第90話 PU-5地上1階
エルダリオンの一撃で、装甲の薄い小さな飛行型ウォッチャーがゴッソリとまとめて撃ち落とされた。
後続は私が引き受けよう。
最大出力の電磁クローを前方に構えながら、グライドブーストで突撃する。
動線の関係上、出入口のトンネルの延長上を通らざるを得ない暴走ガーディアン群を最大効率で始末する方法はこれだ。
小川に手を浸すように、前方から飛び出して来る敵機の群れを掻き獲って行く。
『うぅー、もったいない…1機だけでも捌いて持って帰っちゃだめかな?』
この非常事態に何言ってんですか、お嬢様。
開封の儀は厳かなセレモニーなんですから、辺りが明るくなってからカメラの前でやらないと…
『アシヤさん、ここは特別保護区ですよ?普通に条例違反です。』
…そ、そうですよ、お嬢様!
C級のタイラー様にこんな風に呆れられて、恥ずかしいと思わないんですか?
まったくもう!
「オ見事デス、ハル殿。次の波が来る前に早く突入しマショウ。」
「あっ、はい、サーセン…」
PU-5遺跡のエントランスは、当然ながら普段潜っているダンジョンとは全く異なる外観だった。
入退場ゲートもトロッコ乗り場も無い、ガランと開けた空間を、エルダリオンと並んで通り抜ける。
後付けの配線がないからか、天井が高くて飛びやすいな。
とにかく、まずは敵機を探して移動経路を遡り、暴走ガーディアンを生み出している自動プラントを探さねば。
『仮設照明が壊されてる…本当に見境なしに暴れ回ってるんだ。』
『そのようですね。やはり早急な対処が必要です。』
遺跡内には、ところどころ調査用の照明器具が設置されいる。
それが壊されていると言う事は、その向こう側から敵が移動して来たと言う意味だ。
逆から言えば、本作戦において、明かりは不正解ルートの目印となる。
投光器を頼りに、より暗い方を目指して闇の中を進む。
「CChChCChCh…」
パサパサと樹脂製の翼をはためかせ、蝙蝠を思わせる飛行型が前方から近づいてくる。
恐らく音響索敵タイプだろう。
これは使える。
「ちょうど良い、案内を呼んでもらおう。」
ライトアームユニットを起動。
わざと急所を外してオートボウガンを当て、警報を出させる。
普段なら複数の敵との戦闘は避ける所だが、今だけは話が別だ。
獲物の群れの移動ルートを探るにあたって、サンプルは多ければ多いほど良い。
「手際が良いデスね、ハル殿。今のは自律行動で?」
「ありがとうございます。ええ、お嬢様も同じ判断をしたでしょうから。」
通路の奥にカメラアイを凝らすと、数十メートル先に、投光器の明かりを微かに反射する移動体が3つ見えた。
狙い通り、外でも見かけた熊型アタッカーが増援に来たか。
暫定マップデータにマーキングして、プラントの位置に当たりを付ける。
もう少しデータが欲しいな。
とりあえず、用済みになったウォッチャーを始末して、呼び寄せられた熊型の元に向かおう。
『いい加減こいつも見飽きたよね。せっかくだし、タイラーさん狩ってみる?』
『う゛ぇっ!?い、いや、今はちょっと流石に…緊急時ですし。』
おおん?日和ってんな?
いけませんぞ、探索者がそんな事では。
「まあまあ、そう言わず。ささ、エルダリオン殿。私が支援しますから。」
パルスブーストを噴かして頭上から敵集団との距離を詰める。
何度か交戦して分かったが、この熊は攻撃性が高すぎて、あまり駆け引きが上手くない。
防御力の高さにあぐらをかいた、雑なアルゴリズムの妥当な末路だ。
こうして私自身を囮にして散開を防げば、エルダリオンのプラズマ砲で容易く一網打尽にできるだろう。
「遠慮なく撃ち込んで下さい!万一の場合でも、こちらにはシールドが有ります。」
『あっ、ちょっと!もうっ!エルダリオン、ハーフチャージで同時射撃!』
ZZAAPP!!
エルダリオンの左右の腕から同時に2発のプラズマ球が発射され、足下で高温と高電圧が炸裂した。
絵面は危険そうに見えるかも知れないが、私の飛行能力を持ってすれば、巻き込まれる方が難しい程度の弾速だ。
耐衝撃に特化した装甲に想定外の弾種を叩き込まれて、熊型が浮き足立つ。
「GRRrryy!!」
3機の内、最も奥にいた1機は比較的ダメージが小さかったと見える。
他の2機よりも早く体勢を立て直して、エルダリオンに飛び掛かって行く。
「困りマシたね。当機はストッピングパワーの高い武装を積んでいないのデスが…」
「存じておりますとも、お任せ下さい!」
ライトショルダーユニットを起動。
左右に広がって標的を横から挟み込むPMミサイル。
この間のエアポケットで体験した、散弾の鬱陶しさを取り入れるべく採用した装備だが、直進しないと言う特性は、このように誤射を防ぐ目的でも有用だ。
「「Gzyyy!」」
一機を止めている間に、今度は私が2機の熊型から挟撃を受ける事となった。
数時間前までの私なら焦っただろうが、今は違う。
『アシヤさん!ハルさんが!』
『へーき、へーき。こちとらA級なんで!』
なんかお嬢様がイキっておられるな?
人見知りよりも、得意分野を披露する興奮が勝ったか。
オタクあるあるやなー
では、私もいい所をお見せしよう。
この熊型アタッカーの防御力の源は、胴体をグルリと覆う対衝撃装甲にある。
その積載を確保する為にかなりの無理をしているらしく、見えない部分は意外と安普請に作られているのだ。
例えば、全高3メートルの長身に守りを依存したペラペラ装甲の頭部などは、その最たる物だろう。
「軽くしたいなら、せめてハイテン材を用いるべきでしたね!安物めが!」
愚かにも弱点を晒しながら手を伸ばして来た1機を電磁クローで断頭。
残る一機には背中を見せる事となったが、このままブーストで振り切ってしまえば問題ない。
PMミサイルで足止めした最初の1機を背中から蹴倒し、再び上へと離脱する。
『おっし、これでキメかな。タイラーさん、左右の砲で2機いっぺんにやれる?』
『無茶言わないで下さいよ!?エルダリオン、手前の1機に右手分だけフルチャージ射撃!」
おすまし顔だったタイラー様のリアクションも大分崩れて来たな。
まあ、無理にお嬢様の水準に合わせる必要はない。
まずは距離の近い1機を、確実に仕留めて頂ければ十分だ。
「もう一機も来ますよ!トドメは頼みます!」
「承知しマシた。ハル殿、ゴ注意下さい。」
背後から飛び掛かって来る巨大を空中宙返りでいなし、延髄を蹴って跳び離れる。
敵機と離れ過ぎて反撃が届かなくなるマニューバだが、今はそれがちょうど良い。
エルダリオンはアイドリング中の左プラズマ砲を最後のアタッカーに叩き込んだ。
全身からバチバチと火花を噴き上げて、敵機が沈黙する。
『はぁぁぁ…寿命が縮みました。アシヤさんとハルさんは、いつもこんな綱渡りのような戦い方をしているのですか?』
えっ、これで綱渡り?
普段の狩りよりも大分おおざっぱだったんだけど…
ひょっとして、私なんかやっちゃいました?
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