第36話 結果発表
『えー、と言うわけで、優勝は八津咲ネイルさんでした〜!おめでとうございます〜!』
司会を務めるスタッフの村人B様、略してBちゃん様が元気よくお嬢様を讃えると、コメント欄もワッと湧き上がった。
:おめ〜!
:やつざき最強!
:マジか!炎城で決まりだと思ってた
:ほんと二転三転したよな
:出かけるつもりだったのに最後まで見ちゃった
:ボス戦みんなカッコよかったよ〜!
『ぬあー負けた!おめでとうございます〜』
2位となった炎城様も惜しみない拍手を送ってくれる。
お嬢様は現在、結果発表用に用意された背景の真ん中で表彰を受けていた。
なにぶん今までこういう企画にはあまり参加してこなかったので、どこか動きがぎこちない。
『あっ、いや、どもです…正直、優勝はホムラちゃんだと思ってたんで、やつざきビックリしております…』
お嬢様、炎城様、附子島様の3名は、全員がそれぞれの担当ルート完成を認められ、その分の報酬を受け取った。
となれば、勝敗の行方は必然的に、それ以外のプラスアルファ…つまり各種探索インセンティブと、納品できたパーツの査定額によって決まる事になる。
故に、それらの中で最も比重の大きい、トロッコ停車地点のインセンティブを2箇所分獲得した、炎城様の勝利は確実かと思われたのだが…ここでまた番狂せが起きた。
附子島様の第1ルート踏破成功は、お嬢様が提供した配線予想図の寄与が大きいとして、この分がお二方の折半となったのである。
:正直、自分からベノちゃんの配信に乗り込んでって情報タダで差し出し始めた時は、こいつ大丈夫かと思いました。
:蓋を開けたら、あれも勝利の布石だったのか
:やつざき抜け目ねえな
いや、多分これは完全なる偶然です。
かくして、僅差で敗れるかと思われていたお嬢様は、2位に大差を付けて優勝。
とーめんたーずの第一回グループ企画は大いに盛り上がって幕を閉じたのであった。
『いや〜、負けてしまいましたか。やつざき殿、お見事であります。』
『ううん、ホムラちゃんこそ。企画が盛り上がるように、裏で1番頑張ってくれてたでしょ?めっちゃ頼もしかったよ。』
そう褒められると、炎城様はピクリと顔を跳ねさせて、バツが悪そうに目を逸らした。
『…あはは、分かっちゃいました?流石にちょっと露骨でしたかね?』
『そんな事ないって!ホムちのおかげで展開にメリハリが付いたーって、ベノ民さん達もみんな褒めてるよ〜』
確かに、身内の贔屓目になるが、今回はみんな本当によく頑張ったと私も思う。
全体のテンポは炎城様が、アクションの見せ場はお嬢様がそれぞれ作り、附子島様は退屈になるはずだったハズレルートを台風の目に育て上げた。
この3人であれば、今後もリスナー達を飽きさせる事は無かろうと思えるような、いい配信だった。
『やあ、皆さんお疲れ様。』
と、配信に乗らないチャットアプリで、クロウリー社長からのメッセージが届いた。
『素晴らしい配信でした。今後もその調子で頑張って下さい。今度予定されている、先輩方とのコラボ企画にも期待しています。』
「…だそうです。」
「ジュンジさんって、メールだと口調変わるよね。」
お嬢様、真顔で突っ込み所みたいに言ってますが、それこそが、あなたに欠けているTPOと言うやつです…
しかし、先輩方とのコラボか。
現在スケジュール調整中との事だが、お嬢様とウマが合いそうな先輩タレントはそれなりに居そうなんだよな。
切り抜きを見てみた中では、2期生
いずれにせよ、思いの外快調な滑り出しで、今後が楽しみだ!
――――――――――――――――――
「コンセプトは"最強"だったっけ。確かに、この実績見せられたら納得するしかないよね。」
モグライブの在籍タレントは現在13名。
極めて大きな箱と言うわけではないが、それでも多忙なメンバー全てがデビュー前に顔合わせを済ませられるわけではない。
まして4期生ヒカリ・アシヤの現住所はハイデラバード。
事務所のある首都アガルタシティまで、空路でも2時間かかる距離だ。
必然的に他のメンバーとのやり取りはSNSやチャットアプリが中心となり、顔を突き合わせて話をする機会には中々恵まれずにいた。
「面白い子たちじゃん。全員A級だって?社長よく捕まえて来れたよね〜」
「…2人ともヴィオちゃんの繋がりみたい…」
ヴィオちゃん。ヴィオレッタ・ボルヘスの事務所内での愛称だ。
リアルでも人当たりの良い彼女は、もちろん職場内の人間関係も卒なくこなす。
そんな彼女の紹介だからこそ、4期生とーめんたーずは今のメンバーに収まったと言っても過言ではないだろう。
「元気な若者はいいねぇ、一回直接会ってみたいわ。」
「ホーエンハイムさんはともかく、アシヤさんがね〜ハイデラバード遠いからなぁ。」
「…飛行機の距離だもんね…」
3人は、モグライブ2期生Gemmyの面々は、顔を見合わせて苦笑する。
入社直後に会社から送られた、引っ越し費用補助の案内にヒカリ・アシヤが気づくのは、それから実に2週間後の事だった。
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