第22話 ライテルーザ〈牢獄〉

 騎士に捕らえられ俺たちは地下牢に入れられた。

 連行の際、光帝城が目に入り、この地下牢は城の近くであるのが分かった。

 

 看守の横を通り、壁に設られたオーブのランタンが薄明かりを放ち、冷たい壁を照らしていた。

 牢内は簡素なベット簡易トイレなど、よく見られる光景だった。


 俺は周囲に張り巡らされた魔法結界を眺めながらユイ先輩の状態を見ていた。

 ユイ先輩は未だに気を失ったままで、目からは涙を流し、ミヤさんの膝を枕に眠っている。

 優しく頭を撫でるミヤさんの目には母性を感じさせる程に愛しさを秘めているように思えた。

 

 この状態であっても、ミヤさんは強力に張られた結界について口を開いていた。


「……この結界は聖属性を封じるのに特化したものだよ。恐らくエミラはユイを捕える事も折り込み済みだったのだろうね……。まぁ、アイツに取っては予定通りという事になるんだろー……。気に食わないが」


 それには俺も同意見だ。

 エミラはユイ先輩の存在を認識し、ここまでになる事を予想していた。そして、その通りの結果を出していたのだ。


 実力も然ることながら、頭も割とキレるらしい。

 だが思慮を深くしたのは、過去のユイ先輩との戦いによるのだろうと思う。

 

「じゃあミヤさんもこの結界はどうにもできないんですか?」

 それにため息をつくと返してきた。


「ユイを目的として張られた結界が、私なんかが破れるわけないだろ……。ユイは天才なんだよ。それに、すごく努力をしてたよ……。単なる才能だけではここまではなれないからね……」

  

 確かにミヤさんの言う通りだ。

 ユイ先輩はすごい。

 即席で融合魔法を構築させるなんて並でできる物ではない。


 以前の牛頭との戦いでは、ユイ先輩が俺に合わせて調整してくれていた。それに、この屍との戦いで俺が大地の壁に光属性を纏わせたのは融合ではなく重ね掛けでしかない。

 もし、ユイ先輩が同じことをしようとしたら、全く別の効果魔法を構築するだろう。


「──う……うぅぅ…………ここ……は?」


 俺が考えている内にユイ先輩は頭を押さえながら起き上がっていた。ミヤさんはそのユイ先輩の肩に手を添え支えていた。


「──お姉様……私……」

「あんたは気を失ったんだよ……。過去あの時と同じ状況をエミラが作ったんだよ……今は落ち着いたかい?」


 小さく頷くと俺の方向を向き「ごめんなさい……哀流君……」と言われた。でも、実際辛かったのはユイ先輩だと思う。


「いいですよ。それより大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫よ……ありがとう。それで、ここは牢屋……みたいね……」


 それを聞くと、ミヤさんがここまでの流れを説明してくれた。


「本当にごめんなさい! 私のせいで……。それに、私がエミラに宣戦布告したせいで馬車ごと襲われて関係のない人まで巻き込んでしまったわ……」


 深い後悔の様な表情を見せて俺たちに謝罪をしていたので、「──それはユイ先輩が悪いわけじゃな……」と言おうとした時ミヤさんが先に口を開いた。


「これはあんたのせいじゃないよ! 全てエミラ悪いんだ! あの女が!!」


「ありがとうございます。お姉様………でも、全然責任を感じないという事は出来ません……」


「あんたは責任感も強かったからね……。でもね、あの女が居る限り、遅かれ早かれこのライテルーザでは何か起こってたさ。だからさ、責任を感じるのならエミラをここで倒してこれ以上被害が拡大しない様にやっていけばいいさ!」


「本当にありがとうございます。哀流君、力を貸してくれる?」

 

 小さな笑顔でそう言ってきた。

 俺は当然頷き言葉を返した。


「当たり前じゃないですか! もちろんエミラも倒しますし、メシアも必ず助けます!! それに、エミラが公爵家と繋がっていることも分かってますし……。アイツをどうにかしないと、メシアの命はもちろん、ユイ先輩のトラウマも払拭されませんしね!」

 

 そう返した俺にユイ先輩はゆっくり近寄って来ると、頬に軽く唇を触れさせた……!?


「ありがと! この続きはメシアさんを助けて、エミラを倒した後でね♡」


 俺は不意を突かれかなり照れてしまった。

 以前は、もっと情熱的な口付けフレンチ・キスだったにも関わらず……


 この状況の不意は心臓に悪い……。


 何か殺気の様な物を感じミヤさんに目を向けると、目が怒っていた。キスもそうなのだろうが、『』という言葉に向けられている様な気がする。

 俺はそれをはぐらかす様に、声を出した。


「──と、ところでここからどうしますか? エミラは後でここまで来るとか言ってたし……」

 

 その言葉に反応して、思い出したかのようにミヤさんが、俺とユイ先輩の会話を思い出して聞き返してきた。


「あんたたちさっき、メシア皇女様の名前を出していたけど、どういうことだい?」


 そう聞かれ、まだ説明をしていなかったメシアを助けるということと、俺も転生したのちリスティラードへ戻って来た事を話した。


「──なるほどね……。アイルも元々リスティラードこっちの出身だったんだね。それで、空間魔法の使い手……。そして、元仲間と共に世界を変えるか……。壮大だねぇ。まぁでも、魔災軍との大規模な戦いは必ずまた起こるだろうからね……」


「俺は勝手に全部あいつらに託してしまいましたから……」

 俺は表情が暗くなりながら言った。


「まぁ、その気持ちと覚悟があるなら今度は大丈夫だろうさ! 私も手伝おうじゃないか!」

「いえ、そんな巻き込めないですよ……」


 俺のその答えにミヤさんは「ユイが居るんだ放っておけないよ!」と言い協力を申し出てくれた。


「それにだ、今までの話を聞く限り、公爵様を上手く利用し、メシア皇女様の能力を脅威に思ったエミラがその命を狙ってるって事くらい予想がつく」


 ミヤさんのその的確な判断は正しかった。

 公爵を上手く利用したのは間違い無いと思う。

 ただ、利用したかは分からない。

 ルディサでの公爵を見ても操られている様には到底見えなかった。

 だとしたら、何らかの方法で公爵に取り入ったのだろうと考えられる。

 だが、まずはここから出ないことには話にならないだろう。


「とりあえず、ここからなんとか出ないと……」

 俺は顎に手を当て考えていた。

 それに続く様にミヤさんとユイ先輩が口を開いた。

 

「この結界どうにかしないとね……」


「──恐らくこれは内側からの力にはかなり強いと思うけど、外からの力には弱そうだよ……」


 ユイ先輩はこの結界の弱点を即座に見抜いたが俺たち3人は内側にいる……どうにか外から破壊できないものかと考え始めていた─────


 しかし、その思考は静かな足音と、冷たい女の声で停止していた。


「────何を考えてるのか知らないけど、無駄よ。貴様らはこれから私が殺すのだから……フフフッ」


 隻眼の女──エミラは深淵の笑みを浮かべ目の前に現れていた。


 ─── ◆ ──── ◆ ───── ◆ ───


 読んでいただきありがとうございます!

 以前、近況ノートに描かせて頂いたユイ先輩のイラストを載せさせていただきます。

 簡単に描いた物なので温かい目で見て頂けたらと思います。近況ノートに移ります。

      ↓

 https://kakuyomu.jp/users/Hakuairu/news/16818093075527179462

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