第5話 狩猟

「BB?」

『いたいた。仕留める前に一発だけ鳴かせとこか。おらよー!』


 お嬢様が右中指でトリガーを引く。

 合わせて私の右腕部が跳ね上がり、ライトアームユニットを起動した。


 非魔力兵器、電磁加速式オートボウガン。

 私と同じダンジョン産の先史文明技術を組み込んで造り出された、魔力を発しない隠密兵装だ。


 レールが強烈な磁気を帯び、磁石同士が反発するように、勢いよくボルトが撃ち出される。


「『警告!そこの作業機、速やかに停止しなさい!』!」


:いや撃ってから言うなしwww

:機能を停止するんですね分かります

:殺意高杉ワロタ


 私の手遅れ気味の警告音にネイリスト達もお祭り騒ぎだ。

 私も撃ってから警告を発するのはどうかと思うが、仕様なので仕方ない。


『ハル、一匹逃げたよ!電磁クローで追撃して!』

「承知いたしました。仕留めます。」


 私の放ったオートボウガンで、ソーサーヘッド2体が脚部を損傷し、移動困難となった。


 やや遠くに居た1体が泡を食って逃げ出したが、お嬢様は既にグライドブーストでの急接近を入力し終えており、更に私にトドメの刺し方まで指定してきている。

 お嬢様の方が2枚も3枚も上手だ。


『つっかまえたァ!おらっ!喰らえ!』


 お嬢様の絶妙なブースト管理によって、私の体はちょうど最後の獲物にマニピュレーターが届くギリギリの距離に移動している。


 レフトアームユニットを起動。

 非魔力兵器、電磁クロー。

 お嬢様がトレードマークとしている、お気に入りの装備だ。


 銀色の鉤爪が高圧電流を帯び、抵抗熱で光り輝く。

 これと同じ事を魔力でやろうと思えば、雷と 炎の2属性を同時に制御しなければならないだろう。


 マニピュレーターとしての機能を損なわない、飾り同然のアタッチメントにこれほどの殺傷力を発揮させ得る先史文明の技術には戦慄を禁じえない。


 平たい頭部を掬い上げる様に下から一閃。

 安っぽい樹脂製の外装をバターのように焼き切り、中に詰まったセンサーユニットをグシャリと掻き回す。


:グロ注意

:ぎゃあああああ

:頭もったいねええ


 派手な絵面にネイリスト達から悲鳴が上がる。

 だが問題ない。

 頭部はブチ抜いてしまったが、第一頸椎は無傷だ。

 コスト分の元は十分に取れる。


『はい、大型コンデンサ3つで9000クラウン!ゴチんなりゃーっす!おっ、今のに呼ばれてハンマーテイル来てるやん。大当たりじゃないけど、うめうめしとこか!』


:おかわりきちゃ

:うめうめ

:うめうめするかー


 通路奥からずんぐりとしたディフェンダー機種、ハンマーテイルが姿を現す。

 絶滅動物のアンキロサウルスを思わせるシルエットの通路防衛用ガーディアンだ。


 体積比で私の8倍はあろうかと言う巨体が、ホバー移動で滑らかににじり寄ってくる。


『ハル、右回りサテライト軌道で側面距離15を維持。』

「承知いたしました。」


 お嬢様の操作に従い、背部左のパルスブーストを噴射。

 直後に、さっきまで私が居た地点を、ハンマーテイルの名前に恥じぬ鈍器めいた尾が叩き割った。


 これが直撃していれば、この筐体の装甲では内部機構を保護し切れなかっただろう。

 損益分岐点を超えるためには、無傷での撃破が最低条件だ。

 再びオートボウガンを構える。


「『一般車両は速やかに当機の射線上から退避してください』!」

「DY!」


 リロード間隔ごとに最速で5発のボルトを叩き込む。

 ハンマーテイルの目玉パーツは、この巨体でのホバー移動を可能たらしめている、腹腔内の超高出力吸気ファンだ。


 頭部や背部が多少傷ついた程度では、さほど価値は下がらない。

 お嬢様が初見向けに解説スライドを映し出す。


『お、あった、あった。ハンマーテイルはねー、対処法が2つあります。背後を取って、尻尾のジョイント部をチクチク壊して無力化するか、もしくは…』


 ハンマーテイルが再び尻尾を打ち振る。

 お嬢様はもう避けない。

 真っ向から私を突進させ、敵兵装との接触の瞬間に、左手の電磁クローを一閃。


 私を打ち据えんとしていたハンマーが、側面からの衝撃を受け、その持ち主を引きずりながら、壁際へと吹き飛んで行った。


『こうやって、尻尾をパリィして頭を潰すか!ネイリストさんはどっち見たいー?』


:正面!

:うめええええ

:断頭じゃーーー!


『だよねェ!やったれハル!公開処刑やオラぁ!』


 オートボウガンでは威力が足りない。

 電磁クローは今防御に使ってしまった。

 ならば肩部にマウントした、重火器の出番だ。


 ライトショルダーユニットを起動。

 半魔力兵器、炎精榴弾砲。

 炎の術を組み込むことで、発射時の衝撃を極限まで抑えた超軽量砲を、敵機の頭部に突き付ける。


 相対距離10メートル、二次ロック完了。

 発射!


KBOOM!


 瞬間、視界を硝煙が埋め尽くす。

 巡航ブースターを吹かして後退。

 そのまま天井付近まで上昇し、動きを止めた敵機の様子を撮り下ろす。


『ね、簡単でしょ?』


 徐々に煙が薄れ、敵機の姿が画面に映る。

 綺麗に頭部だけを失った、ほぼ無傷のハンマーテイル。

 この状態なら、査定額は200万クラウンを下るまい。

 これがA級探索者、ヒカリ・アシヤの仕事だ。

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