第9話 怪しい集団〈承・2〉

 式神を消した後、森の中で先輩が回復するのを待っていた。


 30分程すると、ユイ先輩は毒を完全に中和出来たらしく、俺と自分の傷を治癒していた。

 すっかり元通りの健康体になっていた訳だが、なぜか先輩をおぶって帰ることになった。


「……あのユイ先輩……。何で先輩をおぶって帰らないといけないんですか? もう回復したんですよね……?」

「う〜ん……。気のせいかも知れない……そう! きっと気のせいよ!」


「…………そうですか……(背中は気になるけどまぁ、いいか)」

 俺は背中の感触に負けた。


 そのまま、ユイ先輩に〈隻眼の女〉について聞きながら〈ラテ〉まで背負うことにした。


「先輩がさっき言っていた隻眼の女はどんな雰囲気の奴だったんですか?」

「……金髪長髪ストレートの碧眼で高身長……見た目だけならモデルっていった感じかな。私も初めて会った時には『物腰が柔らかいお姉さん』って感じだったわ」


 その言いように引っ掛かり、ユイ先輩に聞き返していた。


「それってどういう事ですか……? なんかまるで、様な言い方でしたけど……」

「そうね……。彼女と初めて会ったのは戦いの時ではなく〈ホリシディア〉の〈聖教会リサル〉よ……」


 先輩はそう言うと、少し黙りその女との出会いについて話し始めた─────。



  ※ ※ ※



 ───準魔王、魔災軍との大戦より凡そ10年前。

 

 ユイ・サンクトゥリアは10歳にして〈聖女の聖印〉を受けていた。


 聖教会史上最年少という事で、周囲からは〈天才聖女〉として持て囃されていた。


 本人はというとあまりこの状況は好ましくなかった。

 持て囃されること自体もそうだが、生まれて間もない双子の妹の育児に忙しい両親も、天才聖女の親として貴族たちの対応に追われていたのだ。


 10歳ながら色々考えたユイは、聖教会リサルが設立している、聖女育成のリデア学園に編入を決めた。

 それは、聖教会に所属する事になり身分は保証されるということであった。


 さらに、聖教会に所属する本人もしくは関係者には〈利益の為の一切の接触を禁ずる〉という文言があり、それは貴族とて例外ではなかった。


 ユイの判断は正しく、その後の貴族たちの接触はなかった。入寮する際、両親は心配していたが『休みの日には帰る』という条件付きで承諾してくれた。


 リデア学園は〈聖女見習いアプレンティス〉と〈聖女〉が通う学園で、凡そ18歳までの女子が在籍している。

 聖女見習いアプレンティスは聖女たり得る魔力の覚醒で、聖女はその能力の向上を目的としていた。

 ユイはその中で聖女として自分より年上のお姉さんたちと勉学と訓練をする様になっていた。


 一番年下ながらユイは学園トップの成績であり、やはり周囲からは天才と言われていたが、持て囃されることはなかった。


 そしてある日、魔力の効率の良い使い方を教えるという事で、新しい先生がやって来た。


 金髪で両目はキレイな碧眼の女性で、声は柔らかく笑顔が美しい女性であった。聖女たちに魔力の使い方を教えられる程の力を持っているにも関わらず、偉そうにせず、人としても人格者である様に思えた。


 一目見てユイは、この女性の様になりたいと強く憧れを抱いていた。


「皆さん。おはようございます。今日からあなた達に魔力効率を教えることになりましたエミラ・ヴァルファと言います。これから皆さんには様になってもらう為の訓練しますからよろしくね」

 

 その説明に生徒たちからは歓迎の拍手と憧れので感情が起こっていた。

 最小の魔力で最大限の効果を出すという事は魔法士としても、聖女としても目指すべきものだからである。


 それからはエミラの指導の元様々な訓練が行われていた。

 授業中、食事中問わずに守備魔法を常に張ること。逆に、強化魔法を調整しながら周囲に影響を及ぼさないように普段の生活を送るなど、かなり神経をすり減らす訓練を行っていた。

 

「エミラせんせー……。もうだるいよー。魔法切ってもいいかなぁ……?」

「ダメよ! これは魔力コントロールを身につける為の重要なことなのよ! ユイちゃん!!」

 

 ユイの要望は却下された。

 頬を膨らませながら「──えーー……!」と不服を言っていた。

 

「そう言ってもダメだからねェ〜!」

 エミラにそう言われて諦めることにした。


 そんな日々がユイ自身も楽しく、エミラは学園でも人気の先生になっていた。


 そんなある日、事件が起こった。

 聖教会リサルの地下に封印さていた〈禁忌魔法〉が紛失したという事であった。


 その魔法は死者も操り、傀儡も創り出すという魔法であった。教会の人間は皆それを【符魔法】と口にしていた。

 

 さらにその際、封印の守備に就いていた聖魔法士は魂を抜かれたかのような表情で、無惨にも皆殺しにされていた。

 この事はすぐに箝口令が敷かれ、聖教会と王以外には伝わる事はなかった。


 これをいち早く解決するべく教会は国王の力を借り犯人を探し始めた。しかし、なかなか犯人を割り出せず日にちだけが過ぎていっていた……。


「エミラせんせー……。まだ犯人捕まらないんだね」

 ユイは無邪気に聞いていた。

 エミラはなんの感情もなく淡々と答えていた。


「そうね。早く捕まればいいんだけどね」

 だが、その言葉を言い終わるくらいに突然とその時が来た。


 教室のドアを勢いよく開け、複数の聖騎士たちと聖魔法士がドカドカと音を立てながら入ってきた。

 教室に居た生徒たちは何が起こっているのか理解ができていなかった。


「エミラ・ヴァルファ!! 貴様を禁忌魔法持ち去り及び、聖魔法士殺害の罪で捕縛する!!」


 ユイも何が起こっているのか分からないでいたが、先生が疑われているということだけは理解できた。


「先生をなんで疑うの!! そんなことしないよ! ね! 先生!! 先生も言い返さないと犯人にされちゃうよ!」


 ユイの言葉に反応はせず、エミラは騎士たちに氷の様な視線を向けていた。


 ユイたち生徒は、初めて見る表情に背筋を凍らせた。

 騎士と魔法士は、生徒たちに教室から出る様に促した。騎士に言われるまま、半強制的に室外に出されていたが、──スパンッ。と何かを切る音が聞こえて、振り向くと、血飛沫をあげながら、胴体から切り離された首が教室の床へと転がっていた。

 

 ユイや他の生徒たちはその光景に驚愕していると、エミラは目を鋭くし口を緩ませ言った。


「もう少し遊びたかったけどいいか。符魔法も手に入れたし……。これでフィアーラ様に褒めてもらえるふふふっ……」


 そう言うと、室外に避難している生徒に視線を向けて冷たく言った。


「──皆んなァァ。すぐに殺してあげるからねェェ」


 その言葉と同時にユイが初めて地獄の光景を見ることになる。

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