第76話 日の当たらぬ場所
『お、またスクラップや。内燃機関駆動なんて珍しい。よしよし、キャタライザーも付いてんね!これ白金入ってるって、ネイリストたち知ってた〜?』
無造作に床に転がされたガーディアンの残骸から、お嬢様が鋼のハラワタを切り出して行く。
換気に難のある地下施設で内燃機関とは確かに珍しい。
てか、燃料の調達どうしてるんだろうか?
実の所、ダンジョン内の自動プラントへの資源供給プロセスは、まだよく分かっていなかったりする。
なにしろ巨大なシステムのほぼ全部分が地下数百メートルに埋設されているので、少し配管の繋がりを調べるだけでも一苦労なのだ。
興味は尽きないが、とりあえず管理棟右ルートの探索は順調だった。
所々に湯気や排気ガスが滞留して視界が悪化している箇所はあったが、直接的な危険に繋がる敵の配置その物は少ない。
今漁っていた残骸も、私が倒した獲物ではなく、何か別の要因で機能停止したと思われるガーティアンの物だ。
「ねぇ、ハルたん、あっち丸いの何かなぁ?ちょっと拾って調べてみてくれない?」
「は?」
いや、何かなぁじゃないが?
またチャッピーがアホな事を抜かしている。
その形状と設置位置で爆発物じゃなかったら逆に驚くんですけど。
「騙されませんよ、チャッピー。どう見ても地雷じゃないですか。見えてる罠に引っかかるなんてマヌケのする事です。」
「チッ、バレたか。」
ほんっっっとに、このクソガキャあ!!
隙あらば私の体で遊ぼうとしよってからに!
そりゃ、対人用の地雷なんて踏んだところで大した損傷はしないけどさ!
っと、いかんいかん。
初対面がアレだったせいか、どうもチャッピーが相手だと、感情の抑制が効かんな。
ハッ、まさかこれが恋…?
…は100パー無いな。
ねーわ。
ねーわとか言っちゃったよ。
まあ、言うて危険はせいぜいその程度。
設置密度の低いトラップと、落とし穴のような吹き抜けにだけ気を付ければ、弾代もかからずにパーツを拾い放題だ。
『…なんか、さっきから壊れたまま放置されてるガーディアン多くありません?外の橋もそうでしたよね。』
また新たな残骸に出くわして、お嬢様が疑問を呈する。
確かに、いささか異様な光景だった。
私たちが普段潜っているダンジョンだと、破損したガーディアンの残骸など、せいぜい2,3日以内、早ければその日のうちに施設維持ワーカーが回収して、次の機体の素材にしている。
こんな風に埃をかぶったスクラップがゴロゴロと放置されている所など見た事がない。
:確かに異様
:エアポケットは時間の流れがゆったりだから
:機械の墓場感あるよね
:ガーディアンの幽霊が出そう
『エアポケットだからねー、ダンジョンったって人が荒らしに来なけりゃ、本来のメンテ頻度はそんなもんよ。』
『へー、なるほど。やっぱり私たちの活動って、ダンジョンに負荷かけてるんですね…』
へー、なるほど。
つまり私が日頃お嬢様と一緒に訪れるようなエリアは、異物が頻繁に侵入するために警戒体制が敷かれている、言わばダンジョンの傷口と言うわけか。
加えて言うなら、トロッコ駅の存在も、ダンジョンのストレスになっていそうな気がする。
日頃お嬢様のような上澄の戦闘狂ばかり見ているので感覚が麻痺しがちだが、荒事が得意ではない探索者にとっては、確かにこの環境は魅力的だろう。
エアポケット探索と言うジャンルが確立した理由が分かろうと言う物だ。
『お、またお宝や。古い通信機と、それから…なんだこれ。アヒルの玩具?』
『ああ、それは軽いからチャッピーに持たせるよ。中身は情報記録媒体だから、値段はギャンブルだけどね。』
:へー、そんなのもあるんだ
:何を思っておもちゃに偽装したんwww
お嬢様と揚戸様は手際よくスクラップを回収し、肩部に取り付けたコンテナに収めていく。
体積と重量、どちらにも制約があるので、持ち帰るパーツはしっかりと吟味したい所だ。
「ねぇねぇ、ハルたん。あの扉ってもう開けたっけ?ちょっと確かめて…」
「あそこはさっき開けて射撃タレットあったでしょ!私が忘れてるとでも思いましたか!」
一体どんだけPONだと思われてるんだ私ゃ!
アホの妄言をいなしつつ、コンテナに金目のブツを詰めて行く。
『ねえ、八津咲んとこのハルたん、何気にめっちゃ賢くね?自己判断で罠ぜんぶ見つけとるやん。』
『…別に、それほどでもありませんよ。』
なんだと、お嬢様の野郎!
まあ、いつもやってる事だしね。
インベントリが一杯になったら、一旦表の運搬車両まで帰還しなければならない。
そう言えば左ルートの方はどうなったかな?
連絡がてら、ちょっと同時視聴してみるか…
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