第10話 怪しい集団〈転〉
ユイの目の前では信じられない光景が次々と起こっていた。
これまでの決して長い期間ではなかったが、一緒に勉学や訓練を共にしていた同級生のお姉さんたちが屍になっていったのだ。
ユイは天才と言っても教室では一番年下である為、妹の様に可愛がってくれていたお姉さんたちはユイを守る様にエミラの前に立ち塞がっては魔法で対抗していた。
だが、やはり一介の生徒にすぎず、攻撃はことごとく弾かれ腕や胴、首を刎ね切り落とされ、地獄という表現が当てはまる絵図であった。
エミラの手には赤黒い一振りの剣が握られ、剣は掌から直接生えて一体となったいた。
そして残りのお姉さんたちも数人になった時、そのうち1人が、ユイにここから離れる様に、エミラにバレない程度に手で合図を送った。
残りのお姉さんたちもそれに気付きユイを隠す様に戦闘体制をとると、気を逸らす為、恐怖に声を振るわせながらエミラに問い掛けた。
「エ、エミラ先生! あ……あなたは一体何者ですか!!! な、何故この様なことをするのです!!」
その問いに、口を不気味に開き声を発した。
「そうォねェ……。まぁ教えてもいいわァ……。どうせあなたたち皆殺しにするから」
その殺気に満ちた声は、戦闘体制を取る者たちの精神に多大なダメージを与え、一部には、蹲って嘔吐する者や焦点を合わせられない状態になっていた。
「まぁでも、その前に──────」
そう静かに言うと、掌と一体化していた赤黒い剣がその姿を変え、鞭のようにしなると、ユイを隠す様に立っていた3人の者の首を切断した。
血飛沫は周囲を赤く染めユイにも降り注いでいた。その目の前では、さっきまで人であった物は床にボトボトと倒れた。だが、最後に残された2人はそれでもユイを守る様に立っていた。
「ダメじゃなァい。勝手に逃がそうとしたら。ね? でも、あなたたちはラッキーよ。最期に私が何者か分かるんだから」
エミラはそう言うと、紅く染まる頬に両手を当て恍惚とした表情で答えた。
「私はねぇ〜……。あの敬愛する、美しく、残忍な準魔王フィアーラ様の
そう言いながら、掌から伸びる鞭はその先端を蛇の頭に変え、飛び散った血液を生き物の様に啜っていた。
その異様な2つの光景にユイを含め残された3人は怯えきっていた。
それに気付いたエミラは続けた。
「この武器可愛いでしょ? 私の血魔法で創った子なのよォ。ちょっとお行儀が悪いけど私の指示にも従うし、守る為に意志を持って動いてくれるのよォ……。本当にあなたたちはラッキーだわ……」
エミラは表情を戻し下等な生き物を見る様に視線を送った。
「じゃあそろそろ殺そうかしら?」
血を啜り終えた武器はエミラが手を掲げると同時に空中に無数の
だが、その瞬間!
小さく震える声が発せられるとそれは起こった!
「【
ユイの発したその言葉に、3人がいる場所を薄い白光を纏ったカーテンが球体状に展開されていた。
それに阻まれた
2人も驚いていだが、それよりも遥かに驚愕したのはエミラだった。
それはそうだろう、まだ10歳ほどの少女が仮にも準魔王の
「何をした!? お前は!? これは一体どういうことだ!?」
その驚愕に、ユイは震える声ではあったが、エミラを強く見つめて答えた。
「……先生が……教えてくれた、んです。最小限の魔力で最大限の魔法を使う、ことを…………」
確かにこの数ヶ月教えたのは間違いない。
だがこれは異常だった。
こんな完璧な調整をたった数ヶ月で完全にマスターしていたのだ。
(こんなことあり得ない……! たかが人間のそれも10歳の子供に……! 他の子たちの中にできた者はいなかった! このユイとい少女もそうだ! 一度も成功したことを見た事がない……!? まさか!?)
その結論に辿り着いた時、敬愛する準魔王フィアーラ様の僕たる自分の背中が寒くなったのを感じていた。
それは間違いなくこの少女に対しての、才能に対しての恐怖であった。
エミラは思った
────この子供を生かしてはダメだ! この子供はフィアーラ様に害を為す存在になりかねない!
「ここで必ず始末しないといけないわね……ユイ」
そう言うと、奪った禁忌〈符魔法〉を使用した。
つい先ほど自らの手で殺した聖騎士、魔法士……そして教え子でありユイの同級生たちの屍をその魔力と一緒に操った。
首を刎ねられている者もいるが
【聖鐘】を人形が囲みユイの魔法を数で押さえ込むつもりであった。そして魔法が消えたタイミングでトドメを刺そうとしていたのだ。
───しかし……!
「──
そのユイの発声に
すると、
「──!? ユイィィ!! お前!! やはり能力を隠していたのか!!」
エミラはそう言うが、ユイ自身は好き好んで隠していた訳ではなかった。
周囲から持て囃されることを嫌ったユイは本能的に自制していたのだ。
だが、この窮地を脱する為に自制していた力の箍が外れていた。
その結果として【
エミラはこれに取り込まれていたが、魔法に制限を受けた状態であっても
しかし、制限を受けた状態ではさっきまで圧倒していた生徒に対してもそれを塞がれてしまった。
「……クソ餓鬼がァァ!!!!!!!!!」
エミラはそう大声を張り上げると、奪いたての【符魔法】ではなく、【聖鐘】を上書きするほどの自身の最高の魔法である血魔法を放った。
「〈
その発せられた魔法で、周囲を火で覆い、無数の血の刃によって覆った者たちを焼き尽くし切り刻むはずであった。だが、ユイの【聖鐘】により相殺された。
最高魔法までも消されるとは思わなかったが、相殺できた事はエミラに取って好都合であることには変わはなかった。
ユイに視線を向けると、それも限界が近い事が分かった。エミラは口元を緩ませ、決着を確信していた。
だが、その確信が油断となっていた事に気づけなかったエミラは、強くもない半端な魔法を放ってしまった。
「──
それはユイと2人を狙い放たれた!
しかし、エミラの油断は、自らが負う生涯回復不能の傷となるダメージを受ける事となった。
赤黒く鋭利なそれはユイを確実に捉えていた───
ユイは冷静に標的を認識していた───
────
ユイから放たれた言葉と魔法は、エミラの油断して放った【
「ガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!! わ、私の目ガァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
右目を抉られた激痛と、
「ロンギヌスはすごく緻密な魔力操作がいるんです。この緻密操作も先生の訓練の結果……です」
天才。天才と持て囃されていた事は知っている。
だがエミラはここまでとは思わなかった。
こんな人間が居るとは。
その上まだ子供だという。
苦しみから何とか立ち直そうとした時、リサルと王都の援軍がやってきた。
しかも、その中央にいるのは大聖女と言われるこの聖王都ホリシディアの女王オルア・クレイディアであった。
エミラ即座に判断した。
屈辱だが、ここは引かざるを得ないと。
だが決して忘れる事はない子供の名前を復唱する。
「ユイ・サンクトゥリア……! 次は必ず殺す! 忘れないぞォ!!!!!」
そう叫ぶと、使う筈ではなかった敬愛すると準魔王フィアーラから与えられた
だが、この10年後───
〈魔災大戦〉と言われる大規模な戦い時に再会を果たしたエミラとユイは、死闘を繰り広げ、エミラの言葉通りにユイのその命を奪った。
※ ※ ※
俺はユイ先輩を背中に乗せたまま、その話を聞き終わった。
ユイ先輩の過去にそんな事があったとは知らなかった。いつも明るく振る舞ったいる彼女が、そんな凄惨な日を越えていたとはと……。
「じゃあやっぱり、メシアの暗殺計画の裏には、準魔王が関わっている可能性が高いという事なんですね……?」
そう質問したのは森から出て、〈ラテ〉の近くに張ったテントの中だった。
俺たちは宿に被害が出ないように宿は取っていない。敵は退けはしたが、戻ってからは宿は取れず、当初の予定通りテントで一夜を過ごす事にしていたのだ。
「そう思うわ……。エミラが出てきたのがその証拠だと思うわ……。ただ、どこの貴族に手を貸しているかは分からないけどね。恐らく、メシアちゃんの魔力を脅威だと思ったのでしょうね……」
その言葉に改めてため息を吐き、言った。
「まさか第一皇女の暗殺計画に準魔王が関わってるとは…………。まぁ、やることは変わらないんですけどね……」
「そうね……。メシアちゃんを助けないとね」
「ええ。そうですね」
そう話が終わった……と思った。
が───────
「じゃあ哀流く〜ん。先に私を助けてくれる?」
「……はぁ?」
そういうと突然ユイ先輩は服を脱ぎ始めた。
訳がわからずオロオロしていると、とうとう下半身の下着だけを着けた姿になっていた。
「なななな、何をしてるんですか! な、なんで脱いでるんですかぁ?!」
「だってほら……2人きりでしょぉ? やる事やらないといけないでしょ?」
「な! 何をやるんですかぁぁ!?」
「き・も・ち・い・い・こ・と♡」
「え、あの、本気ですか?」
「ええ。本気も本気。当たり前よ……。体ふ・い・て♡」
「…………え……?」
「えッ? だってぇ、敵と戦って体中汚れてるのよ? テントにはお風呂ないでしょ?」
「まぁそうですけど……」
「あれれぇ? もしかして、あっちの方だと思ったのぉ? そんなに期待さ・れ・た・ら…………」
「……拭きましょう」
俺は改めて思った。
この人絶対わざとしてるよな。と……。
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