第77話 ホラーには付き物のあれ

『アッーーーwww地雷踏んじゃったwwwイヴごめーんwww』

「主様、この調子では修理代で足が出ます。」


…オーケー、見なかった事にしよう。

 仕切り直してTake2


「いだだだだっ!大将、何でまたこのドア開けさせた!?さっきタレット見ただろ!!」

『あああああ!!ごめんバズ!!操縦ミスったーーー!!!』


 お前らホントええ加減にせえよ!


…えー、一部お見苦しいシーンがございましたが、左側ルートを担当した鳳ツバサ様と附子島ベノミ様も、概ね順調に作業を進めているようだ。


 そう言う事にしておいて欲しい。


 とりま、こっちの荷物が一杯になったノーティスだけ送っとくか。


『あ、ツバサ先輩。右側チーム、もう荷物がパンパンみたいです。』


『えっ?はや!メノウ先輩引き強くね?じゃあ、こいつやったらウチらも戻るかー!!』


 鳳様が雄鶏のような大音量で宣言しつつ、背後の天井に向き直った。

 カメラアイの先には巨大な蜘蛛型の生体ガーディアン。


 来る前にインストールしておいた図鑑データによると、あれはシルクバンカーと呼ばれるタイプか。

 だが、標準サイズより随分と大きく見える。


「てけり・り」


:キメええええ

:無理無理無理無理

:蜘蛛の顔ってこんなんなってるんだ(白目


 コメント欄も、巨大さゆえに細部まで観察できる節足動物のフォルムに興奮しているようだ。

 

 きっとこの個体も、もう少し交通の便の良いエリアに沸いていたら、ここまで成長する事はなかっただろう。


『うげえええ、なんかシャカシャカしてる!こいつどうしたら良いん?ツバサ初めて見んだけど。』


『私も現物は初めてですよぉ!蜘蛛だから柑橘系のアロマは苦手だと思いますけど…ツバサ先輩って、香水とか持ってます?』


:それはどっちの意味の質問?www

:確かにちゅば香水とか持ってなさそう

:ちゅばはトニック派やろ


 附子島様も結構ぶっ込むな。

 コメント欄も、完全にそっちの意味で悪ノリしている。

 まあ確かに鳳様の振る舞いはボーイッシュではあるが…


『いや、持ってるけどゴーレムには積んでねーよ流石にwwwちなみにツバサはウォータリー派なんで、シトラス系は付けた事ない。』


 軽口を叩き合う2人にシルクバンカーが迫る。

 通信での会話など伝わろうはずもないが、醸し出す雰囲気が煩いのだろうか。

 まず最初の標的となったのは鳳様と繋がったバズの方だった。


「てけり・り」


 シルクバンカーが腹部を蠍のようにそらし、2人に向けて糸の束を発射した。

 スパイダーシルクの強度と延伸性に物を言わせた、言わば粘着投げ縄だ。

 糸束の先端がバズの足先を掠める。

 

『うわぁ!なんかベチャッて付いた!』

「げっ、ネトネトしてるぞ、きったねぇ…」


 バズの声に嫌悪はあれど、焦りの色は無い。

 4本ある脚の内の1本を絡め取られたが、所詮それだけだ。


 両肩に搭載された主兵装、回転式マイクロミサイル散布装置の使用には何ら支障なし。

 残る問題は、このガーディアンから採れる資源が要るか要らないかだけだ。

 

「イヴさん、そっちの主様に確認してくれ。こいつはもう消し飛ばしちまって良いのかい?」


「待て、出糸腺を切り出すようにとのご指示だ。しばし綱引きを続けてくれ。」


 イヴが右腕を構える。

 生体ガーディアンの生態研究は附子島様の専門分野の一つだ。

 そして、その手段には狩りも含まれている。


 スリットに差し込まれた八方手裏剣は、既に2秒も前から高速回転を始めていた。


「アイアイ。そんじゃ、多脚フレームの怪力をご覧じろってな。」


 そう嘯きながら、バズが自由な3本の脚に力を込めると、機体と蜘蛛を繋ぐ糸が、ギチギチと音を立てて軋んだ。


 切れはせず、動きの自由は依然として阻害されているが、それは敵にとっても同じ事。


 昆虫ほどの強度はない蜘蛛の柔らかな外骨格が、自ら放った糸に引きずられて不本意に足を止める。


 その無防備な頭と胴の継ぎ目を狙って、イヴは1枚だけ手裏剣を放った。


「て…けり…」


:ナイスゥー

:うげええ、まだビクビク動いとる


 頭部を半ばまで切断されたシルクバンカーの体が、ドロドロと体液を垂れ流しながら、断末魔のダンスを踊っている。

 狩りの手際は鮮やかだが、絵面が最悪だ。


 私やお嬢様のような個人勢時代からのベノ民にはお馴染みの光景だが、モグライブ加入後にハマった附子島配信初心者には、この後さらなる試練が待っている。


『ベノナイスー!』

『先輩もナイスです〜!それじゃ、早速捌いてワタ出しちゃいますねっ』


 言うや否や、イヴが逆手に構えたクナイが巨大な蜘蛛の胴体にガッと突き立てられ、そのまま正中線に沿ってゴリゴリと外骨格に切れ込みを入れて行く。


 そのショッキングな光景に、バズと鳳様は口を半開きにして固まった。


『え』


 切れ込みを入れたと言う事は、当然その後はそう言う事が起きるわけだ。


 ザックリ裂けた大蜘蛛の腹部に、イヴは無造作に手を突っ込み、そのままカメラドアップで容赦なく観音開きに開け放つ。


:ぎゃああああ!こっち視点もグロかよおおお!


 正直、お嬢様と附子島様の最大のシナジーはそこなんじゃないかと、密かに危惧しております。


 でもまあ、こっちもとりあえず大丈夫そうかな。

 よそ見して吹き抜けにでも落ちたら困るし、そろそろ焦点を筐体視界に戻しておくか。

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