第26話 第3暫定ルート①

 納品トロッコをチャーターし、前回の探索で発見した、イズミール深度500帯の安全地帯まで手早く移動する。


 費用は税込9000クラウン。素人が常用するにはお高いが、お嬢様の腕ならソーサーヘッドを1グループも狩ればお釣りが来る金額だ。


 降車地点から振り返ると、組み立てライン側をじっと睨みつけているフレイムタンが、遠くに見えた。


『もういっぺんやったら、ノーダメ行けそう?』

「移動を含めて10秒と言った所ですね。」


 別に盛った数字ではない。

 お嬢様の採用面接で見た、炎城様の切り抜き動画で、あれの純魔力兵器が頭部フレームの歪みに対して、極めて脆弱である事は確認済みだ。


『おっしゃ!トロッコ空荷で返すのもなんだし、スタートダッシュ決めとこかー!』

「承知いたしました。腰部バランサー狙いでよろしいですね?」


:お、やつざきリベンジ?

:純魔の対処法わからんかったから助かる

:お礼参りじゃオラぁん!


 感知範囲外からグライドブーストで高速接近。

 当然、途中で気付かれて、敵機の顔がこちらを向く。

 予定通りだ。


『こいつはねー、見た目通り顔が弱点です!ちょっとでもフレームが傷付くと主砲が撃てなくなんのね。そんで他の飛び道具は何も積んでないから、あとは飛んでれば楽勝!おらよー!』


 いつぞやと同じく、敵機の口が赤く輝く。

 こけ脅しだ。

 下手に回避を試みる方が悪手。

 かまわず電磁クローを起動して接敵する。


 魔力砲のチャージが終わる前に正面から突っ込み、そのままパリィの要領で、顔面に一撃。

 たったそれだけで、繊細なバランスで成り立っていた純魔力兵器は発射不可能になった。


 あとはまあ、作業だ。

 私の飛行能力で頭上に陣取ってしまえば、もう敵機の攻撃は何も届きはしない。


「『歩行者の妨げになる行為はおやめ下さい』!」


 ライトアームユニット起動。

 安心と信頼のオートボウガンで、非装甲の顔面を針山にしてやる。

 こうすれば弾単価の高い肩部武装を用いずとも、ほぼ無傷のまま機能停止まで追い込めるのだ。

 ね、簡単でしょ?


:はっっっや

:これは美味い

:総額いくらになるんだこれ


『せやろー!こう言う事ですよ、こう言う事!見つかったばっかの新種だからね!バランサーだけで50万、全身卸せば250万は固いっちゅーわけよ!ぐへへへへ…』


 お嬢様が表情パターンを恵比寿顔に変化させる。

 頭の周りには札束のエフェクトまで飛び交っていて、凝った作りだ。


 フレイムタンは大きいので、大雑把にいくつかのブロックに分解した後、私たちが乗ってきたトロッコでそのまま納品する。


 とくにカネになると見込んでいるのが、前回交戦時に見事なバックキックを披露してくれた、腰部バランサーだ。

 また、大きさの割に驚異的な耐久力を発揮した足首のジョイント部も見逃せないだろう。

 要約すると、こいつは下半身が美味い。

 

 今回の並走攻略は、制限時間内に獲得したパーツの査定額や、トロッコ設置地点の提案など各種インセンティブを足し合わせた総収益額の勝負だ。


 無論、インセンティブの比率が1番重いため、狩りよりも攻略が推奨だが、トロッコを利用できる範囲で大物を納品できたのは僥倖。

 結構なリードを取れたのではなかろうか?


『おっ、やっさん早速やってんねー。附子島も頑張んなきゃ。』

『あら、ベノちゃ!応援に来てくれたの〜?』


:ベノちゃん見に来とるな

:やつざきが聞いた事ない声出してるw

:てぇてぇ


 と、第1暫定ルートを攻略中の附子島様がひょっこりボイスチャットに現れた。

 お嬢様が露骨に猫撫で声になっていて、正直ちょっとキモ…失敬、微笑ましい。


 『ベノちゃんは第1ルートだよね。そっちはどんな感じ?』

『もうずっとエアダクトの迷路だよぉ〜、イヴが埃まみれになっちゃう。』


 ふむ、他のルートか。

 もちろん配信画面には映さないが、私のモニターと視界では、他2名の配信も小窓で開いている。

 

 近くに敵反応も無いことだし、移動中にちょっと同時視聴してみるか。

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