第19話 2人目の魔女
「ところで、あの恐竜型…フレイムタンを撃破したのは私たちが2組目だったんですよね?1組目の方々にはお声掛けはしなかったんですか?」
“2人目”ではなく”2組目”と表現したのは、お嬢様が私の働きを評価して下さっている事の証左だ。
それを察してか、クロウリー様も、しまったという顔をした。
いやなに、私は別に気にしておりませんよ。
この感覚は、探索者とそのゴーレムでなければ理解しがたい物でしょうからな。ほほほ
「…ええ、実を申しますと、そちらのペアにも既にオファーを送らせて頂いておりまして。つい昨日、入社を決めて下さった所です。」
ほう、昨日?それは奇遇だ。どんな方なのだろう?
クロウリー様が再びラップトップ端末を操作し、別の動画ファイルを開く。
チラッと見えたタイトルには、配信者の名義と思しき『
しかし、その内容は…
『うぉぉぉーーーーッ!!!消毒!消毒!消毒ーーーッ!ロイに火力勝負を挑もうだなんて2000年早いでありますッ!!!燃え尽きろゴミめぇーーーッ!!!』
「PGGGGYY!?」
…いや、あの、何やってんの、この人?
画面には、あのバカでかい恐竜型ガーディアンに正面から火炎放射を浴びせている、トチ狂った重量機が映し出されていた。
おいおいおいおい、こんな大型ガーディアン相手に、それも純魔力兵器なんぞ搭載してる火力特化機に、真っ向から撃ち合いを挑むのは無謀が過ぎるだろう。
そう思っていたのだが、どうも様子がおかしい。
恐竜型が一向に虎の子の純魔力兵器を撃とうとしないのだ。
いや、これは撃たないのではなく、フレームが歪んで、撃ちたくても撃てないのか…?
「…うまい。多分この人、敵機の表面温度を意図的に1200℃付近に維持してる。外装材がモリブデン合金じゃないのを見抜いて、ニッケル合金の耐熱限界をターゲットに調整してるんだ。」
えっ?
あっ、なるほど、そう言う事か。
構造材向けの高強度鋼の原料として、モリブデンは魅力的だが、いかんせん調達性に難がある。
我々がダンジョンに供給を期待している希少資源は、ダンジョン側にとっても、なるべく節約したい資源なのだ。
この炎城ホムラ様なる人物は、表面積の大きいデカブツが、モリブデン素材の使用量を抑えるために、やや耐熱性に劣るニッケル合金を採用していると初見で推測し、それならば手持ちの武器で正面突破できると合理的に判断したのか。
「でも、この後はどうしたんですか?熱で外装の強度を下げた所で、この武装構成じゃ、肝心の運動エネルギーを撃ち込む手段が…」
お嬢様が訝しむ。
さもありなん。炎城様の愛機であるROY-78-2は、火炎放射器や焼夷ミサイルなど、敵機を高温で炙る事に特化した装備で全身を固めている。
いかに敵機の装甲強度を低下させたとて、その緩んだ盾を貫くための矛がないのでは…
「ふふふ、そう思うでしょ?そこがホムちの凄い所なんですよっ!」
画面の中の重量機は、赤熱した恐竜型の外装目掛けてグライドブーストで急接近を試みる。
あわや接触と言うところで、重量機は両肩を大きく引き、上半身を後ろに倒して、まるで象のような野太い脚を、前方に突き出した。
おい待て、まさか。
CRAAAAAACK!!!
「蹴った!?」
ぎゃああああ!交通事故!ダンジョン内だから絶対に保険おりないやつ!
…失礼、取り乱しました。
よく見てみるとベッコリへこんだ敵機に対して、こちら側の脚部には傷一つ付いていない。
自損覚悟の奇策と言う訳でもないのか?
「そう、蹴ったんですよ!重量フレームは重さも武器になるからって!すごい発想でしょ!あたしじゃ絶対思いつかなかった!この子、ぶっ飛んでるけど間違いなく天才ですよ!」
ボルヘス様…附子島様の中の人が興奮気味にまくし立てる。
確かに、この一連の流れを狙って組み立てたのなら、天才的な戦闘センスと言っていいだろう。
少ないヒントから咄嗟に敵機の材質にあたりをつける知識量もだが、そもそもゴーレムのカメラアイ越しの映像だけを頼りに、組成不明の金属板を火で炙って温度調節しようという発想が常軌を逸している。
そして、トドメにこの蹴りだ。
普通に考えれば、グライドブーストの最高速度が乗ったまま、ガーディアンと正面衝突するなど、おぞましい金額の修理代請求を覚悟しなければ到底できない狂気の沙汰だろう。
だが、この方は明確に、ルドラ社製重量脚部の強度限界を熟知した上で、自機の損傷を伴わないギリギリの速度の飛び蹴りを、戦術に組み込んでいる。
派手な絵面とは裏腹に、徹底した見に立脚する、静の戦いの天賦の才。
お嬢様を電子工学の狩人とするなら、この炎城様はさしずめ材料工学の武芸者だ。
と、私たちがひとしきり感動したタイミングを見計らって、再びクロウリー様が口を開いた。
「この炎城ホムラさんが、2人目のメンバーです。附子島べノミ、炎城ホムラ、そして八津咲ネイル。あなた方3人には、わが社が運営するバーチャルダンジョン探索者事務所『モグライブ』の4期生として活動して頂きたい。コンセプトは、シンプルに”最強”。故に最後の一人にふさわしいメンバーは、あなたしか考えられません。」
それは恐らく、お嬢様に対して最も有効な殺し文句だったことだろう。
少なくとも、こうして私の共感を得られた大きいですぞ、クロウリー様。
なんてったって、このお方のわかりて筆頭はこの私だからな。
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