第63話 赤い炎と緋い玉②
今回のカラチ・ダンジョン探索の目的は、最深部までの踏破ではなく、顧客情報が残されていると思われる上層の管理棟だ。
わざわざトロッコ利用料を払って移動する必要はない。
入口から突入して、現在位置は深度100。
かつては通勤用の高速リフトだったのであろう筒状の通路を、大小2つの紅い機影が並んで低空飛行している。
緩やかな下り坂を700メートルほど進んだところで、大きい方の1機が付近を飛行するウォッチャーの気配を補足した。
『あ、パラソルウィング!3機編隊であります!イズミールでも見かけましたが、カラチにも配置されているのでありますね。』
『おっと、惜しいね炎城ちゃん。地名の順序が逆だよ。』
炎城の模範的な勘違いを、揚戸は待ってましたとばかりにドヤ顔で指摘した。
打ち合わせ段階では、ここまで細かいやりとりは決めていなかったのだが、やはりこの新人は天性のセンスを持っている。
:そうそう、実はこっちが本場なんよね
:カラチは固有種が居ないから、逆に地域の普及型が分かりやすい
:炎城はあんまチマチマした狩りやらないもんな
と言うのも、元来パラソルウィングはアガルタ中東部のダンジョンに多く見られる機種であり、むしろイズミールが西部地域における例外なのだ。
つまり、当時イズミール一帯を治めていた行政主体は、何らかの理由で、周辺地域ではなく、地理的に離れたカラチ周辺の兵器をわざわざ取り寄せて配備していた事になる。
このように構内の警備に採用されている機種ひとつを取っても、ダンジョン建設当時の地域間関係を窺い知るヒントになるのだ。
新たなダンジョンの発見に繋がる情報に、多額のインセンティブが提示されるのも頷けると言う物だろう。
『それでは問題、そんな本場のパラソルウィング編隊を相手に、私たちはどう対処すべきでしょーか?』
『ふむ…』
先輩からの突然の出題に、炎城は一瞬だけ黙考した。
ここで何秒も費やせばリスナーがダレる。
精神の瞬発力を高め、思考速度を引き上げなければならない。
額面通りに捉えるのなら、音響センサーを備えた飛行型ウォッチャー3機を、いかに静かに手際よく全滅させるかと言う話だ。
だが、炎城も揚戸も共に爆発物の使い手であり、配信スタイルは賑やかでなんぼ。
ならば、答えはこれで決まりだろう。
『当然、仲間を呼ばせるだけ呼ばせて、全機諸共に皆殺しであります!!!』
ライトショルダーユニットを起動。
肩部ハードポイントから伸びて来たフレキシブルハンガーに愛用の火炎砲を預け、代わりの右手武器をマニピュレーターに接続する。
「焼けぬなら、穴でも開けろ、ガーディアン!ってなぁ!」
BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!
派手な爆発音を立てて、ロイの右手の半魔力兵器、炎精ヘビィオートボウガンが火を吹いた。
:ですよねーwww
:やっぱりwww
:やると思ったわwww
八津咲のハルが用いる電磁加速式オートボウガンの有用性を認めて採用した装備だが、そこは炎城ホムラ。
大きく、うるさく、隠密性は欠片も無い代わりに、非魔力式よりも2サイズは大きいボルトを使用できる、破壊力の権化だ。
3機のパラソルウィングの内、最も不運な1機の外装を、超音速で飛来したマルテンサイト系ミスリル鋼の牙が金切り声を上げて食い千切る。
「gGyyYyyyy!!」
たちまち始まる警報の大合唱。
音響索敵型のウォッチャー相手にこうも派手に音を立てたのだ。
当然、本命のガーディアンが続々と呼び集められ始める。
狼型のアタッカー遊撃部隊ニードルファングが12機、加えて通路の防衛に用いられるディフェンダー機種のハンマーテイルが4機。
炎城にとってはハイデラバードで見慣れた獲物だが、少々数が多い。
「ぎゃははははッ!アンタさいっこぉ!やっぱリリパット族のご主人サマにお仕えするなら、これくらい豪快じゃないとねっ!」
揚戸の愛機チャッピーが、獲物のブーストランスを振り回してけたたましく笑う。
ロイも先のマリカ大会でやり合った、イカれた槍の達人だ。
だが、今問題なのは、このゴーレムの潜在的な危険性ではなく、発言内容の方だった。
:えっ、リリパット?
:まじ?
:あー、道理で声可愛いと思った
:うおおおおお天然合法ロリ!!!
: 薄い本が厚くなるな
揚戸の対応は素早かった。
炎城がマズいと思ってフォローを入れるよりも早く、あらかじめ用意しておいた身バレ防止のカバーストーリーを舌に乗せていたのだ。
『あ、こら!ちょっと、チャッピー!それは前世の設定でしょ!やめてよもう〜』
「あっ、いっけなーい。ごめんなさい、ご主人サマ。これって前の前の前の体の設定だったっけぇ?」
:堂々と設定いうなしwww
:ですよねー
:いやまだ分からんぞ。俺は諦めない。
:え、まじでリリパットなん?
:確かめてみるまでは1/2の確率で合法の可能性が残るんや…!
コメント欄も空気を読んでおちゃらけた空気に舵を切って行くが、一部には中の人の特定に繋がる情報に食い付いて離れない者も居る。
『(これは面倒な事になっちゃいましたかね?)』
思いもよらない所からのトラブルに、レディアは内心天を仰いだ。
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