第39話 ボーパールにて
『続きましては、ハギスティッカマサラさん投稿の馬鹿ダンジョンであります。えー「出てくるガーディアンが全部ウォッチャー」。報告が無限ループしちゃいそうですね。』
「あー、これどうなんだろ?最終的には停止性問題の話になるよね。」
「お嬢様、着きましたよ。動画視聴は一旦やめて、体を伸ばして下さい。」
なんか炎城様の配信やたらハギス推しのリスナーがおるな?
ハイデラバードからトラックを転がすこと約20時間、私とお嬢様は現在、湖畔の街ボーパールで休息を取っている。
幸いな事に、流石のお嬢様も、引越し2日前に出発して35時間ぶっ続けで移動するような非常識なプランを立てていたわけではなかった。
荷造りと積み込みをほぼ完了した状態で、出発前日の夕方6時まで配信を行い、その後1時間で最後の荷物である配信機材を梱包して、翌日18時チェックインで予約したホテルまで、ほぼノンストップで移動して来たのである。
いや、改めて言葉にすると普通に非常識だな?
そう余裕のない配信スケジュールでもなし。
私としては、お嬢様にはもう少し頻繁に休息を取っていただきたいのだが、ご本人が譲らなかった。
と言うか、ご同僚2人に詰められなければ、移動中はずっと車中泊で済ませるつもりだったらしい。
この足も伸ばせぬクッソせまい助手席で。
「だ、だって、知らない人がいっぱい居る所でお泊まりするの怖いし…」
とか抜かしよったんで流石に叱りましたわ。
お体に障るからやめて下さい。
すったもんだの末に、最低限ベッドとシャワーだけはちゃんとした物を使うよう約束させ、今回のお引越し強行軍の実施が可決されるに至ったのである。
「っかー!着いたねー。ハル、お疲れ様。」
「お疲れ様です、お嬢様。」
時刻は15時。
手近な道の駅で駐車スペースを確保し、お嬢様に伸びをさせる。
エコノミー症候群にでもなったら大変だ。
なるべく念入りに体をほぐして頂かねば。
私はゴーレムなのでさほど負担にはならないが、トラックの狭い助手席に延べ20時間も座っているのは、人間にはさぞ苦痛だっただろう。
その内の半分くらいはグースカ寝ていたが、それでも残り10時間。
2時間の映画なら5本は見られる時間だ。
途中何度かサービスエリアで燃料補給がてら休憩は取らせたが、さほど渋滞に捕まらなかった事もあり、チェックインまではまだ3時間ほど余裕がある。
夕食には微妙な時刻だが、どうした物か…
「ねえハル、せっかくだし、ボーパールの探索者協会に行ってみようよ。」
おや、珍しい。
出不精のお嬢様が行き先のリクエストとは。
私としては嬉しくはあるのだが、しかし…
「承知いたしました。ですが…まさか今から潜るおつもりですか?この街に探査用筐体は預けていなかったはずですが。」
ここボーパールの街にも、小規模ながらダンジョンがある。
先史時代の化学工場の跡地とされており、主要機能は大崩壊前に停止されていたと考えられているが、無用となった施設を維持する自動プラントとガーディアンだけが、今も残されているのだと言う。
「いやいやいや!流石に飛び込みは無理だよ!でも、そのうち4期生の配信ネタに使えるかも知れないから、顔くらいは出しておこうかなって。ほら駐車場もあるし。」
おお、お嬢様が…!あのコミュ障お嬢様が、配信のために知らない街で自主的に営業活動を…!
ありがとう、モグライブ!
ありがとう、とーめんたーず!
そうと決まれば善は急げだ。
幸い道の駅から協会支部までは15分程度。
ホテルまでの移動時間を考えても十分余裕がある。
地方都市ながらも、しっかりと整備された道を流してボーパール探索者協会へと向かう。
うむうむ、道幅の広さも合格合格
…んん?
「なんでしょう?人だかりが…」
「あれって協会支部の建物だよね。なんかトラブルかな?」
ヒシヒシと嫌な予感がするが、この道は一通だ。
やむを得ず、そのまま進んで協会支部の前を通り過ぎた時、詰めかけていた地元住民の言葉が、お嬢様のお耳に入ってしまった。
「おい、どうなってんだ、ガス漏れって!ダンジョンの機能は死んでるんじゃなかったのかよ!」
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