第11話 怪し集団〈結〉

 俺とユイ先輩は漸く最後の経由地〈ルディサ〉に到着していた。


 光帝都ライテルーザに一番近い都市で、公爵が治めているだけあり、その規模は経由してきたどの街よりも遥かに大きく、通りを行き交う人々の数もこれまでよりも一番多い───てか多すぎない?


「ユイ先輩。今日は宿を取りましょうね。怪しい奴らもぶっ飛ばしたことですし、ゆっくりお湯に浸かってちゃんとしたベットで寝ましょう……」


 先輩は疲れた顔をしつつ背中を反らし伸びをすると、自分の肩に手をやりながら答えた。


「そうねぇ……。昨日の戦いの疲れもあまり取れなかったし、哀流君があんなに激しいとは思わなかったわ……。あんなに揉みしだかれたのは初めてよぉ」

 なぜか微かに頬を赤らめ、今度は腰に手を当てそのDカップだろうと思う胸を張り言った。


 ユイ先輩のこの行動は否が応でも周囲の視線を集めてしまった。

 特に男の……。

 夫婦や彼女と一緒に来ているだろうと思う男の方は女性にぶん殴られていた。


 小さい子供を連れた恐らく母親らしき人は、子供の手を引きそそくさと離れようとするが、その子供ももそこに目がいくらしく…………。無邪気な声で「──ねぇ。お母さん! はげしいってなぁにぃ? あのおにいちゃんあのおねえちゃんのお胸を揉んだのぉー?」

 と、俺に残酷な視線を向けさせることを言った。

 周囲からはその通りの視線を向けられた。

 

「ユイ先輩!? それは端折りすぎです! 肩や背中が凝ったって言うからしただけですよね!? それでもう少し強めって言ったから強く揉んだら『もうダメ〜♡』とかあんな声をだ……し、て………!?」

 

 しまった……。これじゃあ変なマッサージと……か思われ─────てるよなーーーー! これッ!!

 周囲を見回すと、この一連のやり取りで、さっきよりも多くの人が足を止めていた。

 俺は頭を抱えたかっただが、とりあえずここから逃げようと先輩の手を引き離れた。


 ───なんかこのやり取り以前もやったよね……。


 その場から即座に離れ宿屋に着いた。疲れた……。


「ユイ先輩……」

「なぁにぃ?」

「………………」


 やっぱり言うのをやよう……。ややこしくなるような気がする。

 考えをそうまとめ、ユイ先輩に2部屋取ることを伝えると、頬を膨らませ不服そうにしていた。だが、今回ばかりはと思い、宿屋の主人に要望した────。



「……え? なんて言いました………?」


「だからな兄ちゃん。今日明日は公爵家がこの〈ルディサ〉を治め、守護して100年の記念祭なんだよ! いつもならライテルーザにいらっしゃる公爵様も来てくださるってことで、色んな所から観光客が来ててなぁ、キャンセルの1部屋しか空いてないんだよ……」

 

 人が多過ぎたのはそのせいか………。

 納得がいった………。


「まぁ、1部屋だけでもキャンセルがでたんだ! 運がいいと思いな! 恐らく他は空いてねーぜ!」

 その言葉にユイ先輩は「だってぇ〜」とニコニコと言ってきた。

 そして宿屋の主人はニヤニヤとした顔で、俺の耳に囁くように伝えてきた。

 

「キャンセルの部屋……ダブルベットだからな! 兄ちゃ〜ん。今晩は───────だねぇ……」

 


 ────悪化した………。


 それになんだよ! 『お愉しみ』ってさ!

 

 ユイ先輩に目をやると、機嫌が良さそうに「屋台とか出てるみたいだから行こっかぁ〜」

 

「そうですね……。行きましょうか……」


 俺、今日寝られるのかな……。



 ※ ※ ※



 その後、2人1部屋ダブルベットの予約を完了してしまった。

 

 俺とユイ先輩は立ち並ぶ屋台の串焼きや、なんだか分からない飲み物を飲みながら見て回った。

 地球でもリスティラードでも〈祭り〉という感じは変わらない。ただ、日本の様に浴衣を着るなどという風習はない。 

 

 だけど、ユイ先輩は「ちょっと待ってて!」と言うと、いつの間にか浴衣を着ていた。

 そして、2人で屋台を回った。

 周囲の人たちはその珍しい服装が気になるみたいだった。


「ユイ先輩……。もの凄く目立ってますよ……」

「みたいだねぇ〜。こっちじゃあ浴衣なんてないからねぇ〜」

 先輩はりんご飴……ではなく、メロン飴というものを食べている。

 メロンを一口台にカットし、ハチミツの様な飴を掛けてあるもので、一口食べさせられたが、物凄く甘かった。それを美味しそうに食べている。

 

「ユイ先輩……それ甘くないですか……?」

「そう……? おいひいよぉ〜」

 口に含みながら言っていた。

  

 そんな会話を交わしながら、人だかりがある大通りに出た。真ん中の道を開けるように両サイドに人々が立ち、何かを待っていた。


 さながら、優勝パレードや何かのイベントのようだった。そんな中、騎馬隊が姿を現し、先頭を進んで来た。その後ろに、馬車が数台連なっていた。 

 人々はこのパレードの主である、公爵に声援をあげたり、手を振るなど称えているように思た。


 ゆっくり進む馬車の一台の天井が開かれ、中の公爵が姿を現した。 

 その姿を見るなり、人々はさらに興奮したように、盛大な拍手を送っていた。


「すげーなあ……。ここの公爵は相当な信頼を得ているんだなぁ」

「なんか、代々魔物からこの街をずっと守り続けてるみたいだからねぇ。その分人々の信頼と尊敬があるんだと思うよ」

 こんなに人々から信頼されるってことは、なかなかの器なんだろうと感じる。


 ここまで歓迎されるのも珍しいし……。

 魔物から護るというのはそれだけの価値が在るのだろう。平穏な日々を過ごすというのは、簡単なようで簡単ではないしな。

 普段通りの生活が出来ることがどれだけ恵まれているかよく分かる。


「ユイ先輩はこれだけ信頼のある公爵の名前とか知っていますかぁ?」

「さっき宿屋で聞いたよ。確か「──様って言ってて、現女帝ミリーザの弟らしいよ」


 そんな会話をしたいると、銀髪の公爵とその横に金髪の女性が立ってい手を振っていた。

 その姿を見るなり、自分の手を血が滲むまで握りしめるユイ先輩の姿があった。歯を噛み締め、怒りの目で女性に視線を向けていた。

 だけど、俺の胸に顔を埋めるように抱きついてきた。


「ど、どどどどうしたんですか!?」

 俺は動揺しながら質問した。 

 だけど先輩は小さい声で息を殺しながら答えた。


「……ごめん……。もう少しこのままにして……」

 先輩のその言いようと、俺の腕を強く掴む姿を見て、何かがあるのだと思った。

 その反応に俺も小さい声で聞いた。


「本当にどうしたんですか?」

 先輩は声を殺しつつも感情が動いていた。


「あの女だ……!」 


 その怒りのこもった声に思い出した。

 先輩の過去の出来事を………。


「もしかして……あれが」

「エミラ・ヴァルファだ……!」 

「あの女が準魔王配下の……あの黒い奴らの主人でメシアを狙っている……!」

 俺も先輩の言葉に怒りを覚えつつあったが、先輩に静止された。  


「──哀流君……。ダメ……。敵意を向けたら気付かれる……」 


 だから先輩は顔を埋めていた。必死に怒りを抑え、視線に気付かれないように………。

 それで俺も冷静になり、息を吐き自分を落ち着かせた。だけど、先輩の俺を掴む手は、その怒りに耐えるようにだんだんと強くなっていた…………。


 ※ ※ ※


 ───くだらない。


 エミラは思っていた。

 この下等に人間たちの馬鹿騒ぎ……。


(たかがベルファこれが戻った程度でこの騒ぎか……。コイツが裏で何をしているかも知らずに……本当に人間は笑える)


 エミラは馬車の上から見下していた。

 歓喜で手を振り、拍手をする人間たちを。

 だがその中で、気になる気配がある事に気付いた。

 この歓喜の中で、まさに唯一と言っていい殺気を感じていた。

 エミラは周囲を見回すとその対象を探した。


(……アイツだな……。あの妙な服を着ている女……男の方からは感じない。必死に視線を隠して、殺気も抑えているようだが、歓喜と拍手この中ではよく目立つ……。普通の人間たちにはこれだけの殺気を向けられることはない……。なんだあの女は……?)


 ユイは哀流に注意を促し、自分自身も抑えていたはずだった。だが、この中ではまずかった。

 歓喜の中の殺気は分かりすぎる……。

 それほど、ユイの怒りは大きいのだ。

 そして、ユイの見つからないようにという感情虚しく準魔王のしもべエミラは呟いた………。


牛頭ごず……。あの女を調べろ……」

  

 すると女の影から返事が返ってきた。 


「承知致しました。我が主人」 

 そう言うとその場から離れ姿を消した。


(どんな奴だろうな………。面白くなればいいが)


 ※ ※ ※


「ユイ先輩……行きましたよ……」

「ごめんね……。哀流君……」

「大丈夫ですか……?」

「ええ。大丈夫よ……ありがとう。でもこれでハッキリしたわ……。エミラが怪しい集団式神を使い力を貸しているのは女帝ミリーザの実弟のベルファ公爵ね……」


 そのユイ先輩の言葉に、これから俺たちが相手にするであろう権力者と準魔王の関係者それらを思い浮かべると気合いを入れるように………


「メシアの命が掛かってんだ。どんな奴だろうとやってやるよ!!」

 

 ───改めて誓う


 ────必ずメシアを助ける!!────

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