第21話 ライテルーザ〈エミラの罠〉

 アイルは急いで駆け寄ると、蹲ったままのユイを支えるように横に着いていた。


「ユイ先輩! 急にどうしたんですか!?」

「──う……ああ、ああ……い、や……」


 ユイは完全に頭を抱え全身が震えて───

 目からは涙を流し、過呼吸を起こしていた。

 息苦しく呼吸を繰り返すユイの姿に言葉が出ない……

 それを見たミヤは気付いたように叫んだ。


「これはあの時と同じだ!! ユイの目の前で殺戮が起こされた時と!! あんたもユイとリンクしたのなら見たんだろう! トラウマになっている過去の光景を!!」

 

 その言葉に気付いたアイルは、ユイの記憶を思い出していた──


 次々と──目の前で──慕っていた者達が───

 残酷にも───首を刎ねられ────


 殺されていく────


「でもミヤさん……あれはもう克服したんじゃあ」

「アンタはバカか!! 簡単に克服できないからトラウマってんだろうが!!」


 確かにミヤの言う通りであった。

 あんな残酷な光景を目の前で繰り広げられ、そう簡単に克服できる訳がなかったのだ。

 心のどこかに必ずそれは存在するのだ。

 この光景はそれを思い出させるには十分だった。



 ユイは一向に立ち上がることができず、その体勢は地面に頭を着け完全にその動きを止めていた。


「エミラのやりそうな事だ! アイル! ユイを支えてな! このくらいの奴らなら遅れは取らない!」

 その言葉に、アイルは創造錬金により大地の壁を創り上げ、さらに光を纏わせ強化させていた。


 横目でそれを確認したミヤは、さっきまで一緒の馬車に乗っていた乗客と門の衛兵の屍相手に戦い始めた。 

 

「さぁ! 来な!! もう人じゃないんだ!! 遠慮なく消してやるからね!」


 ミヤは〈白光剣〉を出現させると、およそ人間の動きとはいえない奇怪な動きで次々と襲いかかってきていた!


 首を刎ねられた胴体だけの物、下半身だけの物体、首だけで動き、長く変化させた舌を使いぶつかってきては爆弾のように弾けていた。

 なんとも言えないグロテスクな光景により、アイルは吐き気で口を押さえた。


 ミヤは宣言した通りに斬り、聖属性を纏った白光剣で消し去っていた。さすがにA級だけはあり、襲い来る屍を物ともせず始末していた。


 しかしそこで、予期せぬことが起きた。

 この騒ぎを聞きつけてか、ライテルーザの騎士団が10人程でやって来ていた。


 だがこれは明らかに早すぎる───

 まだ、攻撃を受け、戦いを開始し10分も経っていないのだ。その上、騎士が来たのを見計らったかの様に動く屍はになっていたのだ。

 その光景は冒険者が無差別にをした様にしか見えなかった。1人は魔法で創られた剣を持ち、もう1人も傍に女性を抱えてはいるがで魔法を展開している。


 そして周囲に残されているのは体を刻まれた旅人や衛兵……見た目からは、殺人鬼とその殺人を予想し魔法を展開していると思われても仕方のない状況であった。


 その光景を目にした年配の騎士は当然の様に叫んだ。


「あの者達を捕まえろー!! 罪のない者達を殺した殺人鬼だ!!」


 声に従う様に周囲は一気に騎士により囲まれた。

 ミヤは「──これは違う! コイツらから襲いかかってきたんだ!」

 この答えに騎士たちは完全に犯人を見る目を向けている。最初に叫んだ年配の騎士は続けた。


「屍が動くわけなかろう!! 仮にアンデットだとしても未だに血を流し続けるアンデットがいる訳がなかろう!! これこそたった今殺された証明だ!」


 話を聞こうとしない騎士たちに、ミヤは───目の前の奴らをとりあえず黙らせるか? とも考えていたが、アイルの言葉でそれを止めることになった。


「ミヤさん! ユイ先輩が気を失いました……。ユイ先輩を抱えながらは逃げられません!」

「……くっ……」


 そう言うと白光剣を消しその場に座った。

 アイルもそれに従い魔法を解くとユイを抱える様に抱いていた。


 そのまま騎士に捕まっていると、その光景を面白がる様な目を見せながらひとりの女がゆっくりと近づいて来ていた。騎士たちはその女に一礼をし女の表情には気付いていない。

 そして騎士の一人が口を開いた。


「エミラ様! わざわざご足労頂き、誠にありがとうございます!!」

「いいのよ……。ライテルーザの平和を守るのも、公爵家に仕える者として当然なのだから。あなた達もこんなに遅く私の言葉に耳を傾けてくれて感謝しているわ……」


 アイルとミヤはその姿に怒りの表情を浮かべていた。これは全てエミラが仕組んだ事だった。そして、2人の近くまで来たエミラは周囲の騎士に見られないように猟奇的な笑みを浮かべ小声で言った。


「ねェ? どんな気持ちィィ? 私はねェ、とォォッても楽しいわァ!」


「エミラ! 私はアンタを許さないよ!!」

「──お前……! 俺も絶対に許さねーからな!」


 騎士たちはそんなエミラの事など知る事なく、さつっきの労いの言葉に感嘆の表情を見せていた。

 中にはエミラに見惚れているような騎士も数人存在していた。


 しかし、気を失ったユイを抱えている。

 どうする事もできない状況であった。

 ミヤもアイルも手を拘束されているが、騎士達にユイに触れさせないといった断固とした態度は、ユイを抱えさせたまま拘束するといった判断をさせていた。


 エミラは不気味な笑みでアイルとミヤ、そして気を失っているユイを見ていた。それを騎士たちに悟られないように表情を戻すと、城の地下牢に連行するように指示を出していた。


 そして、アイル達の耳元でひと言────


「また後で会いましょうォォネぇぇ……。そこで殺してあげるわァ……」


 それを言い終わるとエミラは自らの護衛を引き連れて戻って行った。

 アイルと気を失ったユイ、ミヤはそのまま地下牢に連行されたのだった。

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