第8話 怪しい集団〈承〉
空間と地面が微かに揺れ始め、アイルの
「──……【
発せられた言葉は、発動しようとしていた魔法を霧散させていた。
ユイの【聖鐘】は敵だけでなく、味方の魔法をも無効化し消し去っていた。
「……はぁ……はぁぁ、はぁ……。『ここぞ』と言う時……と、言ったでしょ…………」
ユイは苦しそうに伝えてきた。
アイルの中では『ここぞ』だったが、ユイからは『ここぞ』ではなかったのだ。
「でも! ユイ先輩……」
「落ち着きなさい……。こう見えてもね……聖女だから少しずつは……中和出来てるの……。もう少し時間は……掛かるけど……」
会話は続けているが黒ローブは攻撃を仕掛けようとしてこなかった。
先ほどの、アイルの魔力気配を察知し、警戒しているのだ。
「……哀流君は、彼らが対策を取って……はぁ……いない魔法で……なおかつ、より早く……戦いを終わらせる……方法を選択しようと……していたのよね?」
アイルは心配そうな表情で「そうです……」と頷いた。
「……忘れてない……? 私も……新属性を……使える事……」
ユイは少しずつ回復する体を支えながら、口元には微かに笑みを浮かべていた。
「!! ────青属性の……」
「────【
ユイは倒れた状態のまま地に手を触れさせていた。
※ ※ ※
ユイにダメージを与えた〈者〉は考えていた。
確実に、目の前の男と女を始末できるであろうと……。
だがそれは、膨大な魔力の変動によって踏み止まざるを得なかった。
動けば自分たちは消されると本能が訴えていたからだ。
(どういう事だ。あの魔力の上がりようは……。並の上がり方ではなかった。一瞬だがこの一帯に魔力が満ちていた……。それをあの女が例の魔法で消した。どういうコトだ。何かあるのか……? これは
未だに答えの出ない思考を巡らせていた。
答えが出ない以上無闇に動けない……いや動くべきではない。
仲間に指示を出す。
しかしその思考する時間は、相手に十分過ぎる時間を与えてしまっていた。
次の瞬間には目の前に倒れている女……ユイから言葉が発せられた。
────【
その瞬間!!
周囲の木々を通った魔法は、水分で形成された無数の
その華は敵を覆い、頭上へと降り注いでいた。
大地に落ちると波紋を広げ、敵の足下のみを沼へと変化させた。
そこから抜け出させない様に、水を媒体とし、実体化した柔軟性に特化した樹は、5人に絡みつき完全に動きを封じていた。
魔法を放ち対抗しようと試みていた。
が、足下の沼は魔力をどんどんと吸収してそれをさせなかった。
吸収した魔力は、樹をさらに成長させ5人の姿が見えなくなる程覆い、無数の華を咲かせた。
それを確認したユイは────
「……【
咲き誇っていた水の華は一斉に散ると、後に残されたのは、生命を奪われた黒ローブたちの屍だった。
しかし、その中の1人、瞬間移動を使う〈者〉は血まみれになりつつ辛うじて生命をつないでいた。
「……クソ……!! 女!」
もう魔法を使える魔力を残されていないその〈者〉は、後退りをしていた。
アイルに体を支えられているユイを睨みつけながら「次は……必ず……始末する……」と言いつつ、森の奥へと消えて行こうとしていた……。
「……哀流君……逃したらダメよ───」
─────【
ユイが発動させた
生きたその檻は黒ローブ〈者〉の残り少ない力ではどうする事も出来はしなかった。
「……ぐッ。お前たちにやられるくらいなら!」
その言葉を残すと、右手を自分の胸に突き立て、赤黒い玉を取り出すとそのまま握りつぶした。
瞬間にその黒ローブの〈者〉は〈物〉に変わり無数の刻まれた〈紙〉と化し黒く燃え尽き消滅していた。
「何だよ……。あれは……」
アイルは
地球では聞いたことがあった。陰陽道……。
「……あれは、式神……だったのね。紙に……術式と玉を加えて顕現させた……。哀流君の仲間を狙う者の中に高度な陰陽師の力を持つ者が居るみたいね……」
大分回復した体を自力で起こすと、声を出していた。
「でも、ユイ先輩……。俺、こっちで陰陽師なんて聞いたことがないです……」
「まぁ……こっちでは正確に言えば、陰陽師という呼び名ではないけど……」
ユイはどこか引っ掛かる物言いをしていた。
アイルはその疑問を口に出していた。
「その呼び名の事知ってるんですか?」
ユイは──ふぅ〜。と深い息を吐き出すと眉を顰め言った。
「……1年前。私たちが死んだ準魔王との戦いの時、私、スタル、ユロイ、そしてシージン隊長たちと相手をした中に居たのよ……。この陰陽師の様な術……〈
「そいつはどんな奴だったんですか?」
あの時の奴であるのなら、メシアを助けるためのハードルの高さは極めて高くなる……。
アイルは不安を感じながらも、──そいつはどんな奴で、どのくらいの力を持ってるんですか? と尋ねていた。
「……準魔王の配下で隻眼の女だったわ。剣術も優れててスタルと互角以上にやり合ってた……。その上、符魔法も強力で、一度に複数の式神を使役するわ。それも魔獣や魔族に匹敵する物をね……。だから、さっきの式神は偵察程度の力しか与えていなかったのだと思うわ……」
ユイは下唇を噛み締めながら、
「先輩たちはどうやって退けたんですか? そいつが生きてるって事は退けた……んですよね?」
アイルの中ではもう一つ、考えたくもない可能性を敢えて省いていた。
だが、ユイの口からは、考えたくもない事実を言われた。
「……私たちは、準魔王どころかその隻眼の女に全員殺されたわ………」
考えたくもなかった事実……。
メシアの暗殺に関わっているかもしれない者……。
だとしたら、メシアの膨大な魔力保有量を知っていると考えられる。
この計画は、単なる皇族後継者を狙って行われた事ではなく、魔王たちに害を与えかねない者を確実に狙った綿密な計画だという事である。
その考えに行き着いたアイルとユイは思っていた。
──これはあの時の戦いの延長戦になるかも知れないと……。
※ ※ ※
大きな屋敷の一室に佇む女性は
「……私の魔法を破ったのか……。偵察程度のものではあったが、一介の冒険者で破れる物ではない……。何者だ……? 式神が追っていたということは、第一皇女を始末する情報を得ているのだろうな……。敵意ある者は潰せという式を刻んでいた。まぁいい……。情報を掴んでいるのなら遅かれ早かれここに来るだろ……」
月が陰り、ベットへと潜り込もうとした時、ドアを叩く音が聞こえた。
彼女は入室許可を出した。
騎士の鎧を纏った者は一歩足を踏み入れると彼女に言葉をかけた。
「就寝前に申し訳ありません! ベルファ様からのご伝言です! ご令息のルベルク様の剣術指南は『明日午後から行ってくれ』と言うことです!」
キビキビした騎士の言いようにベットに腰を下ろす女性は軽妙に返した。
「承知いたしました。ルベルク様の剣術のお相手はご指示通り午後からさせて頂きますね。わざわざご連絡ありがとうございます」
「いえ! これは自分の仕事ですから!! それでは失礼いたします!」
騎士は礼儀正しく出ていくと、廊下を歩きながら思っていた───知的で美しく剣術に長けている。
あの隻眼もまるで
騎士の去った部屋で女性は口元を緩ませ、猟奇的な笑みを浮かべると小さく呟いた。
「さァ……。どうやって殺そうか……。私の術を破った奴…………」
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