第79話 行きは良い良い
首尾よく拾うものを拾い終えた私たちは、再び管理棟のエントランスで合流し、野外環境再現エリアに出ていた。
『おつかれ〜』
『お疲れ様です!』
『やっさんただいま〜』
『おつかれー…』
:ちゅばがメンタルやられとるw
:あれ初体験した後じゃ仕方ないわな
:ベノちゃん企業勢になってから、あんま生体狩りしてなかったもんねー
『あー、ベノちゃんの解体って、大体いつも虫とか内臓がドアップになるから…』
『あ、やべwww今見たらチャンネル登録者ちょっと減ってたわwwwやらかしたwww』
いやいや、笑い事じゃないですよ附子島様。
まあ、正直言って遅かれ早かれではあったので、軽く流しやすいシチュでリスナーをふるいに掛けられたと言う事で良しとしておくべきか…
『確かに絵面が大分ヤバかったねwwwで、帰り道どうしよっか?スクラップ結構いっぱい拾ったから、橋は避けた方が良いと思うけど。』
揚戸様が引き続きテキパキと現場を仕切ってくれて頼もしい。
確かに、今回は戦利品で、みんな大分重量が増しているからな。
特にバズ。
左腕のコンテナモジュールからにょっきりと…ええと、なに?
恐らく道路標識?と思われる物体が飛び出しており、大きな看板の付いた先端部を支えるために、右手まで塞がれている。
シルクバンカーを撃破した後、左側チームが建物の奥で拾った戦利品らしい。
こうして現存している以上、ダンジョンの一部として維持されている備品なのだろうが…いったい何に使うんだこれ。
ともかく、こんなデカい荷物を抱えたまま、崩れかけの橋を渡るのは避けたいと言う一点では、私たちの意見は一致している。
『一応、ちょっとだけ試してみましょうか。やっさん、フォローよろしくね。』
『あいよー』
附子島様がダメ元で橋にイヴの片足を乗せると、それだけで橋板がグニャリとたわみ、グラグラと危険な振動が周囲に伝播した。
「あっ!」
「ベノちゃん危ない!」
バキンと乾いた音がして、へし折れた鉄製の覆工板が、ぬかるんだ谷底へと落ちて行く。
続いてドポンと言う水音。
遠目には単なる泥に見えたが、どうやら雨水が溜まって底なし沼のような状態になっているらしい。
間一髪、橋もろとも谷底に吸い込まれそうになったイヴを背中から抱き留め、バックブーストで引き戻す。
やはり帰り道では、ここは通れんか。
『流石にこれは無理やろ!どうする?ツバサと八津咲だけ先に戻って荷物おろして来る?』
重量の増加で飛行能力が落ちているため、五分五分と言った所だが、飛んで飛べない距離ではない。はずだ。だが…
『先輩んとこのバズさんはともかく、ハルはしんどいかなー…さっきエンジン見つけちゃったんで、コンテナ付けた右肩が大分重くなっててバランスがちょっと…』
:ちゅばも両手塞がってるしなー
:旋回するとき看板が空気抵抗になりそう
:無理せず全員で迂回ルート行った方がよくね?
『ま、空からの画はさっき見せたしね。4人で仲良く地上ピクニックしようぜー』
その揚戸様の一言が決め手になった。
やっぱ配信的には、リスナーに行きと違う景色を見せたいもんね。
企業案件と言っても、ブースターのPRじゃないし。
もうライト係は必要ないので、経験者の2人に先導を任せて、私とイヴは後ろからついて行く。
「イヴ殿、機体に破損はありませんか?」
「え、ええ、平気。ハルこそあの物狂いの槍使いと一緒で大丈夫だったか?」
あ、やっぱりイヴから見ても、チャッピーはアレなんだ…
悪気は無いんだろうけど、リスク管理の基準がだいぶ緩そうなんだよなー
あの調子で揚戸様のチャンネルは大丈夫なんだろうか。
逆にイヴと同じ組に居たバズは普段どんな感じなのだろう?
私の個人的な印象だと、ちゃんと必要事項を適切に確認して、卒なくこなすタイプのようだが。
「まあ、大事はありませんでしたよ。そちらのバズ殿は慎重で頼もしそうでしたね。」
「…過ぎれば単なる臆病だ。某は好かん。」
えっ、なにその反応?
私が見てない間にバズとなにがあったん?
大蜘蛛の解体ショーに引いてたのがそんなにお気に召さなかった?
なんだか確かめるのが怖くなって来た。
これ、突っ込んで聞かない方が良いのかな…
行きの時に上空からも確認したが、どうもこの辺りの地形は、左右互い違いに迫り出した崖をジグザグに伝わなければ抜けられないらしい。
まず管理棟の前の斜面を降り、谷底の林を通り抜けた後に、再び入口側の斜面を登る事になる。
私たちが今こうしてダベりながらトボトボと歩いているのは、管理棟前の坂から谷底へと至る坂道だ。
そして、こう行った低地は水が溜まり易いため、小さな生き物が繁殖しやすく、それらを餌とする捕食者の狩場となる。
『みんな、気を付けて。前方に大型の生体ガーディアンが2体!飛行型と歩行型!』
どちらも大きい!
あのボロ橋の存在理由はこれか!
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