第6話 二回行動
『はい、お疲れ~!こう言う事ですよ、こういう事!これが、やつざきの実力っちゅーことよ!』
:安定のイキり
:株価調整はじまた
:やつざきは喋らなければカッコいいのに
鮮やかに腕を披露した後、こうして調子に乗って見せ、笑いに繋げる。
これがお嬢様の配信の基本スタイルだ。
その後は大抵、その日に狩った獲物の解体作業を行い、特に価値の高いパーツを解説しながら切り出して行くのが定番の流れ。
機種ごとの有用なパーツをピックアップし、買い取り相場に言及しつつ、宝探しを演出する事も多い。
最終的には探索者協会に連絡して納品トロッコを手配するのだが、到着を待つ間の手持無沙汰な時間がどうしても動画映えしないので、間を持たせる意味合いもある。
が、ここ最近は少々状況が違った。
:さて、ウォーミングアップは終了かな?
そう、ウォーミングアップだ。
ここ最近のお嬢様にとっては、このハイデラバード・ダンジョンでの資金繰りは、ちょっとした指の体操に過ぎない。
私たちは今、この広大なアガルタ共和国の中でも1,2を争う高難易度ダンジョン、イズミール・ダンジョンの攻略に参加しているのだ。
攻略とは、未だ探査が完了していないダンジョンの状況把握を目的とした任務全般を指す。
:尺的に今日もあっち行く感じ?
:本番きちゃ!
:イズミーーール!!!
『もちろん、今日もイズミール行くよ~!ハル、納品トロッコの手配お願い。その筐体も一緒に回収してもらって。』
「承知いたしました。探査用筐体との同期を解除。一時帰還します。」
――――――――――――――――――
-クオリア同調率:00.0%
-疑似コアユニット正常シャットダウン
-テレパスリンケージ解除
---メインシステム:通常モードに移行します
――――――――――――――――――
「おつかれ、ハル。みんなちょっと待っててね。今イスミールのガレージとつなぎ直してます~」
:わくわく
:あそこ国内ダンジョンでは見ない機種も結構居るから楽しみ
:全裸待機中
「せやろ、やつざきも楽しみ。あと服は着とけな?服着ろ?」
お嬢様がコメントを捌きながら接続先を再設定する。
行先は、ここアガルタ共和国の西の果て、イズミール・ダンジョン。
イズミールは先史時代から存在した歴史ある港町で、大陸西部を領する隣国アーモロート・ユニオンと、地中海を隔てて接している。
そこからやや内陸に位置するこのダンジョンは、先史時代の工業特区の遺構と考えられており、世界中の様々な地域で見られるガーディアンが一堂に会する万魔殿の様相を呈していた。
そのため、探査用筐体のセッティングは、腕部の武装を除いてハイデラバードとは別物だ。
とりわけ内装は、非魔力式で統一する必要がある為、パーツの選定には大分難儀した。
『デャッッハハァァァーーーッッwwwやっべwww狙撃スカったwww待ってw待ってw今のナシ!ノーカンだってばぁ!あーん!もうやだぁ~wwwギャハハハハハハハハwww』
と、無線接続したお嬢様のイヤホンに、不意に狂気じみた笑い声が響き渡った。
私の画面の右上に縮小表示してある附子島様の配信だ。
ほんと一体どこから声出してんだこの人。
「ぐっふゅふwベノちゃんめっちゃゲラっとるしwww」
いやだから、お嬢様も一体どこからその声出してるんですか。
どちらも同じ人類なのに、別ベクトルでそれぞれヤバい。
生命の神秘だ。
:やつざきまーたベノちゃんのストーカーしてんのか
:おまわりさんこいつです
:おまわりさんにげてー!!!
:実際ダンジョン内でやつざきに勝てるおまわりさん居んのかなw
:炎城ホムラとか…(震え声
:×火付け盗賊、あらため 〇火付け、盗賊あらため
:句読点の大切さがわかる動画
『ファ゛―――wwwヤバいwwwこれは無理!死ぬ!死ぬ!死んでしまう!!やめてやめてやめて!イ゛ヤ゛ぁぁぁーーーーッwwww死wwwんwwwだwwwごめんイヴ戻ってぇ~~~www』
死んだらしい。
なお、ここで言う死ぬとは、探査用筐体が大破して、以降の探索続行が不可能になる事を指す。
そうなれば、我々ゴーレムは筐体とのリンケージを破棄して、コアまで意識を引き戻さざるを得なくなるわけだ。
附子島様の愛機、EVE-a113も今頃は主の待つ配信部屋に帰還している事だろう。
配信者としては一種の撮れ高だが、探索者としては大損害もいい所だ。
これを笑い話にできる事自体が、彼女の羽振りの良さを暗に示している。
我々も負けていられない。
やはり一攫千金の夢を追ってこその探索者。
コメント欄もエンジョイ勢からガチ勢へと、発言の中心が移って行く。
:あそこアタッカー系の機種がどれも強いんだよな~
:みんなサーベルトゥースどうしてるん?会ったら毎回瞬殺されるんだけど
:武器いっぱい積まないといけないから調査ぜんぜんできん
「ねー、あそこのガーディアン強くて狩りにくいよね。今日はハルの筐体壊されないようにしたい~」
「是非ともそう願いたいですね。筐体破損でリンケージが強制切断されると酔うんですよ。ただでさえ、お嬢様は操縦が荒いんですから。」
ボヤいてはみたものの、あまり期待はしていない。
それだけの難事に私たちは挑んでいるのだ。
私はただ己がスペックの及ぶ限り、お嬢様に付いて行くのみ。
再接続の準備が整った。
状況開始、メインシステム探査モード。
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