第21話 ハイデラバード最深部
前方距離400に敵影3。
巡回範囲の広いアタッカーカテゴリとは、ウォッチャーの処理手順にミスがなくとも、遭遇を避けられないケースがままある。
このエリアにこんな小規模で展開していると言う事は、遊撃部隊のニードルファングか。
地上で言う狼のような姿をした、姿勢の低い高機動タイプのガーディアンだ。
恐らく、これが道中で最後の戦闘となるだろう。
「増援を呼ぶ機種ではない。某が数を減らしておこう。」
イヴは独り言のように呟きながら右拳を握り締め、手甲に設けられたスリット内で手裏剣を高速回転させた。
驚くほど静かな駆動音に続き、カァンと音の壁をブチ抜く音が響き渡る。
敵反応、残り2。
「残り2機は私がまとめて始末します。ロイ殿は弾薬を節約してください。」
「おっと、そうかい?火力が欲しくなったら、いつでも言ってくれよ。」
ロイの過剰火力が恋しくなるような事態は、なるべく避けたい所だ。
グライドブーストで突っ込み、手前の一体に斬りかかる。
地に伏せた姿勢の敵機は当然、四肢を伸ばして跳ね上がってくるので、上から押さえつける様に攻撃せざるを得ない。
狼で言う寛骨に当たる部位のサスペンションモジュールは、衝撃でバラバラだ。
約1000クラウン分の損失。
続けてもう一機。
パルスブーストの推力を斬殺の動力に当てて、横なぎに一閃する。
間合いを調整して顔面だけを狙う暇はない。
上半身を丸ごと抉り抜いて、クランクシャフトを叩き折る
これも回収できていれば500クラウン程度にはなったが、致し方ない。
『ぐぬっ…うぅぅぅぅ…もったいない…もったいないよぉぉ…!』
いや、泣かんでもろて。
ご丁寧にアバターの表情まで変えてあーた…
本件は探索者協会からの正式な依頼なので、一応経費は出る。
よって、道中で小銭を拾わなくとも、最悪赤字の心配はない。
お嬢様のコレは、日ごろの配信方針から来る職業病のようなものだ。
こう言った面のすり合わせも今後の課題だな。
まあ、ともあれ、まもなく深度1200。
あと2ブロックで目的地のメインジェネレーター室だ。
周辺を巡回しているガーディアンは既に全滅させたので、ひとまずの安全は確保できている。
突入前に一旦立ち止まって作戦会議をしておきたい。
「まもなく最深部です。お嬢様、いかがいたしましょう?」
『ハイデラのボスって言うと、確かサンダースケイルだっけ。あんまり狩った事ないけど、接近戦主体で戦うのは避けたいかなー』
サンダースケイル。
半魔力兵器の雷精ショックアーマーを装備した、全長20m級の超大型ディフェンダーだ。
中生代に居た竜脚類恐竜がモデルと考えられており、単純にバカでかい胴体で出入り口を封鎖しつつ、長い首と尾で侵入者を追い払う事を役目としている。
ショックアーマーは体表に高圧電流を流して、敵の接近を阻む防御機構であり、射程は皆無だがオンオフの切り替えがとにかく速い。
不用意に電磁クローを当てに行くと、大概これで反撃を差し込まれて、酷い事になる。なった。何回も。
『露出しているタングステン電極はともかく、体表付近を走っているケーブルが熱に弱いはずであります!まずはロイに火責めを行わせ、防御を剥がすべきかと!』
「まっかせなさーい!爆雷もあるぜっ!」
ほんと隙あらば燃やしたがるな!この主従は!
面接で見せられた切り抜きと大分印象が違うぞ、大丈夫かこの人たち?
『火責めは良いけど、サンダースケイルはフレイムタンの倍以上の大きさだよ?速攻じゃ絶対に熱量が足りないんだから、まず安全な攻撃チャンスを確保しなきゃ。イヴにタレットを設置させて、ジャマーで動きを鈍らせましょう。』
「御意。」
イヴが短く返答する。
まとめると、まず附子島様がイヴに搭載された多目的タレットを中継して、敵機の運動機能にジャミングをかける。
それが効いている間に、炎城様がロイの最大火力をぶつけて、ショックアーマーに耐熱限界を超えた負荷をかけ、これを破壊。
そうして防御機構を奪った後に、お嬢様が最大の威力をもつ私の電磁クローを用いて、敵機を機能停止に追い込むと言う流れだ。
お嬢様の大切なデビュー前の肩慣らし、どうにか幸先のいいスタートを切りたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます