第20話 初めての共同作業

「…そこまでお引き立て頂いたのでは、無下にはできませんね。荒事ばかりが得意な未熟者ではございますが、どうぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。」


 そう答えて、お嬢様は優雅にスカートをつまみ上げ、一礼した。

 何とも芝居がかった仕草だが、なかなか様になっている。


 合否など、もはや考えるまでもあるまい。

 今しがた炎城様の実力を見て確信した。

 これほどの怪物達と並び立てる戦士は、お嬢様をおいてほかに居ないと。


「よかったぁー!これからよろしくね、アシヤさん!社長!これであたしたちドリームチームですよっ!」


 ボルヘス様が嬉しそうにはしゃいでいる。

 クロウリー社長も、どこか安堵した表情で緊張を緩めていた。

 この面接、やはり選ぶ側だったのはお嬢様か。


 もっとも、当の本人は、憧れの附子島べノミ様の同僚と言う立場にすっかり舞い上がっているわけだが。


「ん゛っっふゥ!!生ベノちゃん…ッ!中の人もめっちゃ可愛ぇ…!!」


「えー?やっさんこそ!魂までそんなクールビューティーさんだったなんて!おかげで、ますます推しになっちゃいましたよぉ!」


 知らぬ者が見れば美女2人のじゃれ合いと映るのだろうが、その実態は、限界化したキモオタ2人の相互成分摂取である。

 あな恐ろしや。


 結果はもちろん即日採用。

 そして後日、お嬢様とボルヘス様、そして炎城ホムラことレディア・ホーエンハイム様の3名で、デビュー前の顔合わせと相性の確認を兼ねて、合同ミッションを執り行う運びとなったのである。


――――――――――――――――――


 以上、回想シーン終わり!

 そして、その結果がこれだよ!


『突撃ーーーッ!!ダンジョンの秩序を乱す者は皆殺しであります!!』


『あ゛あ゛あ゛あああ!ホムラちゃん!火は!火はやめて!パーツが!カネがぁぁーーっ!』


『まあまあ、やっさんwww今回はホムちスタイルが正しいよ。配信本番だと尺もあるし、巻き進行にも慣れとかないと。』


 なんやこいつら。

 配信外でやっておいて本当に良かった。

 なお、今回の探索は本番環境に近づけるために、事務所近くの安スタジオを借りて行われており、この狂騒は薄壁一枚隔てて世間様に垂れ流されている事をここに明記しておく。


 今さらながら説明すると、今回お嬢様たちが取り組んでいる合同ミッションは、探査済みダンジョンであるハイデラバードの、最深部メインジェネレーター室前に陣取っている、大型特務ガーディアンの排除だ。


 俗にボスと呼ばれる、これらの特務ガーディアンは、ダンジョンの心臓部を外敵から守る最後の砦、文字通りの守護者なのだが、なにぶんその外敵の中には人類や我々ゴーレムも含まれているので、放置しておくとちょっと困った事になる。


 と言うのも、メインジェネレーター室に立ち入れないとなると、メンテナンスが完全に自律プラント産の施設維持ワーカー頼みになってしまうため、ダンジョンのお手入れが行き届かなくなるのだ。


 故に、定期メンテナンスの時期には毎回、こうして誰かが危険を承知で、協会が発行する特務ガーディアンの間引き依頼を引き受けなければならない。

 貴重なダンジョン資源を未来の世代に残す為にも必要な作業だ。


 もともと複数名合同で行うことが前提の高難易度ミッションだが、だからこそ連携の慣らしにはうってつけと言う判断だった。


「お嬢様、間もなく深度1000付近のソーサーヘッド巡回エリアに到達いたします。いかがいたしましょう?」


『うぅぅ、コンデンサー…5機分で1万5000…』

『は、また今度。ハルちゃん、イヴが援護するから手早く制圧して。』


 お嬢様は何か言いたげだが、附子島様に諫められて引っ込めた。

 まるで叱られた大型犬のようだ。


 まあ、3D活動を見据えて、中の人のスケールに合わせてあるので、実際には附子島様のアバターの方がお嬢様より少し背が高いのだが…


 附子島様の愛機EVE-a113は、右前腕部に固定式の電磁加速式手裏剣投射機スナイパーシュリケンをマウントした、遠距離狙撃重視のセッティングだ。


 普段は両肩部に装備した多目的タレットを火力支援モードにして手数を補っているが、今回は私がいる。

 連携の練習にはもってこいの状況か。


『では、やはり今回も炎城がロイの火攻めで浄化を…!』

『通路が狭いからだーめ。ロイちゃんは耐熱コートしてあるから良いかもしれないけど、イヴ達の塗装が熱で傷んじゃうでしょ。』


 あ、炎城様がシュンとしておられる。

 こちらのアバターはちんまいので、さしずめ小型犬か。


 塗装もだけど、ダンジョンに傷や焦げ目を付けまくると、協会の人に怒られるからね。

 なんだかんだ言って、附子島様ちゃんと指揮官やってるなー


「ヘイ、ハル!燃やしちゃダメな相手は、先に始末しといてくれよ!さっきから右マニピュレーターがピクピク跳ねて、そろそろ暴発しちまいそうだ!」


「それは困りますな、ロイ殿。では、私から接敵します。イヴ殿は後続の合流を遅らせて下さい。」 


「心得た。」


 並走状態からパルスブーストで突出。

 今回はパーツ回収は度外視で殲滅速度を最優先だ。

 敵集団の先頭2機に狙いを定め、両機の間に突っ込むように接敵する。


 右舷側の敵の頭部をオートボウガンでハチの巣にしつつ、左舷側の敵をすれ違いざまに電磁クローで斬首。

 これで少なくとも6000クラウン分のパーツが回収不可能となった。


 敵集団の真ん中に居た機体は、イヴが意図的に角度をつけて放った手裏剣で横倒しにされた。

 既に残骸同然のその機体を、後続2機が避け切れずに踏み潰す。

 衝撃で頸部が破断。

 損失9000。


 残骸に足を取られた後続2機の内、向かって左側は引き続き私がクローで切り捨てる。

 残った右側は、ロイが至近距離から連装榴弾砲をブチ込んで粉々にした。


 いや、それも大概過剰火力だと思うが…

 まあ、ともかく、ディフェンダーを呼ばせる事なく哨戒機を全滅させたので良しとしよう。

 -15000。

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