第5話 光帝都 ライテルーザ

 速屋先輩と俺は海べりのベンチまで移動をして話の続きをしていた。


「哀流君がいつ戻ってこれたか分からないけど、私は1週間くらい前には戻ってるのよ」


 ──それはどういう……。と言おうとした時もう一度、鬼頭先生の言葉を思い出した。


「──時間軸の誤差……」


 俺の言葉に速屋先輩は「──そういう事」と伝えてきた。


「あの後、準魔王の封印には成功したわ。でも、次元の穴ディメンショールがすぐに閉じなかったのよ。で、誰かが興味本位で入らない様にと魔物が入らない様にって考えて消えるまで見張ってたのよ」

「……でもそれと速屋先輩がこっちにすぐに来るっていう事が結びつかないんですけど……」


 俺の返しに、──まだ話は終わってないわ。と言うと続けた。


「それはね、スタル……剣崎主将があなたのことを心配してたのよ。あなたも知ってると思うけど、【空間魔法】を使う人は少ないの……。分かっている限りあなたを入れて5人だけ……」

 そう言われた俺はぽかんと口を開けていた。それを見た速屋先輩は驚きと、呆れ気味に言った。


「ちょっと待って……。ひょっとして知らなかっ……た……の? ウソでしょ!?」

「えっと……そうなんですか……?」

 完全に呆れた顔で「──えぇぇぇ……」と声を出している。そう驚かれても知らないものは仕方がない。


「でも、ただの冒険者であった俺の魔法属性の事を何で他の人たちは知ってるんですか? 権力者とか人たちならともかく……」

 そう返すと、呆れた顔を更に呆れさせて言った。


「あなたねぇ……。自分が目立ってないとでも思ってたの?」

「……え? どう言う事ですか?」

「哀流君……。あなたこっちにいる時相当やらかしてるでしょ?」


「──あぁぁー……」

 そうかも知れない……。言われて思い出した。


 俺は以前、ある町に潜む魔物討伐の依頼を受けた事がある。その際、想定外の魔物の集団と遭遇した。

 その時に慌てふためくルティアたちを助けようと魔法を放った。


 ──結果、町が半壊した。


 俺も動揺していたらしく魔力制御を間違えた。

 帰ってからギルドの偉い人にもの凄く叱られた。

 幸い、討伐という事で、住人は近くの街に避難していたらしく、人的被害はなかった。


 他にも水棲魔物の討伐で、ある村の近くの湖に訪れた時。輝光きこう剣術の使い手のイスカの大嫌いな虫の魔物であった為に、錯乱し縦横無尽に剣を振り回した。さっさと虫の水棲魔物を討伐をするべく魔法を放った。


 ──また制御を間違えた。


 ──結果、水瓶崩壊。村──水没。


 その国の王様に怒られた。怒られるだけで済んだので、厳罰は免れた。


 そして、俺が今いるメルガルラ帝国の隣の大陸の首都〈グリック〉での出来事────

 冒険者が連れ帰ったメシアの膨大な魔力に勘付いた魔族たちがメシアを連れ去ろうとした。


 その時の戦闘で王都の3分の1を壊した。

 でもこれは、グリック王国軍との共同戦線だった為にお咎めはなかった。


 ──結果、この戦いがきっかけでメシアと共に冒険へと出る事になった。

 まぁ他にも色々あるんだけど……。


「でもそれは、まだ俺が魔法制御が悪かった時期で3、4年前の話ですよねー!」


「……哀流君。話には尾鰭が付く物なの。地球でもそうだったでしょ?」


 そう言われると確かにそうだとしか言えない。色んな出来事の積み重ねが結果として大ごとになる。

 話が脱線したことに気づき、話を戻した。

 

「それで、剣崎先輩は俺の何を心配してたんですか? あと、先輩の呼び易い方でいいですよ、剣崎先輩はのことは」


「そう? じゃあスタルが言うにはね、さっき言った通り、空間魔法を使う人間は少ないから、使えば魔王側にその存在がバレてしまうかも知れないの……。あっちからすれば自分達の脅威になり得る存在を1人減らす事ができ、魔災軍として撤退はしたけれど、上々の成果だったのよ。そこにまた空間魔法を使う者が現れたらどうなると思う? しかも、撤退の理由となった準魔王を消した者が現れたら?」


 その説明に気づき、俺はその答えを口に出した


「……また魔族側の動きが活発になりかねない? というと事ですか?」

 速屋先輩は大きく頷くと、────だからね。と言い俺に、そうすべきという事を言ってきた。


「『ここぞっ』という時以外、空間魔法を使わない事を勧める様に言われたわ」

「でも、俺は空間属性だから……他の属性は……」

「大丈夫よ。こっちから地球に転生して、地球の魔力の影響で、恐らく空間属性以外も使えるようになってるはずよ。私だって、聖属性の聖白魔法以外の青属性を使えるようになったしね!」


 ────? その疑問を浮かべた。


「──青属性って何ですか?」

「青属性っていうのは、地球独特の属性だと思うからそう言ってるんだけど、水と樹木を操作する魔法なのよ。こっちでは、水単体や樹木単体を操作する魔法はあるけど、その両方を扱う魔法は無かったからね」


 速屋先輩の『』という言葉は、新しい属性の発見だという事を示していた。


「だから、哀流君も何かしらの他属性得てるはずよ」

 俺はその言葉に実感のない属性を考え、魔力感覚を集中させてみた。


 脳裏に浮かんだのは、【機械】【技術】──そして、俺が転生し、育った〈日本〉という場所の──人々が新たな物を生み出す────

 

これらは一つとなって、新たな魔法属性を生み出した。


「──先輩……。なんか頭に……入って……くる」

「それが、哀流君の新属性よ。ちょっと試してみたら? 今は周りには人はいないから……」

 そう言われて、頭に浮かぶそれを実行した。


 目の前と周囲には海、光──空気中に含まれる物質


 ────足りないものは創造する────


 その瞬間────

 何も持っていなかった両手には〈塩の剣〉と〈光の剣〉が現れた。


 ────感覚で理解した。


 今、創り上げた〈塩の剣〉は相手を切ることで水分を吸収しその特性を変える。

 もう1つの〈光の剣〉は持っているだけで、全身の強化を行い、素早さも筋力も頭抜けて上がる。恐らく剣速も上がっているだろうと想像がつく。


「なんかすごいわね……。こっちでは聞いたことない魔法ね。何もないとこから何かを創り出すなんて」

 そう言われ、──そんな事はないですよ。と言いながら返した。


「何も無いんじゃなくて、海と光があるから、それが一番に思い浮かんで……。それで、先輩に会う前に武器屋に行かないとって考えてたから……」


「なるほどね……。近くにある物質から創造し……それを錬金する──あなたの新しい魔法は空間属性を持つ哀流だからの魔法なのね。名前をつけるなら……ん〜……【創造錬金】てとこかしら!」

「創造錬金かぁ〜。なんか面白そうだな」

「もう……。お気楽ねぇ。これからはその創造錬金を使いなさいね」

「分かりました。『ここぞっ』という時に空間魔法を使いますね」

「うん!! で、何で武器屋の事を考えてたの?」

 その問いに、やらなければならない事を思い出した。

 そして─────


「速屋先輩! 俺! ライテルーザに行かないといけないんだよ!」


 そう告げると、これまでの経緯いきさつを説明した。

 



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