第80話 巨人と猛禽
データベースと照合。
あのバカでかい鳥のようなシルエットはバブーンカイト、植物質の肌を持った巨人はブッシュキーパーか。
『飛ぶ奴はやつざきとツバサ先輩で何とかします!ピョンピョン組の2人で歩く奴のほうお願いします!』
『まっかしといてー!チャッピー、お仕事だよ!』
そのビュンビュン組とかピョンピョン組って呼び名まだ有効だったんですか。
まあ、組み分け自体には私も異論はない。
私とバズは二手に分かれて、それぞれ左右から翼竜のごとき巨鳥の側面を取りに行く。
:でっっっ!
:何メートルあるんだこれ
:やっぱ魔力で浮いてんのかな?
ご明察。生体ガーディアンの長所は、なんと言っても魔力機構をコンパクトに出来る事だ。
自らの魔術で起こした風で自らを浮かせるなどと言う曲芸じみた設計も、生体ガーディアンなら実用ラインに収められる。
普段なら私1機でも余裕でぶちのめせる相手だが、今は右肩がカーゴコンテナで埋まっているため、飛び道具が足りない。
無理攻めは避けたい所だ。
『ツバサ先輩、弾幕お願いします!』
『了解!!バズ、左右0.3秒差でミサイル連続散布!!』
バズが左右の肩に搭載された回転式ミサイル散布ランチャーを交互に駆動させる。
1発1発は小さく低威力だが、弾幕形成にはもってこいの装備だ。
「てけり・り」
生体ガーディアンであるバブーンカイトが、この攻撃に対して出した答えは、やはり魔術。
風の術で乱気流の鎧を纏い、蜂のようにたかるミサイルを吹き払う。
この巨大を浮かせる程の出力だ。
親指サイズの極小ミサイルはあえなく気流に巻き込まれて散り散りとなった。
だが、それでよし。
近接信管が起動し、乱気流のあちこちで小爆発が起こる。
風の流れが乱され、敵性生命体の飛行にほんの僅かだが支障が出た。
「ハル君、頼んだ!」
「了解!」
ライトアームユニットを起動。
電磁加速式オートボウガンの初速にかかれば、緩んだ風の鎧など紙切れ同然だ。
『あったれぇ!オラッ!』
――――――――――――――――――
『メノウ先輩、今だけはランス封印して下さいね。掴まれるとマジでシャレになんないんで!』
『うぇー、マジかよ。ミサイル片方下ろして来ちゃったー』
地上のピョンピョン組は、膂力に優れるブッシュキーパーとの接近戦を避け、バックジャンプで敵と距離を取っている。
エアポケの経験が豊富なのは揚戸様の方だが、生体ガーディアンへの対処は附子島様が専門家だ。
:めっちゃ硬そう
:こいつ会った事あるけど近接はマジ無理
:掴まれるとやばいのか
チャッピーは私と同じく右肩にカーゴコンテナを取り付けているが、空いた左肩をシールドで埋めて来るような殊勝なタマではない。
敵性生命体の周囲を旋回しながら、普段はランスの補助に用いる小型ミサイルで体表を炙りにかかる。
『いっとけ!このー!』
「てけり・り?」
掌サイズのミサイルが4発、続けざまにブッシュキーパーに着弾する。
体表に損傷はなし。
音と煙で注意は引けているが、有効打とは言えない。
「主様、あれの外皮は土の術で強化されております。豆鉄砲では…」
『いいの。イヴ、タレットをソナーモードで展開。周囲の地中の音の反響を観測して。』
イヴが峡谷の間を飛び回りながら、タレットを設置して行く。
はて、地中の音?狙いが読めんな。
『やっさん、聞こえる?上のでっかい奴、もうちょっとだけ飛ばしといて!落として欲しい時は合図するから!』
――――――――――――――――――
えっ、それはつまり、このデカブツを指示が来たタイミングで確実に撃墜せよと言う意味で?
言うは易しとはこの事だ!
『あ、まだ落としちゃダメだった?ハル、ちょっと射殺待って。』
「いやいやいや!んなこと撃った後に言われましてもね!?」
お嬢様が慌てて射撃を中断し、私を離脱させる。
鳳様もきょとんとしつつ、地上からの指示に従っているようだ。
バブーンカイトは風の術で体を支えながら大きく全身を震わせ、私が突き刺したオートボウガンのボルトを振い落とす。
残った傷跡は軽微。
まだロクにダメージは与えられていない。
『八津咲、狙われてんぞ!!』
鳳様が叫ぶ。
直接的な痛みを与えたのは私だ、敵性生命体から本能的に警戒されているのだろう。
台風じみた追い風に乗って、巨体が飛びかかって来る。
質量のぶつけ合いは不利!
閉所を想定してヒーターシールドを付けてきた事が裏目に出たかも知れない。
結果論だが、カイトシールドが有れば…
「下がってな、ハル君。さっき下で良いもん拾ったんだ。」
「良いもの?その武装でどうするつもりですか?」
バズが敵と私の間に割り込んで来る。
両手は荷物で塞がり、両肩にはミサイルランチャー。
とても前衛向きの武装構成とは思えないが、何か策があるのか?
眼前にバブーンカイト!
「こうすんだよっ!そらっ!」
バズは左腕のコンテナから飛び出した標識の看板部分を右手でひっ掴み、眼前に迫った巨大な嘴めがけて、迷わず叩き込んだ。
:えええええ
:さすがに効かんやろwww
:標識曲がっちゃうー
ペコンと、情け無いほど軽い音が鳴り、バブーンカイトが迷惑そうに顔を逸らす。
ダメージは殆ど与えられていない。
が、今はそれが好都合だ。
敵の攻撃を制しつつ、墜落はさせずに済む。
しかし、せっかく拾った納品物をこんな風に使って良いのだろうか…
『見つけた!底なし沼!』
通信ごしに附子島様の声が響いた。
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