番外編 《お姉様大好きリーセア来る!?》⑫

 シャルティナ・アメーシア・ホリシディアと名乗った少女は、母親オルアさんと姉リーセアと同じ様な髪色だが、赤みが強い。

 ショートボブのその髪は、色合い的には紅藤色べにふじいろと表現できる。

 こちらもドレスを着ており、色は淡黄色たんこうしょく

 そして、メシアと同じ様に背中を大きく開けている。


「皆様、わたくしのことはシャルティナ、あるいはシャルとお呼び下さい。また、私はメシアと同じ13歳です。因みに言いますと、メシアとは親友です」


 そう言うと、シャルティナ王女はゆっくり進み、空いていた席へと腰を下ろした。この際、情報調査官のシャールさんは立ち上がると椅子を引いていた。

 これに礼儀正しくお礼を言うシャルティナ王女。


 ──リーセアとは大違いだな……。などと考えていると、シャルティナ王女は俺に向かい口を開いた。


「失礼ですが、あなたがアイルさんでよろしいですか?」


 急に話を振られ対応が遅れた俺が目に入ったらしく、メシアが変わりに笑顔で答えてくれていた。


「その通りですシャル」


 この答えに胸の前に両手を合わせ、感嘆している。

 なぜ感嘆しているのだろうと疑問を浮かべていると続けてシャルティナ王女が口を開く。


「やっぱりそうなのですねぇ〜! あの人が、メシアの将来の旦那様になる人なのですねぇ!」


 ──ん? ちょっと待とうか……。この場でそんな話は微塵もしていない。


 以前の会議でミリーザさんから責任などと言う言葉が確かにありはしたが、『将来の旦那様』というのは飛躍しているのではなかろうか……。


 だがメシアは続けて答える。


「そ〜なんですよぉ〜シャルぅ〜」


 いやいやいや!「──ちょっと待とうか!」と声を出そうとした時──。


「何言ってんのかなぁ? メシアちゃぁん? アイルくんは私のだって言ったよね?」

「アイルさんはユイさんの所有物じゃないと言いましたよ?」


 二人は笑顔だが、言葉に怒りを感じる。

 これを見たシャルティナ王女は口元に手を当て「──ふふふふ……」と笑うと俺に言う。


「アイルさんはモテモテで羨ましいですねぇ」

「シャルティナ王女、冷やかさないで下さい……」

「──アイルさん、わたくしのことはメシアと同じシャルとお呼び下さい。敬称を使われるのは公の場だけで十分です」


 そう言われ、注文通りシャルと呼ばせてもらうことにした。本当にこのシャルはリーセアとは大違いで、こっちが第一王女ではないかと思えるくらいだ。


 だが、なぜシャルがリーセアに対しての暴走阻止材となるのかが疑問だった。


 確かにリーセアに比べればしっかりしているし、王女としても相応しいと思う。しかしだからと言って、あのリーセアの抑止力になるのか? と言うことだ。


 シャルとリーセアに、交互に視線を向け考え込んでいると、これに気付いたオルアさんが開口した。

 

「シャル、私が帰った後のことは任せて良いな?」

「はい、お母様。承知しております」


 そう始まると、ユイ先輩とメシアの睨み合いは一旦終わりを迎え、シャルに視線を巡らせる。


 ──そしてシャルが口を開いた。


「──リーセアお姉様……」


「な、何かなぁ〜……?」


 明らかにリーセアの声に緊張感が現れた。

 シャルは笑顔のまま続ける。


「私が呼ばれた意味お分かりですよね? お母様に聞きましたよぉ? またやらかしているみたいですねぇ……。以前、私言いましたよねぇ? 一国の王女が常軌を逸したことをしない様に……と」


 笑顔の裏に含まれる声の威圧がすごい。


「これはには事情があるんだよ! 死んだと思っていたユイお姉様が転生して再び目の前に現れたのだぞ! これはこの上ない理由なんだ……!」


 必死に訴えかけてはいるが、シャルの目は冷ややかだ。


「──おいで【精霊王フェピリト】」


 この言葉に反応し、シャルの後ろにふわっと現れたのは、光を纏う銀の毛並みに、金色の目を持つ巨大な狼が現れた。体長は優に5メートルを超える。

 強いて言うなら北欧神話に出てくるフェンリルに近いと思う。



「フェピちゃんお姉様にトレーサーを着けて欲しいの。その情報が逐一お母様に伝わる様に」



 シャルの言葉に絶望を感じたリーセアはギョッとする。これに慌てるリーセア。


「シャル! まさか私をずっと監視すると言うことなの!? それは私のプライバシーを奪うって言ってるのと同じよ!?」


「よく言いますよ。人のプライバシーを奪おうとした人が……」


「うっ……」


 口を噤むリーセア。

 ──これに淡々と続ける。


「さて、リーセアお姉様。ここからが本題です」


「──まだ何かあるの……?」


 シャルはニコッと笑った。





 

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