番外編 《お姉様大好きリーセア来る!?》⑪
会食の時間となり、俺と剣崎先輩は至って普通の軽装で向かった。
しかし、途中で合流をしたユイ先輩とミヤさんは、それぞれドレス着ていた。
ユイ先輩は薄いピンクのドレスに、髪には細かい装飾のされた髪飾りが付けられている。
ミヤさんはゆったりとしたシックな黒のドレスに、サイドテールに髪をまとめられてあった。
「あれ? ユイ先輩達はドレスコードがあったんですか? 俺と剣崎先輩は何も言われませんでしたけど……」
「それがね、私もミーヤセルカお姉様もそのままの格好で行こうとしたんだけど、侍女の人達が入って来て、着せられたのよ……」
ユイ先輩は頭を振りながら言っている。
これにミヤさんも続き、ため息混じりに答えてくれた。
「ワタシはドレスなんて合わないんだけどねぇ。そもそもスカートが好きじゃないんだよ……はぁ……」
「でも、お姉様は美人なので似合ってますけど……」
「そう言ってくれてありがとうね、ユイ。でもワタシはこんな性格してるからね……」
と、二人は言っている。
ミヤさんはああは言ってはいるが、よく似合っている、──と正直思う。ユイ先輩が言うように、ミヤさんは綺麗な人だ。普通の女性と比べると確かに筋肉はある。
例えるなら、レスリング選手のような感じだ。
本人的にはドレスはちょっとみたいなことを言っているが、側から見れば、綺麗な人はやはりどんな物も似合ってしまう。
そのミヤさんの姿を見た剣崎先輩は口を開いた。
「ふっ……馬子にも衣装だな……」
──剣崎先輩が余計な事を言う。
だけど、こちらでは意味が分からないミヤさんは、隣を歩くユイ先輩に意味を聞いた、すると──。
「あんた! ぶっ飛ばすよ! あんたより中身はあるつもりだよ!!」
剣崎先輩の腹部にはすでにミヤさんの拳が埋まっている。小さな苦悶の声を出す剣崎先輩。
なぜこの人は余計なことを口走るのだろうと思わざるを得ない。
そんなことを思いながら、足を進めて食堂の前へ着いていた。
中へ入ると、会議室とはまた違っている。
敷かれている赤い絨毯は同じなのだが、テーブルには純白のクロスがかけられている。
天井にはシャンデリアが吊るされてあり、部屋の端の方には給仕係が数人控えている。
入って左側の一番奥にはミリーザさん。
その隣を少し開けオルアさんが位置取っている。
俺達はメシアに促され順に席についた。
一番奥にメシア、その右隣に俺、ユイ先輩、ミヤさん、最後に剣崎先輩。
メシアの向かいにはリーセアがいるのだが、なぜか立ったまま。
俺の前にはドルテオ大臣、その隣にティグ騎士団長、そして大臣の直属の情報調査官シャールさんが席に着いていた。
オルアさんを連れて来たリルアがいなかったのでメシアに聞くと、どうやらホワイトドラゴンの都で、別の仕事があるらしく、泣く泣く戻って行ったという。
これと同じに、ミリーザさんの夫である、皇配のテアルさんもホワイトドラゴンの都に赴いているらしい。
だが二人とも明日には戻って来ると言っていたようだ。
リルアはリルアで、ホワイトドラゴンの第一王位継承者である為、色々大変らしい……。
まぁこれには仕方がないとしか言えない。
だが、もう一つ気になることがあった。
それは、シャールさんの隣の席にも食事が用意されている事である。
見る限り、現状では座りそうな人は見えない。
疑問は解決しないまま、周囲に視線を向ける。
こうして改めて見渡すと、女性は全員ドレスを着用しているのが目につく。
メシアは背中が大きく開いた真っ赤なドレス。シャールさんはミヤさんと同じような黒でシックな物で、こちらは比較的タイトなドレス。
そしてリーセアは、胸元が大きく開き、スカートにスリットが入った翠玉にラメがあしらわれたドレスを着用している。
メシアと同じようによく目立つ色だ。
ミリーザさんとオルアさんは王の格好そのままで、特には着飾っていない。……が、普通がドレスの様な物なので違和感はない。
大臣も騎士団長も至って普通の格好であり、正装をしてないのが俺達だけではなくてよかったと安堵した。
ミリーザさんは唯一席に着いていないリーセアに向けて着席を促す。
──が、お尻を押さえながら首を横に振っている。
これに疑問を浮かべたミリーザさんに、隣に座るオルアさんが耳打ちしていた。リーセアが立ったままの理由を聞かされたミリーザさんは、くすくすと笑いないながら言った。
「リーセア王女よ、その、お尻の腫れが少しでも引いてからで良いからな……ふふ」
リーセアは目に涙を溜めながら、無言で激しく頷いている。ミリーザさんはリーセア以外の着席を確認すると口を開いた。
「もう皆も聞いてはいるだろうが、今宵は《聖王都ホリシディア》のオルア・
そう言われ、隣のオルアさんはゆっくり立ち上がると、開口した。
「急遽来させていただいたにも関わらず、この様な会食の場を用意してもらったこと、大変嬉しく思う……が──」
そう口を止め、リーセアに視線を向ける。
「──このバカ娘のせいで大変な迷惑をかけた事、心よりお詫びする。申し訳ない……。だが、大変心苦しいが、私は明日には《ホリシディア》に戻らなければならない──」
このオルアさんの言葉を聞いた瞬間のリーセアの口元の緩みを俺は見逃さなかった。
(……リーセア、こいつまた考えてやがるな……。本当に抑止力がなきゃオルアさんが帰った後大変なことになるぞ……。どうすんだよ……)
「──残念ながら、私が帰った後、またこの娘が暴走する可能性が極めて高い……」
やっぱり、オルアさんも考えていることは同じであることが分かった。しかし、考えているだけでは何も解決しないのだ。
だけど、オルアさんはなぜか少し口元を緩ませ、「──なので……」と言い続けた。
「──第二王女を連れて来た」
リーセアは目を丸くしてオルアさんが来た時よりも一層の驚愕を見せる。
「──入れ、シャルティナ……」
「はいお母様──」
そして入って来たシャルティナという少女は、カーテシーを行うと口を開いた。
「お初にお目にかかります。
リーセアの妹が現れた。
リーセアの表情は、自分の暴走が阻止されるであろう絶望感に襲われている様だった。
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