第6話 怪しい集団〈起〉

「なるほどねぇ……。リスティラードこっちの哀流君の仲間の子が……それは穏やかではないわね。そもそも褒章だからって皇族に迎えるとは、何を考えているのかしらね……? いい方向にならないのは分かるはずだけれどね……」

 速屋先輩も同じ事を思っていた。

 皆んな思う事は同じだと思う。

 ただの『!』という事だ。

 そこまで話──


「俺は行かないといけないから! 速屋先輩もお元気で!」

 と言うと、──ちょっと待ちなさいよーー!! と怒りながら言ってきた。

 

「何怒ってるんですか!? ────ゔッ……」

 お、大きい音と共に……み、鳩尾みぞおちに先輩の拳が……う、埋まった……。


「な〜にここで、さも当然の様に私と別れようとしてるのよ! 私との出会いはとでも言うの!!」


 ────ちょっと先輩! その言い方はやめましょうよ!! 人が居たらまた大変な誤解を……。


 ────遅かった。


 さっきまでは誰も居なかったはずだった……。

 だが、周囲には沢山の人が居ました。


 新しい属性やらの事とかを話している内に、人通りが増えていた。

 なぜ気づかなかった? と言われると答えられる。


 それは新属性を得るために目の前の海! 光! に目を向けていたからだ! その後は目を瞑り思い浮かべた。ここまでの流れで周囲を見る行動がどこにあるだろう!

 

 案の定、周りからは冷たい視線を受けていた。

 その大半はケダモノを見る女性の目……痛い……視線が痛い。

 鳩尾も痛い……。


 俺は速屋先輩の肩を掴み引き離した。

 おかげで、鳩尾からは拳は離れてるけど、この至近距離、肩を掴む────どう考えても浮気がバレて彼女を宥めているどうしようもない姿に見える……。


「先輩! ここから離れましょう!!」

 そう言うと、先輩の腕を掴み逃げる様にその場を後にした。


 海べりから街側へと戻り、大通りを避けて人気の少ない裏通りまで来ていた。


「先輩……。あの言い方はやめて下さい………誤解されます」

「誤解も何もこっちで漸く見つける事ができたのに、海べりで真剣に話していたにも関わらず私を置いて行こうとするから! て言ったわよ」

「あの短い言葉のどこにその要素がぁ!? 全然別の意味に聞こえますよぉ!?」

「だって哀流君急いでるんでしょ? 時短よ! 時短!」

 

 それを時短と言ってしまったら、この世界でも地球でも至る所で誤解のパレードが起こりかねない。


 …………ん? 


 ちょっと待てよ。さっき先輩言ってたよね……『私を置いて行こうとするから』てさ……。

 

 その疑問を解決する様に質問を返した。


「──あの、先輩……。ひょっとして付いてくるんですか?」

「え? 行くわよ。だから怒ったんだけど……?」

 当たり前の様に返してきた。


 これ以上言ったら面倒くさい事になりそうなので、黙っておこうと思う。

 話はまとまってないけど、まとめた事にして俺と速屋先輩は荷物をまとめ、港町シーラを出発する馬車へと乗り込んだ。


 出発し、休憩を入れつつ6時間────

 1つ目の町、シールに到着した。


 あまり大きくない町で、宿屋、ご飯屋、そして、ギルドという表現が抜群に似合う小規模ギルドなどが最低限ある場所。

 旅人は然程多くはないが、住んでいる人たちは皆んな笑顔で通りを歩いていた。


 今日はこの町で一泊し、翌朝に出発する事になっていた。俺と先輩は宿を取ると夕食を食べる為に、宿屋近くのご飯屋兼居酒屋……こっちでは居酒屋と言うよりも、酒場と言った方がしっくりくる場所へと向かった。


 中に入ると、夕刻の18時程。ちょうどお腹が空く頃で、カウンターやテーブルには複数の客が夕食を取っていた。

 その中にはガラの悪そうな冒険者の集団が大声を上げ、周囲に罵声を浴びせながら酒を呷っていた。


 俺と先輩はそこに近づかない様に入口を入った左奥の空いているテーブルへと座り注文を済ませた。


 先輩は態度の悪い冒険者に何か言いたげな表情をしていたが、俺は気を逸らす為に「ご飯きましたよ」と言い、程なくして運ばれてきた食事を食べながら、気になっていた事を聞いてみた。


「速屋先輩はこっちで親しい人とかで逢いたい人は居ないんですか? と言うよりも、リスティラードこっちではどこの出身だったんですか?」


 上手く気を逸らせたらしく、先輩は、──そうだなぁ〜……。と言いながら答えてくれた。


「私は〈聖王都ホリシディア〉の出身よ。で、聖教会総本山〈リサル〉で聖印を受けたのよ。逢いたい人って言ったら、そうだなぁ……やっぱり同じ教会にいた妹かな……」

 そう答えてくれた先輩にはどこか淋しそうに続けてくれた。


「10歳年の離れた双子の妹たちで、2人とも小さい頃からずっと引っ付いて来てて、私が18歳の時に魔災軍との戦いの為旅立つ日にはすごく泣いてて……。今の日付は旅立った日から3年だから今は11歳……。逢いたいなぁ。もちろん両親にも逢いたいけどね」


 と最後は笑みで返してくれた。


 先輩は18の時に旅立ち、その2年後の20歳はたちの時に魔災軍と戦い死んだと言う事になる。今度は先輩が──哀流君は仲間の人たちの他に逢いたい人とかいないの? と聞いて来た。


「俺はリスティラードこっちでも地球あっちでも両親は死んでて……。こっちでは魔物に殺されて、あっちでは交通事故で死んでますから、会いたいのは仲間ですね……。色々背負わせちまったから」

「じゃあお互い会える様にがんばろうね!」


 そう話を括ると、食事も終わりを迎えた。

 そろそろ宿に戻ろうとした時、ガラの悪い冒険者の恐らくリーダーなのだろうと思う大男が先輩の肩に手を掛け怒鳴り声を上げた。


「オイ! 女!! さっきからオレたちの事を睨んでたな! 気づいてないとでも思ったか!!」


 ──やはり気づかれていた。


 先輩のとは厳密に言えばすごく睨んでいた。冒険者たちはこちらを向いてはいなかったが、やはり冒険者である。

 気配には聡い。


 先輩もその声にとうとうキレた。


「あなた達の大声に皆んな迷惑してるでしょ!! 少しくらいは静かにしなさいよ!」

 その反論にリーダーだけでなく、残りの5人がゾロゾロとこちらに向かって来た。


 ──関わってしまった。


 まぁだけど、コイツらの態度は許容範囲を超えている。


「──速屋先輩のせいですよ……。でもまぁ、俺も腹が立ってはいたけどね」

「じゃ! やろうか!」


 それを口火に、俺と先輩は即座に表へと移動した。

 アイツらも俺たちを追う様に出てきた。

 リーダーらしき男は腕を組み、余裕の笑みを浮かべながら後方に下がると近くにある樽に腰を落とした。


 ────数分後……いや数秒後、リーダー以外全員沈黙…………。


 速屋先輩のとはかけ離れた姿……。

 まるでそれは狂戦士バーサーカーではと思ってしまう。

 魔法は一切使わず、持ち前の運動神経で5人を伸した。


 その光景に唖然としていたのはリーダーの男だった。

 だが、すぐに意識を切り替え自ら戦うと決めたらしく、前に出てくると自身の特性なのだと分かる闇魔法を展開し、無数の矢を出現させるとこちらに向けて放とうとしといた…………。


 それを目にした俺は思ってしまった…………。


 ────最悪だ。と……。


 これは決して俺たちに対してではなく、の思いであり、ご愁傷様という意味である。


「死ねぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーー!!」


「──【聖鐘ホーリィベル】、【槍聖白スピアリーイト】……」


 その言葉と同時に、展開された【聖鐘】は闇魔法を完全に防ぎ、弱体化させ、【槍聖白】はワニを串刺しにした様に男を串刺しにした。

 だが、手加減したらしく槍は拘束具となり男の動きを完全に封じた。


「な!? なんだこれはーーーー!」

 男は叫ぶが、先輩は以前と同じ言葉を言った。


「闇属性には敏感なんだから!」


 俺の出番は無かった……。


 まぁ無かった事は別にいいのだが、先輩は今だにご立腹といった感じで、キレていた。


「ちょっと冒険者で魔法が使えるから偉そうにしすぎでしょ!! 自分が実力があると思い込んでこの醜態はないわ〜……!」

 と小馬鹿にしている。

 だが男も続けて声を上げた。


「貴様らァァァァァァーーーーーー!!!! このオレはあのに雇われているんだぞーーーー!! こんな事をしてタダで済むと思うなよーーーー!!」


 そのという言葉に反応した。


 このゴロツキにと言っても過言ではない冒険者を雇う大貴族……。

 脳裏にはメシアを狙う黒ローブの怪しい集団が浮かんだ。

 恐らくこの男は何か関係があると思えてならなかった。


「おい! お前の雇い主の名前を教えろ!!」

 大声で叫んだが、当然の如く答えはなかった。

 だけど、先輩が────


「え? 何? ??」

 その抑揚のない、淡々とした物言いに男は顔を青ざめさせると、ゆっくりと口を開いた。


「オ、オレの依頼主はラ、ライテルーザの────」


 そこまで言おうとした時、男の頭が消し飛び血を噴き上げていた。

 それに続く様に宿屋の屋根に佇む黒ローブの者は静かに言った。


「所詮はゴロツキか……。依頼主を漏らそうとするとはな……」

 その呆れた様な言い方をする者に声を上げた。


「お前たちは第一皇女を狙う集団か!!」


 無言…………。

 

「あんた達よね! 廃墟に足を運んでいるのは!」


 答えない…………。


「消えろ……」

 静かに呟くと、お酒を媒体とした水属性の【水槍ウォスピア】を放っていた。

 俺は即座に、覚えたての新属性を使用した。


「【塩剣ソルド】!」


 俺の【塩剣】によって斬った【水槍】は一気に剣に吸収され霧散した。


 ローブの者は驚きつつも次の攻撃をしようとした。

 だがそれより早く俺は行動していた。


解放リリース!!」 


 俺の言葉と同時に展開されたそれは、対象の生命を奪うべく無数の【塩矢ソルロー】となり降り注いだ!


 その無数の矢をまともに受けたと思われた者の姿は無かった。

 、別の屋根へと


「これは面白い魔法だな……。覚えておこう……」

 またしても静かに言うと、周囲全体からその気配が消えていた…………。


 俺は確信していた。

 アイツらは関係している。と……。

 メシアの命を狙う大貴族とやらと……。


「さぁ〜てと……。どうなることやら…………」

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