番外編 《お姉様大好きリーセア来る!?》⑩

 リーセアが連れて行かれた後、壁の壊れた部屋から、新しい部屋へと案内された。


 その際、リーセアの脅威がないと言うことで、俺は剣崎先輩と同じ部屋に移った。


 しかし、それがまた大変だった──。



 ※ ※ ※



 ──時間は少し遡り──


「ちょっと待ってよ! メシアちゃん!」


 そう発したのはユイ先輩だ。

 ミヤさんは腕を組み、ため息をついている。


「『ちょっと待ってよ!』じゃ、ありませんよ! 何でリーセアさんからの貞操の危機がないにも関わらず、アイルさんが一緒の部屋にならないといけないのですかユイさん!!」


 メシアは俺を背後に庇い、腰に手を当て、捲し立てるように言い、ユイ先輩を半眼でジッと見ている。

 ユイ先輩も負けじと顔を近づけ言っていた。


「それはアイル君は私のだからよ!」

「アイルさんはユイさんの所有物ではないです!」

「それじゃあ、メシアちゃんにもアイル君を別部屋に移す決定権は……ん〜──あるわね……。でも! もしリーセアがオルア様から離れたらまた私の貞操が危なくなるかもしれないわ!」


 これにメシアはリーセアが連れて行かれたであろう方向に視線を向けて言っている。


「あ〜……、それは大丈夫ですよ……。オルア様の部屋から聞こえてくる、お二人の声を聞く限り……」


「──な、なんて言ってたんだよ?」

 

 俺の恐る恐るの問いにメシアはそのまま答えてくれた。


「えっと、それはですね──……」


 ──『あーッ、お母様! お母様!! 痛いです! 痛いですぅー!! 私の可愛いお尻が真っ赤になってますぅーー……は、離してくださいーー!』


『あなたは今夜はここから出しません! 出したらまたすぐに向かうのでしょ!! だから会食が終わった後には、この部屋に軟禁します!』──


「──って叫んでましたよ……」



 ──どうやら本当に大丈夫そうだ。


 だが、ここで思うのが、なぜリーセアは会食後ではなく、会食前にことを成そうと思ったのか疑問だ。


 会食後であれば、時間は十分あったはず……。にも関わらず、会食前の1、2時間と言う余裕がない状況を選んだのか?

 この疑問をメシアに聞いてみた。


「なぁ、メシア……。リーセアは何で会食前を選んだんだ? 会食が終わった後なら時間はこれよりあったはずだろ?」


「それはですね、会食後だったら部屋の警備が厳重になると思ったかららしいですよ。なので、まだ警備が厳重になる前に、即効性の睡眠薬を使用して終わらそうとしたそうです。でも、ユイさんやミヤさん、それにアイルさんの状態異常耐性が予想よりも高く、効果が現れるのが遅くなったことで、すべての予定が狂ったみたいで……この状況を生み出してしまったみたいですね」


 メシアの説明に、──なるほど……。と思いながらもリーセアのとんでもない考えと行動力に呆れる。

 ユイ先輩とミヤさんからもため息しか出てこない。


 ユイ先輩に言い終わったメシアは、「──と言うことなので!」と言い切った。


 これにユイ先輩も、「──うぅぅ……」と返すしかなく、ミヤさんはユイ先輩の肩に手を置き言った。


「──ユイ、諦めな……。もうこれはメシア皇女の方が正当だよ……」

「──う……うぅ、はい分かりました……」


 ミヤさんの言葉に肩を落としたユイ先輩は、恨めしそうにメシアを見ていた。これに「──ふぅ……」と息を吐き、改めて会食の時間を伝えてくれた。

 

 俺はそのまま剣崎先輩の部屋へと案内され時間が来るのを待つことにした。



 ※ ※ ※



 ──そして今に至る。


 剣崎先輩はソファーに座り、俺の話を聞いてくれていた。ここまでの経緯いきさつを聞いた剣崎先輩は、腕を組みながらため息をつく。


「あの後に部屋でそんな事があったのだな……。僕は寝てしまっていて全く気づかなかった……。まぁ僕が気づいたところで何もできてはいなかっただろうが……。それにしても、それだけ強い者が変態ではオルア様がお戻りになられたら手に負えないのではないか?」


 確かに剣崎先輩の言う通りなのだ。

 今回はオルアさんが止めてくれたが、オルアさんがいなければ、ミリーザさんに頼るしかない……。


 しかし、これにすぐに対応できるかは分からない。

 一国の王に頼むのはそれだけ簡単ではないのだ。


「ですよね〜……。これから、リーセアに特訓してもらいますけど、オルアさんもずっと居られる訳はないですし、ミリーザさんもすぐに動けないかもしれませんからね……」


「──代わりになる抑止力がなければ、また同じ事を繰り返すぞ……多分……」



 俺と剣崎先輩はこの考えにいきつき、今後の事を危惧して頭を抱えた。


(──あのリーセアを抑え込める誰かが居てくれればな……。オルアさん並みにリーセアを大人しくさせられる人か……いるのか……?)


 俺は、──どうしたものか。と言う考えしか思い浮かばなかった。


 これに答えは出ないまま、会食の時間が訪れた。


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