第7話 怪しい集団〈起・2〉

「哀流君。あれわざとでしょ?」

 俺の隣に腰を下ろす先輩はさっきの出来事のことを言っていた。


「……そうですね。メシアを狙う者たちの居場所が分からなかったらどうすることもできませんから……。ああ言えば確実に俺たちに見張りを付けます」


 淡々と答える。

 先輩は顔を少し近づけて「私たちも命狙われると思うけどオッケー?」と言ってきた。

 

「あの、怒ってます……?」

「怒らないわよ……。周囲の気配を探索すれば居場所も分かるし。哀流君がやった事は『イイネ!』を付けさせてもらうわ」

「だったら何で聞いてきたんですか?」


 恐る恐る聞いてみた。


 すると先輩は『だってこの後にもっと盛り上がる事をするから、少し真剣な話をしてからのギャップがいいじゃない?』と返してきた。

 

 さらに恐る恐る聞いてみた。


「この後に何が盛り上がるんですか……?」

 そう聞くと先輩は、俺の頬に手を当て耳元で言った。

『肌と肌の激しいぶつかり合いで絶頂を迎えるんでしょ? 2人で』と……。


「何のことですか! それはぁ!?」

 大声で言い立ち上がると、先輩と距離を取った。


「だって、床は硬いからこのベットを軋ませながらヤるんでしょ? ………………ストレッチと筋トレっ♡ だからベットに座らせたんでしょ?」


 そうなのである……。


 確かにベットに腰を下ろした。

 下ろしたのだがあくまでこれからのことを話す為にだ……。

 しかも、俺が誘ったのではなく、座ってきたのである。


 大きくない町のため、宿屋はすぐに満室となり、やむなく同室という事になっていた。

 だけどもちろんベットは別で、対面に座れば普通に会話はできる。

 にも関わらず、太腿が触れるほど近づいていた。

 先輩が…………。


「先輩から座って来たんでしょ……びっくりしましたよ。『肌と肌とのぶつかり合い』とか言うから……」


 その返しに先輩は、イタズラっぽい表情を見せると続けた。


「哀流く〜ん。何だと思ったのぉ? も・し・か・し・て……」

 先輩の顔をまともに見れないほど顔が赤くなっているのが分かった。 


 そうだった……先輩の言い方こんなんだったー!!

 この言い方……感情のやりばが……。

 早く慣れないと……。

 

「と、とりあえず速屋先輩は自分のベットへ戻ってください! 明日、朝7時くらいにはここを発つんですから。それに、速屋先輩が着替える時とかはちゃんと外に出ますから変な事言わないで下さいね!」


 速屋先輩はまだ面白がる笑みを浮かべるとニヤニヤしながら────。


「見てもぅいいのよ?」 


 俺に近づき、自分の胸元の服を軽く下げると、上目遣いに言ってきた。

 その奥にはハッキリと分かる谷間があり、俺はすぐに目を逸らしさらに距離を取り…………


「いいから! 寝て下さいーーーー!!」

 大声で言うと、──冗談じゃなぁい。ふふっ……。と締め括ると自分のベットへと戻った。

 俺も布団に潜ると小声で呟いた。


 ────眠れないかも知れない……。


 ※ ※ ※


 翌朝、予定通りの時間に出発した馬車は、10時間ほど掛けて小高い丘や山などを越え、周囲を森に囲まれた〈ラテ〉まで辿り着いた。


 〈シール〉の町よりも小さく、村と表現した方がしっくりくる。

 住人も多くはなく、200名程が暮らしているらしい。だが、ライテルーザへの通り道の場所なだけはあり、宿屋もご飯屋もある。……がギルドはない。


「速屋先輩。ここは絶好の場所かも知れませんよ。森に囲まれてる上に、ギルドも無いので冒険者も少ないでしょうから……」

 もし俺たちを狙うなら、目撃される可能性が少しでも少ない場所で狙うはずだと言うことだ。


「…………」

「ん? 速屋先輩?」


「…………」

「あの、速屋先輩?」

 なぜが速屋先輩は無言でこちらを見ている。

 ん? 機嫌が……悪そう……。


「ねぇ、哀流君……。私はあなたの事を名前で呼んでるわ。なのに何でまだなの? こっちではおかしくない?」

「いや、でも……」

 そう返すがどんどんと頬が膨らんでいる。


「じゃあ何と……?」「ユイでいいわ……」「いやでも……」「ユ・イ! でいいわ」「先輩……?」「ユ〜〜イ! でいいわ」


 埒が開かない……。


「じゃあ、ユイ先輩……」

 少し不服そうだがそこに落ち着いた。


「そうね。確かに狙うならここがベストかもね」

 いきなり始まった。

 難しい……ホント難しい。


「今日は俺たち、宿を取らない方がいいかも知れませんね……。他の客を巻き込んだらいけないから……」

「周囲には5人くらい居るわね。殺気っぽい感じもするし……。彼らは私に気付かれていることにようだけど」


 俺とユイ先輩は酒場で食事を済ませると、をしつつ、村から少し離れた教会付近に来ていた。

 傷みの激しい外観で、今はもう使われていない様であった。


「この教会も昔は信仰するに人たちが通ってたんでしょうね……」

 ユイ先輩は少し寂しそうに言っていた。

 リスティラードでも地球でもそうだが、人々の信仰は時代背景によってその姿を変えてしまう。

 

「ユイ先輩は聖女ですから、なおさら淋しさを感じますよね……」

「まぁこればかりはね……。強制する訳には行かないからね……」

 

 そんな会話の中、周囲ではようやくと言うか、やはりと言うか、予想通り、俺とユイ先輩を囲むように5人が現れた。


「で……。あなた達はどこのどちら様ですか? 大人しく教えてくれたら何もしないわよ……(まぁ逃さないけど……)」


 当然答える訳もなく、5人全員が魔法を放った!


 地面からは氷の槍が突き出し、それを飛び避けた俺たちを追撃する様に空中には風の刃が花びらの様に舞い迫った!


 全てを防ぎきれず俺とユイ先輩は体中に傷を負い、地面に着地した。間髪入れず足下には泥沼が現れ、身動きを封じられていた。


「クソ! 身動きが……」

 それを逃さず今度は火炎の玉が降り注ぎ、俺たちを焼き尽くそうとしていた──が……。


「【聖鐘ホーリィベル】」

 先輩のそれに、相手の魔法は全て阻まれた。

 しかも、すでに発動していた足下の土魔法すらも【聖鐘】の区域内に含まれた瞬間に元に戻っていた。


「相変わらずユイ先輩凄いですね……」

「元々発動していた魔法を消すのは魔力をかなり消費するの! とりあえず哀流君、相手に攻撃をし──」


 ────鈍い音が聞こえた。

 

 ユイ先輩に視線を向けると、左脇腹に【水槍ウォスピア】を受けていた。

 血がどんどんと滲むが、唇を噛み締め耐えていた。


「ユイ先輩!!」

「大丈夫……魔法で今……止血したから……」

 そう言うが苦しそうだ──。


「【聖鐘】を越えた魔法は……恐らく……昨日の瞬間移動したヤツの魔法よ……。瞬間魔法を乗せて……槍が消える前に、私に攻撃を……与えたんだと思う」


 昨日のヤツと言われ、どうにかしようとしたが、みんな同じ黒ローブを身に付けていて、どいつなのか分からない。

 このままではいけないと考えている内に、ユイ先輩は膝をつき、【聖鐘】も消えていた。

 先輩はどんどん顔色が悪くなっていった。

 すると、黒ローブの1人が口を開いた。


「漸く効いてきたか……」

 昨日のヤツだ。


「流石は聖属性を使う女だ。即効性の毒がここまで遅れるとは……」

 やっぱり毒だった。アイツは昨日の戦いで、先輩の属性と魔法の特性を知り対策を取ってきた。

 到底普通の魔法士ではないのが分かる。

 

 つまり、俺の新属性にも対策取っている可能性がある。横の先輩はとうとう前のめりに倒れ込み苦しそうな息遣いをしていた。

 まだ1人も倒せていないこの状態で、先輩を助けながら早く終わらせる。そして、先輩を治さないといけない……。


 1つ方法がある……。

 見せていない属性……。

 警戒されるであろう魔法……。


 ──魔物に警戒される? 


 そんな事はこの場に於いてはどうでもいい!

 剣崎先輩から、ユイ先輩から言われた『ここぞ』と言うときに。と……。

 こんなに早くくるとは思わなかったが、後のことは後考える!


 ユイ先輩を助けないといけない!



 ──────【空間地震スイルエイク!】

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