第4話 機械獣

『そんじゃ、早速いってみよ~!ハル、深度300CPまでルートBを強速前進。直線ルートではなるべくグライドブーストで時短してね。』

「承知いたしました。強速前進。」


 お嬢様のご指示に従い、軽くブーストを噴かしながら通い慣れた道を辿る。


 ダンジョンの床を傷めないよう、内部の移動は基本的に低空飛行が推奨されている。

 一応ここの自動補修機能は生きているが、飯の種にわざわざ無用の負荷をかけたい愚か者は居まい。


 この筐体の内装も、風精術ブースターと地脈汲上式ジェネレーターを組み合わせた、航続距離特化のセッティングだ。

 魔力機器の常として重量負荷は大きいが、それを飲むに値するだけの入場料割引がある。


 ハイデラバード・ダンジョンは既に探査が完了しているため、照明の設置が行き届いているが、それでも移動には一定の慎重さが必要だ。


 私の筐体の全高は、極力絞って約170cm。

それでも安全マージンを考えると、地面から浮き上がれる高さは1メートルに満たない。


 ストレージに保存した飛行ルートを逐一参照しながら軌道を微調整し、可能な限り効率よく、狩場前のチェックポイントへと向かう。


:相変わらず芸術的な飛行制御

:ハルやんほんと飛ぶの上手いよな~

:やつざきも話の軌道修正うまくなって


『おいこら、今なんで急に刺して来た?やつざき軌道修正上手いだろー!』


 お嬢様はネイリスト…あ、リスナーのファンネームね。とプロレスをして間を持たせている。

 いや、プロレスか?

 まあ、プロレスとしておこう。

 ともかく、狩場が近づいてきたので、私はお嬢様の指示を仰いだ。


「まもなくソーサーヘッド型ガーディアンの哨戒エリアに入ります。お嬢様、いかがいたしましょう?」

『お、ついた?おけおけ!そんじゃ、初見さんも居るから、ソーサーヘッドについて説明するよ~』


 視界に重なった配信画面に、お嬢様お手製の解説スライドが表示される。

 この狩場で私たちが狙う偵察型ガーディアン、通称ソーサーヘッドについての簡単なまとめだ。


 ソーサーヘッドは鹿に似たシルエットの四足歩行型ガーディアンで、頭部が薄い円盤型のレドームになっている。

 このレドームを用いた哨戒索敵を主な任務としており、分類上はウォッチャーというカテゴリに属する機種だ。


 基本的にどのダンジョンのガーディアンも、まずウォッチャーが敵を見つけ、それらが通路や設備を守るディフェンダーや積極的に外敵を排除するアタッカーを呼び出して、侵入者に対処させると言う役割分担で動いている。


 ならば、さっさと首を撥ねて頭部を切り取ってしまえば…と思うかもしれないが、事はそう単純ではない。

 このタイプに関して言えば、実はレアメタルを豊富に含むタンタルコンデンサーが組み込まれた第一頸椎こそが、最も金になる部位なのだ。


 むしろ、頭部を叩き割ってでも、首を無傷で切り出す事が肝要。

 こういったセオリーを理屈付きで説明できることがお嬢様の配信の最大の売りだった。


:解説たすかる

:やつざきの配信は勉強になるよな~

:わがっだ!おで、ぜんぶきりさく!


 ん?一人わかってない奴おるな?

 まま、ええわ、お嬢様から前進の指示が来た。

 パルスブーストを断続的に噴かし、遮蔽物の陰から陰へと飛び移るように移動する。


 襲撃ポイントは、ここから約20メートル先に進んだ、やや広い空間だ。

 そこなら多少暴れても、ダンジョン施設を傷める心配がない。


 レーダーに反応、前方左舷側に固まって3機。

 そしてこちらから見えたと言う事は、敵方のレーダーからもこちらの位置が捕捉されていると言う事だ。


 私もお嬢様も同じ判断を下した。

 勝負を仕掛ける。

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