態を収拾しなければ。
「分かりました。タイラーさん、お力添えお願いします。」
トラックがガレージに到着した。
案の定、既に中に人の気配はない。
どちらにせよヴィオレッタは、このリヴ・タイラーなる人物を当てにせざるを得ないのだ。
幸い、イヴとロイのリンケージは遠隔起動で確立出来ている。
あとは、機体の固定をどうにかするだけだ。
――――――――――――――――――
右背部パルスブーストを噴かし、先ほど隻腕にしてやった熊型の死角に入り込む。
私がそうされたように、反撃手段が無い所を一方的に狩ってやる。
『ハル!他の2人のゴーレムも発進できた!こっちはトラックで第4区に向かうから、そいつを片付けたら隣の第2区をお願い!』
そら、急がなければならない理由が出来た。
お嬢様からのご命令だ、死に体のガラクタにはとっとと退場して貰うとしよう。
「gGgg…hrrr」
右腕部を欠いた敵機は、もう4足歩行での高速移動が出来ない。
パルスブースト起動。
二本足でノタノタと後ずさるウドの大木に詰め寄り、電磁クローを突き立てる。
右脇腹の装甲の継ぎ目に一撃。
跳び上がりながら右目に一撃。
そのままブーストを噴かして宙返りし、苦し紛れに振られた左腕部を躱しながら、喉元に一撃。
「腑分けのために原型は残してやる。感謝して死ね。」
頸部フレームを焼き切りながら、手首を捻って首を引きちぎる。
これが、誉れ高き
思い知ったか。
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