第23話 三魔女のサバト

蟲毒の魔女カンタレラの魔法のおクスリ、どうぞご賞味あれ。』


 効果は劇的だった。

 3基残っていた砲台が、糸の切れた操り人形のようにガクンと首を垂れる。

 稲妻のごとき速さだったサンダースケイルの尾から、力が抜けた。


 ジャミングに対応されるまで、猶予は推定30秒。

 その間に沈める!


『うおおおおーーーーっ!!!消毒ッ!!消毒ッ!!お肌の燻蒸消毒であります!!!』

「ラジャー、ボス!ハッハーーーッ!!!全部乗せだぜぇーーーッ!!!」


 ロイが言葉通り全身の武装を一斉起動する。

 ライトアームユニット、風精焼夷火炎砲。

 ライトショルダーユニット、連装榴弾砲。

 レフトショルダーユニット、炎精誘導ミサイル。

 レフトアームユニット、爆雷投射機。


 地獄の劫火に炙られて強度を落とした装甲に、ありとあらゆる角度から爆発物が降り注ぐ。

 リロードの間も火炎放射の手は止まない。

 右舷から尾撃。


『遅い!ハル、吹っ飛ばせ!』

「承知いたしました。こちらも砲撃に加わります。」


 ライトショルダーユニットを起動。

 先程に比べて遥かに速度を落とした尾の一撃など、もはや盾で防ぐまでもない。

 炎精榴弾砲で叩き返しつつ、追加の熱量をねじ込んでいく。


「そらそらぁ!お代わり行くぜぇ!」


 ロイが再び爆発物の雨を降らせる。

 同時に火炎放射が停止した。

 オーバーヒートを防ぐ為の一時的な指切りだ。

 やむを得ないが、一瞬だけ敵機に冷却を行う余地が生まれる。


『イヴ!火炙り奉行交代だよ!スタンクナイで温度維持!』

「御意。」


 イヴは空いた左手から投擲用の電磁ナイフを放ち、先ほどまで炎に巻かれていたサンダースケイルの胴体に突き立てた。


 牽制用の小道具だが、当て続ければそれなりの電熱が発生する。


 再び頭突き。

 馬鹿の一つ覚えだ、シールドで援護。

 この速度なら、軽量フレームの私でも十分に受け止め切れる。


『そろそろアーマー逝ったんじゃね?試してみよっか?』

『そうね~、やっさんの、ちょっといいとこ見てみたい~♪』


 あの、附子島様、その歌は流石に気が抜けます…

 お嬢様の操作に従い、サンダースケイルの胴に斬りかかる。

 レフトアームユニット起動。

 電磁クロー、最大出力。


『おらよーーーっ!』

「GGGGYYYYY!?!?」


 ザックリと、外装に裂け目が生じた。

 ショックアーマーは無し。


 間に合わなかったと言う事はあるまい。

 こちらの目論見通り機能不全を起こしたと見て良いだろう。

 押し切る!


『イヴ!冷却妨害はもう良い!騎士様に続いて!』


 再び上空に跳び上がったイヴが、重力を味方に付けながら、回転数を最大チャージしたリニア手裏剣を撃ち下ろす。


 裂け目に亀裂が生じ、内部機構が顔を覗かせた。

 無論、私も動き続けて、サンダースケイルの体表に新たな傷を刻み続けている。


「SSSYYY!!」

『わわっ!近付いて来た!?これジャミング切れてない?』


 サンダースケイルは何も動けないわけではない。

 任務の性質上、砲台が多数稼働している間は、ジェネレーター室出入口前に陣取っていた方が有利と言うだけの話だ。


 前提条件が崩れれば、当然その手足は飾りでなくなる。


 タイムカウントはまだ27秒。

 流石に特務機か。

 システムリカバリが想定より3秒も早い。


 生き残った砲台も射撃を再開した。

 一旦、後退せざるを得まい。


『ロイ、残りの砲台を潰すであります!』


 ロイの連装榴弾砲で砲台を1基破壊できた。

 硬直は私のカイトシールドでカバー出来るが、攻撃チャンスは返上だ。

 イヴがクナイで、壊れかけをもう1基黙らせる。

 残り1基。


『ハルが近い!榴弾砲で潰す!』


 炎精榴弾砲は、低反動だが、無反動ではない。

 とはいえ、この間合いでロイのリロードを待つのも、それはそれで危険だ。

 最善でないのは承知で、呑まざるを得ないリスクか。


「SSHHYY!!」


BOOM!


 砲台は破壊完了!

 しかし再び稲妻めいた尾撃。

 シールドは…角度が悪い!避け切れるか?

 一か八かだがやるしかない。


「おーっとぉ!やらせねえよ?」

「ロイ殿!」


 ロイが飛び込んでくる。

 いや待て、シールドも無いのに何のつもりだ!?

 まさか身を挺して庇うとでも…


 そこまで考えて、面接で見た映像を思い出した。

 なるほど、盾は無くとも、靴が有ったな。

 ルドラ社製の、とびきり頑丈なのが!


『必!!殺!!ファイヤーキーーーック!!』


CRAAAAAACK!!!


 交通事故のような凄まじい音が鳴り響く。

 グライドブーストの速さに重量級フレームの重さを乗せた一撃は、サンダースケイルの尾と仲良く運動エネルギーを分け合い、弾き合う。


 私が危険域から離脱して尚お釣りがくるだけの隙だ。


「お見事です、ロイ殿!」


 もちろん余った時間は遠慮なく、攻撃に再投資させてもらう!

 電磁クロー、最大出力!


『そろそろ倒れとけっ…つーーーのッ!!!』


 グライドブースト起動!

 高速で敵機の胴体を駆け上るように一閃。

 今度こそ真っ二つに裂けた外装から、筋繊維めいた内部機構がこぼれ落ちる。


 次でトドメだ。

 空中宙返りで慣性をいなし、滞空したまま再び敵機に正対。


 たった今、自ら作った裂け目に狙いを定め、その奥で唸りを上げる動力炉に、オートボウガンを撃ち込…


『焼夷火炎砲、冷却完了!いざ行かんロイ!今こそ死刑執行でありまーーーすッッッ!!!』

「ラジャー、ボス!どぉりゃぁぁぁーーーッ!!汚物は消毒だぁぁーーッッ!!」


KBOOOOOM!!!!


…む前に燃やされちゃったんですけど。

 え、これ、どうしよう?


『あんぎゃァァーーーーッッ!!な゛に゛や゛っでんのぉぉぉ!!パーツがっ!!カネがっ!!お宝がぁぁっ!!う゛わ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーっっっ!!!』


 勝利のファンファーレの代わりに、お嬢様の悲痛な叫びが、ハイデラバードの地下に響き渡った。

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