マリカは定番

第48話 焼肉回

「やっぱり塩ホルモンですかね。」

「あっ、ハツお願いします。」

「あたしミノ!味噌ダレで!」


 いや、渋いな!

 初っ端から全員モツかい!


 現在、お嬢様は4期生のご同僚と共に、引越し祝いの焼肉を食べに来ている。

 ちなみに、ハツを頼んだのがお嬢様だ。

 なんでもレモンサワーに合うんだとか。


 私たちゴーレム組も、それぞれ主の携帯端末に意識を飛ばして全員参加しているのだが、ケースに臭いが染み付かないか少々心配だな…


 「お、来た来た!それじゃ早速、焼いて行きますぞ〜」

 「うぃーす、ディアち奉行様おなしゃーす」


 肉の皿が運ばれてくるや否や、ホーエンハイム様が手際良くそれらを焼き網に整然と並べ始める。

 炎使いだけあって、七輪の扱いもお手のものと言う訳か。


 ボルヘス様は構えた箸を迷わずカクテキへと伸ばし、肉には断固として手を触れようとしない。

 お世話される覚悟が決まった、堂々たる待ちの構えだ。


 お嬢様はオロオロしている。

 家族以外と焼肉に行く機会など無いに等しいため、勝手が分からないのだろう。

 とりあえず、空になった肉のお皿を、重ねてテーブルの端に寄せるなどしていた。


「あのっ、レディアさん、私もなにか手伝います。」

「いえいえ、大丈夫ですよ、ヒカリさん。火の事はこの劫火の魔女レーヴァテインにお任せ下さいな。」


 ホーエンハイム様がちんまい体をそっくり返らせて胸を張る。

 いや待って、その二つ名そう言う由来なの?


 真相を知りたいような知るべきでないような私の疑問はさて置き、身長170cm前後の2人に、小柄なホーエンハイム様が甲斐甲斐しく世話を焼く光景はなんだかシュールだ。


 しかし、こうして見ると、やはりお嬢様とホーエンハイム様の間には、イマイチこう…


『なあ、ハルやん。うちのボスと貴機んとこのお嬢様だけどよ。なーんか距離遠くないか?』


『ロイ殿もそう思われますか。私も同意見です。』


 ロイが念話通信で話しかけて来る。

 ね、やっぱりそう思うよね。


 "やつざき殿"と"ホムラちゃん"で居る時はまだしも、こうして中の人同士で話している時のお二人には、どうにも妙な間と言うか遠慮があるように見える。

 

 お互い嫌い合っている様子はないのだが、顔合わせの時から色々な面で対照的な2人であっただけに、距離の縮め方を決めあぐねているのだろう。


『気持ちは分からぬでもない。が、いつまでもその調子で居ては不都合も生じよう。』


 普段は寡黙なイヴも、やや口数多めに苦言を呈する。

 イヴも最初は無口で取っ付き辛かったけど、最近は大分コミュニケーションが取りやすくなって来たんだよな。


 ボーパールで協働したのが良い刺激になったように思う。

 お嬢様とホーエンハイム様にも、何か良い切っ掛けがあれば良いのだが…


「そう言えば、2人ともコラボの練習してる?」

「してますともー。あ、センマイ刺追加で。」

「うん、私もぼちぼち。あとサンチュで。」


 ボルヘス様が言うコラボとは、今週末に迫った2期生との初コラボ企画の事だ。


 ここアガルタシティ近郊にある、廃ダンジョンを再利用した訓練施設を借り切って、妨害ありの障害物レースを行う予定となっている。


 遠隔操作機械を用いての模擬戦レースは歴史が長く、現代に至るまでに様々なレギュレーションが考案されており、その中に私たちのようなゴーレムを用いた物もあるのだ。


 それに備えてお嬢様と私も、配信内外で練習に励んでいるのだが、これが中々に難しい。


 コース内に設置された支給アイテムの使い方が奥深いのだ。


 ボロ負けしたらしたでネタにはなるが、どうせなら4期生には、様々なジャンルで強いイメージを付けておきたい。

 ブランディングは大事だからね。


「いやー、楽しみだね!マリカ!」


「ねー!ルリ子先輩、実はマリカめっちゃ上手いらしいよ。アイテムの使い方がめっちゃ嫌らしいって。」


「あはは、なんか分かる。マリカって性格出ますもんね。」


 "マリオネット・スカーミッシュ人形操術小模擬戦"

 略してマリカの対戦が間近に迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る