第62話 赤い炎と緋い玉①

『よい子のみんな、こんアゲー!モグライブ2期生Gemmyの揚戸あげとメノウですっ!今週もアゲアゲ探検隊はっじまっるよー!』


:こんアゲー!

:れっつぱーりぃ!

:今週も12時間コースや!


『いやいやいや、メノたそも流石にそう毎回ふた桁時間は潜らねーんだわwww若者のフレッシュな体力を基準にするのやめなーwww』


 揚戸メノウの持ち味は何と言っても、そのバイタリティ溢れる長時間配信と、少女然とした容姿に反して年の功を前面に押し出した言動のギャップであろう。


 バーチャルである以上、基本的には彼女の配信内外での外見に共通性がある必要はない。


 顔形も肌の色も、必要とあらば性別でさえも、技術次第でどうとでも捻じ曲げられるのがバーチャルの良さであり、恐ろしさだ。


 が、一つだけ例外的な要素が存在する。

 身長だ。


 3D活動を見据えてデザインされている彼女たちのアバターは、モーションキャプチャーの都合上、設定されたサイズと大きく異なる体格の者による操演が難しい。


 1人で動く分には小手先の技術で補う事も出来なくはないが、コラボやライブで複数名が同じスタジオ内で共演する際などに動きを合わせ切れなくなり、結局そこでボロが出る事になる。


 故に、揚戸メノウの設定身長143cmは、必然的に中の人であるスカーレット・ケリーのそれと近似値を取る事となった。


『SNSでも告知した通り、今回はゲストの方をお呼びしております。もうね、さっきからチラチラ動いて頂いておりますが、自己紹介どぞー』


『消毒!消毒!こん消毒ッ!モグライブ4期生、とーめんたーずの火炙り担当!炎城えんじょうホムラであります!音量これで大丈夫ですかね?』


:持ったど…あれ?

:聞こえるよー

:赤系コラボや!

:この2人は見た目からシナジーあるよね


 リスナー達が言う通り、2人のアバターはいずれも赤を基調としたカラーリングで、体のサイズも近く、外観に統一感がある。

 どちらも立派な大人だと言うのに、こうして並ぶと、まるで幼い姉妹のようだ。


『はい、ちゅーことで、本日は4期生ホムラちゃんをお招きしての、カラチ・ダンジョン合同探索やって行きたいと思います。よろしくお願いしますー』


『楽しみでありますねー!炎城、実はカラチには潜った事ないのですが、どんなダンジョンなのでしょう?』


 炎城のフリに応える形で、揚戸が用意した解説スライドが表示される。

 ネイリスト達にはお馴染みの、八津咲ネイルが好んで用いるあのスタイルだ。


 未探索ダンジョンのひとつ、カラチ・ダンジョンはアガルタ中部の湾沿いに存在しており、かつての同地域の主要輸出品目であった繊維製品の一貫生産プラントだったと言われている。


 構造的には、先日探査済ダンジョンとなったイズミール・ダンジョンに近く、中層から搬入された原料が、重力を利用しつつ加工・運搬されて下層の倉庫に積み上げられ、そこから適宜昇降リフトで搬出されて来る仕組みだ。


 無論、現在は製品の生産はされておらず、ガーディアンを始めとする自動機械群が黙々と、2度と使われることのない施設を保守点検し続ける廃墟となっている。


『んで、ここの記録装置に残された取引先リストを回収して、あわよくば未発見ダンジョンの情報提供インセンティブを手に入れてやろうってコト。若い子たち付いて来れてるかー?』


:宝探し回きちゃ!

:実は探検隊シリーズ宝探しが一番好き

:ガチャの時間よー


『付いて来れてるでありますかー?しかし、デリケートな機械の多い紡績工場となりますと、いつもの調子で火攻め一辺倒とは行かないでありますよね。』


 事前に打ち合わせした通り、愛機ロイの新しいセッティングのお披露目に話を持って行こうと勇み足な炎城の初々しさに、揚戸は微笑ましく苦笑する。


 方や身長143cm、方や身長149cm。

 ともに小柄で、まるで姉妹のような揚戸メノウと炎城ホムラだが、2人の間には一つだけ決定的な違いがあった。


 あくまでも個性の一つとして低身長を受け入れているレディアとは異なり、揚戸メノウことスカーレット・ケリーは、揶揄混じりに小人とも称される、少数民族リリパット族の出身なのだ。

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