第51話 ロケットスタートって必要?

 スタートダッシュのやり方はさほど難しくない。

 2カウント目の点灯から一拍待って、3カウント目が灯る前にブースターを噴かし始めるのがコツだ。

 早すぎると安全装置が働いてエンストしてしまうので要注意。


:やつざきスタート上手くなったな

:ナイスゥー

:いきなりメノたそとトップ争いか


 まず先頭に躍り出たのは、黒と赤の機影、私と揚戸あげとメノウ様のCHAPPiEチャッピー-D9だった。

 共に軽量機、相手は逆関節フレームだが、グライドブーストで飛行する分には、跳躍力の差は問題にならない。


「お嬢様、まもなく最初のアイテムボックスです。」

『おけ、あるやつ取れるだけ取っていっちゃおっか。』


 流石お嬢様は考える事がえげつない。


 支援アイテムはコース内に設置されたホログラム・アイテムボックスに触れる事で手元に転送支給され、一度に2つまでのストックが認められている。


 3つ目以降は獲得してもアイテムの支給は無いが、取得判定の発生からボックス再設置までの時間、後続のアイテム取得を妨害する事ができるのだ。


 両手を大きく広げて、ボックスをかき集めるイメージで…


『意地汚いコトやめなさーい!若いモンは遠慮を覚えろ!遠慮を!』


 アイテムボックスに触れようとした瞬間、私の体をチャッピーの蹴りが押し退けた。


 同時に揚戸様のトレードマークである幼い少女のような声がスピーカーから響き渡る。


 さすが逆関節と言うべきか、短い助走で大した威力だ。

 危うくダートを噛まされる所だった。


『だっ!こんにゃろ!』


:先輩相手にこんにゃろ言いよったぞwww

:初手から株価調整やめてもろて


 私とお嬢様はややアウトコースに追いやられ、アイテムボックスも一つしか取得出来ていない。

 思うようには行かんか。

 現在の順位は2位。


「おのれっ!逃さん!」

「やーん、チャッピー怖ぁーい!ひゃははははは!」


 まもなく第一コーナーだ。

 私はチャッピーを追いながら、ドリフト走行で鋭角に曲がる。

 減速のエネルギーロスを回収して、エンジンに溜め込む!


:スティックカチャカチャ

:溜めろ溜めろ〜

:ブチかませ!


『舐めやがって!ハル、ミニターボON!』

「承知いたしました!」


 限界まで縮めたバネを解放するように、コンプレッサーを弾けさせる。


 瞬時に最高速まで加速する機体。

 同時にチャッピーに照準を合わせて、アイテム投擲を準備。


 初手で蹴られて押し退けられたのも、悪い事ばかりではない。


 1位と2位では、ボックスから支給されるアイテムの質に雲泥の差があるのだ。


 こう言う局面で、確実な逆転が見込めるほどに!


「ホーミング衝撃弾、発射!」

『食らえオラッ!』


 私の手から放たれたダンジョン産ハイパワーゴムの弾丸が、チャッピーの背中に突き刺さる。


「グエッ」


 と、潰れた肺呼吸生命体のような声を上げて、敵機の動きが止まった。


 クラッシュから復帰するまでの間に、私がチャッピーを抜き返し、距離を突き放す。

 折良く2つ目のアイテムボックスも獲得だ。


『ふっふぅー↑っしゃぁ!このまま逃げ切ろう!』

「はい、お嬢様。」


 どうやらチャッピーはロクなアイテムを引かなかったと見える。


 今しがた支給されたスリップゾーン発生装置を背後に対空させ、盾の代わりとするが、2位側からは一向に飛び道具が飛んで来ない。


 短い直線を抜け、第二コーナーが見えて来た。

 再びドリフトからミニターボを準備。


『げっ、トゲ来た!ハル、コース変更!』


:えっ、もうトゲ出たん?

:出現はや

:これは荒れる


 団子になっていた後続集団から、猛烈なスピードで剣呑なシルエットのゴム弾が追い縋って来る。


 先程私が用いたホーミング衝撃弾の上位種、トゲ付きホーミング衝撃弾だ!


 1位の走者をピンポイントで追い回し、近接信管で爆発する事で回避を許さない、厄介なアイテム。

 支給アイテムを翳しただけの即席シールドなど何の役にも立たない。


 発射を許した時点で、被害ゼロは不可能。

 対ショック体勢を取り、タイムロスの軽減に努めるしかなかろう。


 衝撃が来る!


『ルリちゃまナイスー。最初に前に出ちゃうと、こうなるんですよね…』


 激しく回転する視界の中、私を抜き去って行く萌葱色の機影が見えた。

 あのカラーリングは、TRONトロン-八十四…左道ヒスイ様か!

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