第20話 始まりのライテルーザ

 ユイの手から放たれた聖槍ロンギヌスは子供の頃に使った時より段違いの魔力を有していた!


 その段違いの魔力は集団で迫って来ていた骸骨騎士をその波動だけで聖火のごとく焼き尽くし、後方に控えていたゾンビリザードは反応すらできず、聖槍ロンギヌスの直撃を受け跡形となく灰と化した!!



聖鐘ホーリィベル……聖槍ロンギヌス……あの膨大な魔力量……あんた……ユイなのかい?」



 屍の前に悠然と立つユイは振り向きながら笑顔で言った。


「お久しぶりです。ミーヤセルカお姉様」


「……ああ、ほん……とうにね……」

 ミヤは目に涙を浮かべながらユイに近づき抱きしめていた。


「お姉様……痛いですよ……」

「いいじゃないか! あんたは魔災軍との戦いで死んだと聞いてたんだ! またあんたに会えるとは思わなかった……。その姿も理由があるんだろう? あとは馬車の中で聞こう」


 そう言いユイと馬車に戻ると、道が開けた馬車はゆっくりと動き出していた。

 ユイはミヤの横に腰を下ろすと、これまでの経緯を説明した。


「───そうかい……。やっぱりあんたは死んでたんだね。それで地球という異世界に転生して、リスティラードこっちに戻ってきた……て事だね……」


「なので、以前と姿が一緒じゃないんですよ」

「まぁ、でも面影は残してるね……」


「きっとそれはこっちに戻って、こっちの魔力に適応した体に変化してるからだと思います」

「ならその内、リスティラードの姿に戻ったりするのかい?」


「戻ることはないと思います……。あくまで、ですから……」

「でも、ユイはユイだからね! 姿形が変わろうと、ワタシの大事な妹には違いない!」


 ミヤはユイに頬擦りをしながら言っていた。

 そしてその視線はアイルへと向けられていた。


「ユイ。ところでアイルアレは何なんだい? あんたらかなりに見えるんだけどね。どういう関係だい?」


 ミヤの問いにユイはとんでもないことを口にしていた。


「あ、彼は哀流君って言って旦那様体を求める人なんですよ!」


 笑顔で言っているが隣のミヤはブチギレていた。


「お前ーー! この清純なユイに何をヤらせようというんだい!!!!」

「ちょっとー! 待ってくださいー!!!! それ大分もられてます!!!!!」


 必死に説明し、数分の後にようやく理解してもらうことが出来た。



「ユイ、あんたいつから痴女になったんだい……?」

「あの……ミーヤセルカお姉様……失礼だと思うんですけど……」


 ユイは遠慮がちに言っていた。

 少し口調も違う。

 やはり本当の姉の様に慕っていた人には強く言えないのだとアイルは理解していた。

 その話題を変える様にアイルは口を開いた。


「あの、ミヤさんはエミラとの戦いの時にいたんですか?」

 

 その質問に答えたのはミヤではなくユイだった。


「えっとね、哀流君。君もして記憶を見たと思うけど、私の目の前に最後まで立ってた右側の人だよ」

「…………!? 全然違うじゃないですか!! あの細身の体がこんなにも……」


 そのアイルの驚愕に、ミヤはユイに聞いていた。


「ねえユイ……。彼を沈めてもいいかい?」


「だめですよ。哀流君もそうですけれど、私もお姉様がこんなに筋肉をつけてるなんて想像もできていなかったので別人だと思いましたもの……」


「……ユイ、私のことはいいんだよ。実際、別人と言われても仕方がないからね。私が言いたいのはそこじゃなくてね! したって事はがあったんだろ!!?」


 ミヤが気にしたのはそこであった。

 大事な妹と繋がったという事実!

 その一点のみであったのだ。


「──はい……。激しかったです……」

 

 頬に手を当て赤らめて言った。

 ミヤの顔はみるみるうちに鬼の形相へと変わり炎でも吐きそうな息遣いでアイルを見ていた。

 

「それも……違わないけど! 違います!!」

「どっちなんだい!!」


 ユイは未だ頬に手を当て眺めていた。

 アイルはまたしても、ミヤに説明する羽目となっていた。

 


「アイル君と言ったね……。つくづく妹が色々やったみたいで申し訳ない」

 ミヤはユイの変わりに頭を下げていた。

 アイルも、「───いえ! 別に俺も全然よかったので!」その返しに、ミヤは目つきを鋭くして「何が『快感よかった』って?」と声を低くして言った。


 アイルは焦りながらも、ミヤに必死に返した。


「その『快感よかった』じゃなくて! 違うんですってば!」

「哀流君って正直なんだから♡」

「私はやっぱり彼を沈めるしかないようだね!」


「だから違うんですってーー!」



 そんな会話を繰り返しながら、ようやくライテルーザの正門が見えてきた。


 アイルは一連のやり取りで戦う前から疲れていた。

 それを知ってか知らずか、ユイとミヤは昔の思い出話しをしていた。




「ユイ先輩……ミヤさん……ライテルーザが見えてきましたよ」


 アイルが言ったその先には、10メートル以上はある大きな壁と、重厚な門が目の前に現れていた。

 両サイドには衛兵が数人立ち帝都に入る馬車や人々をチェックしていた。

 この夜中という時間帯でも、入る者たちは比較的多く、やはりルディサでの祭りの影響と言っていいと言える。


 御者は衛兵にルディサから───と伝えると、馬車の中をひと通り見ると、入国の許可が出た。

 馬車は難なく門を潜り馬車発着場まで進むだけであった──────が─────


「ユイ先輩! 相手の気配感知にかかりました!! 空間に違和感があります!」


「──!? エミラね!!」

  

 突然のアイルの言葉に、「何かあったのかい!?」とミヤは2人へ交互に目をやり言っていた。

 

「ユイ先輩!! 来ます!!」


 その言葉にユイは「お姉様、失礼します!」といいミヤ頭を床に押し付けると自らも体勢を低くし、アイルもそれにならい低くしながら他の乗客にも低くするように言っていた。

 

 ────その瞬間!!


 馬車の上半分が切り離されていた!!


 咄嗟のことで反応できた乗客は少なく、その大半は腰から上が切り離され血を噴き上げていた!!

 御者も上半身がなく、馬は首が飛ばされていた!!


「一体何なんだい!? 何が起こったんだい!! エミラってどういう事だい!!?」

 

 ミヤは大声で叫ぶとアイルがそれに答えた。


「俺たちはそいつに狙われてるんです!!」

「───なんだって!?」


 そう話しながらアイルはユイに次の行動を取ろうと動こうとした……動こうとしたのだ────


 ────しかし…………!!


 ユイは頭を抱え───息の仕方を忘れた───

 

 暗く深い感覚に呑み込まれたような───


 靉靆あいたいたる───黯然あんぜんたる表情を浮かべるとその場に蹲ってしまっていた───



 


 

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