第30話 第1暫定ルート②

『あはははwwwほんとにー?やっさんもホムちも派手にやってんねーwww』


:ここは平和なベノミ村

:第1ルートは静かや…

:箸休めにはこれくらいが丁度いいよ


 箸休め、と言う表現はいささか不躾だが、それがリスナー達の偽らざる本音だろう。


 何かと派手な第2・第3ルートに対して、第1ルートはゴールが存在する保証もない迷路をひたすら進む事になるため、どうしても絵面が地味になりがちだ。


 結果として、再び覗きに来た附子島様のチャンネルは、作業配信や雑談配信に近い状況となっていた。


 探索者リスナーや、以前からのファンはともかく、せっかく来てくれた新規層に爪痕を残せないのは勿体無いな。


『ホムちは第2ルートのだいぶ奥の方まで進んでるんだっけ?』


:言うて深度450

:駅候補地はいっこ見つけてたよね

:イズミール広いけど、深さはそんなでもないっぽい?


炎城様は第四資材倉庫を無事に抜けた後、部材製造ラインに突入したらしい。

そこでも相変わらず派手な激戦を繰り広げているようだ。

あの人、配信外の普段の狩りはどうしてるんだろう?


『やっさんは何か目立った動きあったかな?最初にでっかいの狩ってたのは見たけど。』


:なんか珍しい機種グチャグチャにしてたらしい

:相変わらずR18Gやってる

:土曜日の昼に流しちゃいけない映像流れてた


…えっ?そんなにグロかった?

 お嬢様の配信だと平常運転なのだが、ベノ民にはいささか刺激が強かったか。


 新規向けに、もう少しビジュアルがマイルドな戦い方を提案した方が良いのやも知れん。

 附子島様の心配をしている場合ではなくなって来たぞ。


『ぶっほwww確かにこれはグロ注意www2人ともキャラ濃いよねぇ。附子島も、もうちょいはっちゃけた方が良いのかな…ん?』

「いかがされましたか、主様?」


 不意に附子島様が足を止め、来た道を振り返った。

 ビーコン代わりに設置された、多目的タレットの冷たい光が一定間隔で暗闇に浮かび上がり、まるで夜空の星座のようだ。


:あら綺麗

:幻想的や…

:ビジュアルは優勝


 コメント欄もほっこりしている。

 しかし、附子島様が足を止めた理由は、それではなかった。


『附子島たち、今この辺りのフロアを登ったり降りたりしながら探ってるんだけど、どの深度でもこの一角だけ、ダクトが避けて通ってない?』


 配信画面にビーコンによってマッピングされた、第一ルートの概略図が表示される。


 通気ダクトや点検口を出入りして、複数階を行き来するルートだが、言われてみれば確かに、ポッカリと四角形の空白らしきものが見てとれた。


:吹き抜けになってるって事?

:エレベーター通ってるって言われたら、まあ…


『そう言う事。気のせいかとも思ったんだけど、やっさんから貰った配線予想図を、ここに重ね合わせると…』


 なんと!二つ重ねるとハッキリ分かる。

 この吹き抜けらしき構造の上にある配線の塊は、恐らくエレベーターの機械室だ。


:あー、こうすると分かり易い

:すげえええマジで直通ルートだ

:え、イズミール踏破の目処立ったってマジ?


 にわかに番狂せを匂わせ始めた配信に、同時接続数も増加傾向を示す。

 図らずも、お嬢様が贈った塩が、配信の味付けになった格好だ。

 それも、恐ろしく濃厚な。


『それじゃ、答え合わせしに行きましょうか!イヴ、付近の開口部を探して。』

「御意。なれば、アレを追うが得策かと。」


 イヴが見つめる先には複数機のウォッチャーがたむろしている。

 エレベーターにおける開口部とは、つまり人間が乗り降りするための昇降口だ。


 このダンジョンがかつての戦場であるなら、当然そこは重点警備対象だろう。

 イヴは右腕に手裏剣の束を差し込み、左手にスタンクナイを構えた。


「いざ、参る。」


 隠密特化のイヴであれば、この状況は物の数ではないだろう。

 第1ルートの踏破は時間の問題だ。


 もうトロッコの延伸どころの話ではない。

 急ぎお嬢様に報告せねば!

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