第82話 納品所ではお静かに

『ふぇ〜、帰り着いたぁ。』

『思ったより大変だった…』

『デカいの2匹に絡まれたからねー』


 這々の体で輸送車に帰り着いた私たちは、各々の体に取り付けられたカーゴコンテナを下ろして荷台に放り込んだ。


 コンテナ自体も借物なので、変に中身を出し入れするより、丸ごと受け渡した方が傷防止に好都合なのだ。


 自動運転システムをオンにして、最寄りの納品トロッコ駅まで車を走らせる。


『なんか最後普通に強行突破しちゃったけど、あれ結局どうすんのが正解なの?ツバサあの状況になった事ないから、分かんなかった。』


『うーん、1体ずつだったら視線切りながら撒くかなー?今回は飛ぶ奴が居たから、それは無理だったけど。』


 確かに、あの歩行型だけなら、無理に戦う必要は無かっただろう。

 ぶっちゃけ狩っても割に合わないし。


 生体ガーディアンの死骸も一応、金になりそうな部位は切り出して持って来たが、今回の買い取り指定品目には入っていないため、金額に期待はできない。


:いや、普通はノータイムで逃げるんだわ

:誰も退こうとしないのマジバーサーカーwww

:実は結構あぶない状況だった感じ?


『今回みたいな場合は、敵を避けて大回りするのが安全だけど、配信中に変わり映えしない風景をゾロゾロ並んで歩くのもなんだしねー』


 撮れ高よ、撮れ高。と語る揚戸様を見ていると、チャッピーの言葉にも幾ばくかの信憑性を感じられる。


 あいつも隙あらば引っ掻き回して面白い画を作ろうとするからな…


「フヒヒ、ごめん、ごめん。ハルたん何だかんだで乗ってくれるから、弄り易くてさー」

「お、喧嘩か?」


 いかん、無視だ無視!

 おそらく揚戸様も炎城様と同じく、配信好きが高じて、魅せるための探索を追求し始めたタイプなのだろう。


:はぇー、生配信って大変やね


 コメント欄のリスナーも感心している。

 そうそう、結構色々と考える事があるんよ。


『さてさて、帰り道ちょっとトラブったけど、チビっこたちは初めてのエアポケどうだった?』


 揚戸様がまとめに入る。

 慣れた探索者になると、複数のエアポケットをハシゴしたりもするらしいが、流石に未経験者のお嬢様に来た案件で、そこまでは求められなかった。


『やつざきは今回の事で、ダンジョンって生きてるんだなーって改めて思いました。貴重な資源を未来に残して行けるよう、これからも大切に探索したいと思います。』


:おかしいな?やつざきが清楚に見える

:狩人目線だからこう言う所は真面目だよな

:やつざき、高額パーツ欠乏症にかかって…


『そうですねー、エアポケットの中は色んな物の動きがゆっくりなので、化石探しみたいで楽しかったです。配信外で一度ゆっくり調べてみたいですね。』


:化石探し分かるわ

:普段は起きないことが起きるよね

:ベノちゃんて配信外でも結構潜るのん?


 確かに、私も普段とは全く異なる環境に触れる事ができて勉強になった。

 お嬢様はマルチに活動されているが、本質的には狩人だ。

 状況対応の引き出しは多ければ多いほど良い。


『ツバサも久しぶりで楽しかった〜、4期生とも初絡みできたし。2人とも思ったより大分濃かったわwww』


 はい、よく言われます。

 なんか先輩方と会う度にやべー奴認定されるんだけど、ひょっとして4期生ってそう言う人材が集められてるんだろうか?

 一応、コンセプトは最強って事でお話伺ってたんですけども…

 

 わちゃわちゃ感想を言い合っているうちに、輸送車の自動運転システムが目的地への到着をアナウンスして来た。


 あとは、トロッコ駅の呼び鈴を鳴らして、待機している無人車両に荷台の中身を引き取って貰えば、今回の仕事は完了だ。


『いつも思うんだけど、このトロッコ駅の開口部って、中から何か飛び出して来そうで怖いよねぇ。』


 怖い事言わないで下さい!


――――――――――――――――――


「映像記録はこれで全部か。」


 貸与したカーゴコンテナ4基分の防犯カメラ映像を全てチェックし終えて、アルウェンは一度大きく伸びをした。


 必要のない動作ではあったが、こうするとプロセスが一区切りしたようで、気持ちにメリハリが付くのだ。


 アルウェンが顧問の立場で影響力を行使する有限会社ゴンドールを通じて、ゴールデンドーン社に案件を依頼した理由はただ一つ。


 先日のゴーレム関連事件の報告内で異常な挙動を見せた、HAL-777なる要注意個体の観察のためだ。


「主を始め、協働する人間に対して反抗的態度は一切無し。僚機との関係も良好。安全性評価スコアはオールグリーン…」


 映像や音声を解析して得られたデータは、いずれもアルウェンの危惧が単なる杞憂であった事を示唆している。

 それが何より不気味だった。


 ある時は完全に暴走しているとしか思えない挙動をしていたゴーレムが、別の場面では絵に描いたように品行方正な顔を見せている。

 

 意識が分裂している?あるいは評価プロトコルを欺く手段がある?

 それならばまだいい、技術論で説明可能な問題だ。


 だが、もしもこれら二つの振る舞いが、このゴーレムの精神内で全く矛盾なく両立しているとしたら?


「…出来れば、どこかで直接確かめたい所だけど。」


 そのような精神性を、価値観を持ちうる生物を、アルウェンは一つしか知らない。

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