第50話 マリオネット・スカーミッシュ
『ハイホー!皆様こんリッパー!モグライブ4期生、とーめんたーずの解体担当!
:こんりっぱー!
:八つ裂きよ〜
:1億で手を打とう
:初見です
: あじまた!こんりっぱー!
さあ、やって参りました。
マリカ交流戦、第一試合でございます。
本企画はフレンドリーファイア有りのチーム戦だ。
互いが互いに負担を掛け合う事を織り込んだ上での、4期生の結束が重要となるだろう。
皆様多忙で中々タイミングが合わず、集まっての練習はあまり出来ていないが、代わりに個人技は各々しっかりと磨いて来たつもりだ。
『がんばろー!』
『うおぉーーっ!皆殺しであります!』
ひとり物騒なのが居るが、見なかった事にしておく。
マリカはあくまでレースであって、殺し合いではない。
とは言え、発砲上等の荒っぽいレースである事は確かだ。
気を引き締めて臨まねば。
『盛り上げてくよーっ!」
『よろしくね…』
『よーしパパ血反吐ブチ撒けさせちゃうぞ〜』
2期生の方々もスタンバイ出来たようだ。
こっちにもやべー奴おるな。
猟奇的な台詞を吐いた声の主は、箱内屈指のクレイジーキャラと名高い
見なくても分かるわ。
あの方もう機体構成からしてアレだもん。
まずフレームパーツが左右非対称だもん。
旋回速度に偏りが生じそうな物だが、気になんないのかな…
:メノたそのランスいつ見てもエグいサイズwww
:パイルバンカー構えて小動物されても困るんよ
:まーた収益化剥がされるぞルリちゃま
お互いに闘志は十分。
場が温まった所で、今回も司会を担当して下さるスタッフの村人B様、通常Bちゃん様が試合開始前の煽りを始める。
『2期生と4期生は今回初コラボと言う事でしたよね。意気込みなどはいかがでしょうか?』
私たちと2期生とのやりとりは、基本的に現在ONになっている全体チャットで行われる。
試合が始まれば、このチャネルはミュートされ、お互いのチーム内でのみ有効なチームチャットと、各機の内蔵スピーカーを用いた直接音声通信だけが、私たちの連絡手段となる手筈だ。
『ボクは初絡みですね〜、他のみんなも初めてじゃないかな?改めて、2期生
米良様のアバターが率先してペコリと頭を下げると、どこか快活な印象を与えるポニーテールが尻尾のように揺れた。
この人いつもやべー奴枠だけど、ひょっとしてユニット内のリーダー的な立ち位置なのだろうか?
『揚戸メノウでーす!お婆だから優しく敬ってなー?』
『ごきげんよう。歴史ロマンの探究者、左道ヒスイです。今日は勝利の歴史を刻みたいと思います…』
いや、でもこれ他の2人も大分濃いな?
元気よくお婆を自称したチビっ子ギャングが
先輩方の動画を視聴したり、デビュー前後にSNS等でやり取りした事は有るのだが、2期生はフリーダム過ぎて、いまいち各メンバーのポジションが掴めていない。
『4期生とーめんたーずの附子島ベノミです〜。先輩方、今日はお胸を貸して頂きますねっ!』
こちらもリーダー格の附子島様から順番に挨拶を済ませて行く。
実は先方の左道ヒスイことミドリ・メイザース様とは既に協働経験があるのだが、ボーパールでの一件はプライバシー上表に出せない情報なので、初対面の体だ。
「にゃはは、よろしくね後輩ちゃんたち〜」
配信には乗らないスピーカー音声で、米良様の愛機
通信を仲立ちする我々ゴーレム同士の面識も、必然的に主のそれに準ずるのだが、ゴーレム同士のやりとりにおいては、人間たちのように畏まった挨拶は必要ない。
我々ゴーレムは生涯に渡って、自分以外の個体とコア同士を突き合わせて対面する機会など皆無に等しいため、その時たまたま操作している筐体間の物理的距離によって、互いの関係性が変化すると言う感覚がよく分からないのだ。
「本日はよろしくお願いします、ミーガン殿。ご活躍はかねがね伺っております。」
「おっ、ウチの名前も覚えてくれたの?愛いやつ愛いやつ〜」
私が一礼すると、ミーガンは楽しげに体を揺らしながら、こちらにヘッドフレームをすり寄せて来た。
主が主ならと言うべきか、こいつもだいぶ変わり物だな。
まるで有機生命体みたいな仕草だ。
「…イヴだ。お初にお目にかかる。」
「どうも。お手柔らかにな、先輩。」
その後もつつがなく視聴者向けの初めましてが進行し、いよいよ本題のレースに向けてBちゃん様がアナウンスを始めた。
『それでは早速レース始めて行きましょう!第1レースのコース設定は何が選ばれるかなー?』
マリカのコースにはいくつかの設定があり、本企画においては、参加者それぞれが希望の設定に投票して、その中から抽選で決定されるルールとなっている。
お嬢様が希望したのは、ノーアイテムでショートカットができるキングダムサーキット。
果たして選ばれるのは…!
『第1レースのコースは、みんな大好きエキサイトダッシュです!それでは皆さん頑張って下さーい!』
:エキサイトか
:鉄板よなー
:野良でも大会でも、まずはここだよね
:さすが人気投票1位
うむむ、やはり最初は鉄板の一番人気が来たか。
6人中4人が選んでたからな。
だが、これはこれでよし。
走りやすさに定評があり、初心者から上級者まで楽しく全力で走れる設定だ。
全3レースの手始めとして、我々にも視聴者にも優しい選択と言えよう。
ガコンガコンと派手な音が鳴り響き、旧ノイダ・ダンジョンの頃から組み込まれていた、内部構造組み替え機構が動き始める。
変形所要時間わずか数十秒。
現れたのは、シンプルな楕円のサーキット。
カーブにはダートが配置され、直線エリアに複数のジャンプ台が配置された、機体コントロールの巧みさを問われるコースだ。
『勝つよ、ハル!ベノちゃんに良いとこ見せちゃる!』
「お嬢様、そこは嘘でもネイリスト達にって言っておきましょうよ…」
お嬢様が早速PON発言をしておられる。
大事なアピールの場なんだから、しっかりして下さい。
もちろん、私もしっかりと練習の成果を発揮せねば。
3、2、1、スタート!
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