第89話 パンドラの箱
エルダリオンと合流した私たちは、再びボルヘス様達と別行動をとり、無数のコウモリ型ガーディアンの飛行軌道を遡って突き進む。
私としては、お嬢様にもシェルターに避難して頂きたかったのが、通信強度の問題で皆様トラックに残る事を選択された。
流石に噂の『呪われた地』に、お嬢様の操縦抜きでカチコミをかけるほど自信過剰にはなれない。
『もしもし?やっと繋がった!エフタルの件もう報告行ってます?なんか遺跡のトラブルっぽいんで、ちょっと現地にゴーレム飛ばして様子見に行ってる所です。』
お嬢様は私をグライドブーストで飛ばしつつ、誰かと音声通話をしている。
意識を筐体の方に飛ばしているため、端末側の状況がよく分からないが、この様子だと相手は社長か。
『あー、はい。ボルヘスさんとホーエンハイムさんは第4区画のシェルター防衛の応援に行ってます。偵察には私とバイトのタイラーさんって方の2人で向かってます。』
タイラー様は現在、お嬢様と一緒にトラックに戻り、そこから私の横を並走する白い機体、エルダリオンを操縦している。
万年C級と自称するだけあって、お嬢様に比べれば多少動きに粗が目立つが、それでも空力特性に優れた流線型のボディをしっかりと速度に乗せられていた。
普通にダンジョンを探索する分には、これだけ飛べれば上出来だろう。
「スピードは大丈夫ですか、エルダリオン殿?」
「はい、ゴ心配痛み入りマス。」
私とよく似た軽量2脚フレームの機体。
白を基調とした塗装は手入れが大変そうだが、その分デコり易く、配信映えしそうだ。
『アシヤさん、まもなくPU-5遺跡に到着します。暴走ガーディアンの移動方向から考えて、恐らく出所はそこかと。』
タイラー様が共有画面にマーカー付きの地図を表示してくれる。
お怪我を押しての積極的な貢献に、頭が下がる思いだ。
やはり土地勘のある方が居ると、話が速くて助かるな。
『ここがPU-5…エフタルの中心地…』
サイトPU-5、正式名称Pandora Unlocked第5遺跡は、エフタル遺跡群の中でも特に重要かつ危険と目される建造物だ。
曰く、元は天の果てに人を運ぶ為の宇宙艇発射基地だったとも、あるいは地の底に穢れを封じる為の核廃棄物処分場だったとも言われている。
いずれも仮説の域を出ず、ハッキリしているのは、その内部が既知のいかなるダンジョンよりも深く深く、測定限界よりも下まで続いていると言う事実のみ。
最深部までの到達は愚か、その深度の推定すら、現代の技術ではままならない、まさにあの世への入り口と言う表現がぴったりの場所だ。
「確かに、出入口から断続的にガーディアンが噴き出していますね。全て相手取っていてはキリがありません。」
文字通り次から次へと湧き出してくるガーディアンをここで食い止めるには、シンプルに火力が足りない。
一応シールドも持って来ているので、これとクローで持久戦を仕掛ける事も出来なくはないが、殲滅速度が敵増援の補充速度を上回れるかは賭けになるだろう。
どうにか突っ切って、問題の根源があると思しき遺跡内部へと踏み込みたい所だ。
『なんとなく原因の見当はついてるんだよね。多分これ、浅い深度の自動プラントで、ガーディアンの巡回ルートの更新プロセスがバグったパターンでしょ。』
『…!分かるんですか?』
人間組の2人が何やら専門的な話をしている。
なるほど、確かに自動更新で調子がおかしくなる事って結構あるもんなー
私もよくセキュリティ周りのアップデートで勝手に設定を弄られてムカついているので、気持ちは分かる。
アレいちいち自分で直すの面倒臭いんだよな…
もちろん、ダンジョンともなれば対策は2重3重に施されているだろうが、例え1000年に1度しか故障しないシステムだとしても、2000年動かし続けていれば、理論上2回はすでに事故の実績がある計算になる。
悠久の時の流れがもたらす、試行回数の暴力だ。
「承知しマシた。入口の詰まりを取り除き、オ2人の浅層の自動プラントへのアクセスを確保すれば良いのデスね。」
言いながら。エルダリオンは両腕にエネルギーをチャージし始めた。
速射生と引き換えに、一撃で広範囲を薙ぎ払うプラズマ砲が2丁。
対多数戦を想定した火力特化の武装構成か。
『アシヤさん、準備は良いですか?』
『おけ!こっちで合わせるから、タイラーさんのタイミングで仕掛けて。』
お嬢様の返事を聞くや否や、エルダリオンは左右に構えたプラズマ砲のエネルギーを同時に解放する。
遺跡を傷つけないよう、空中で炸裂させられたプラズマ球が、仮初の太陽となって夜の荒野を照らした。
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