第19話 近づくライテルーザ周辺〈異変〉
ルディサを出発した馬車の中には冒険者や旅行帰りと思われる家族連れ、カップルなど数人が乗っていた。
目的は違うが、側から見ればアイルとユイもそのカップルに含まれるだろう。2人は周囲を警戒しつつも体を休めていた。
馬車の絶妙な揺れと、ソファーの様な弾力のある座席は、一気に眠気を誘っていた。
周囲は寝ている者もいれば、馬車の窓から淡月を見ながらお酒を飲んでいる者もいた。
アイルとユイは交互に寝ようという事を決め、アイルに先に眠る様に伝えていた。その際、「──ユイ先輩から……」と言うと「いいから! いいから!」と返され、アイルから寝ることになっていた。
「私の肩使えばいいからね。ゆっくり休んでね」
「じゃあ、先に寝させてもらいますね」
そう言い、目を閉じると間も無くしてアイルは眠りに落ちていた。ユイはアイルが寝たのを確認すると、肩ではなく胸を枕にさせて寝かせていた。
そのまま2時間程経過すると、息苦しくなっていたアイルが目を覚ました。
「──ユイ先輩……苦しいです……ところで、何でこんなことになっているんですか?」
「だって肩だったら硬いかなぁ〜と思ってねえ」
アイルは顔を上げると、ため息を吐きながら「今度はユイ先輩が寝てください……」と言うと、ユイはアイルの腕を抱き、肩に寄りかかった。
それを見ていた冒険者の男が「仲良いね〜お2人さん」と言っていた。
ユイは「でしょ〜?」と返したが、冒険者は続けて言った。
「アンタらも冒険者だろ?」
「そうだけど、どうしたの?」
ユイが言うと、アイルも続けて疑問符を浮かべていた。
「今向かってるライテルーザなんだけどよ、今なぁ、行方不明の冒険者が無茶苦茶多いらしいんだよ。しかもピンポイントに高ランク冒険者らしいんだよなぁ」
その答えに眠気も覚めたであろうユイは聞き返していた。
「どういう事!? 高ランクの冒険者のみが行方不明って……?」
「高ランクなら、ちょっやそっとじゃあ攫われる事はないと思うんだけど……」
ユイの驚きにアイルも続けていた。
それを見ながら冒険者は続きを口にした。
「そうなんだけどよー……。でも実際にS級やA級の冒険者なんだよ」
話していると、月を見ながら酒を飲んでいた均整の取れた筋肉を持つ冒険者の女が口を開いた。
「それ! ワタシも最近聞いたよ!! まぁだからワタシも向かってんだけどさ。ああ! あとワタシはミヤって言うんだよ! 一応、A級だからね」
「じゃあ調査の為に向かってるって事ですか?」
アイルが聞くと、「そうそう。〈港街シーラ〉のギルドで請け負ってね」と答えてくれた。
───でもあなたは大丈夫なんですか? とユイが聞こうとした時……!
────ズズズズズッ!!
と馬車が急ブレーキをかけていた。
ミヤは御者の小窓を開けると────
「どうしたんだい!!!?」
と聞いた。
すると御者のおじさんは震える声で言った。
「な、なんでこんなとこにアンデットが……!?」
馬車の目の前には無数のアンデットが道を塞ぐように立ちはだかっていた。
アイルとユイは急襲に対応し、戦う体勢をとっていた。だが、A級冒険者であるミヤが「ワタシに任せなって!」と言い表へ出て行った。
その様子を見送ると、アイルとユイも、もしものための準備をしていたが、無用なものとなる。
冒険者ミヤは魔法により聖属性の白光剣を出現させていた。
それを瞬時に横に薙ぐと───目の前に広がっていたアンデットは一瞬にして浄化させていた!
その光景を見たアイルはユイに聞いていた。
「あれ
「──そう、ね……。確かに聖白魔法だわ……」
「じゃああの人も〈聖なる刻印〉を受けた聖女!?」
驚くのも仕方がなかった。
外見で判断をするのは失礼なのだが、聖女というよりも戦士と言った方がしっくりくる程、全身が筋肉であった。
だがユイは呟くように言った。
「──あの白光剣……見たことある気がする」
アンデットを片付けると、何事もなく馬車に乗り込んできた。そこで、アイルはミヤに聞いてみた。
「あの、ミヤさんは聖女なんですか?」
「そうだよ! よく分かったねー! ワタシはこんなだから聖女だとは思われないんだよ」
笑いまじりに話してくれていた。
アイルはそれに続けた。
「因みに、どこの出身ですか?」
「ワタシは〈ホリシディア〉の出身で、〈聖女育成のリデア学園〉に通ってたんだよ………そこでまた酷いことが起きてねぇ……」
ユイはその言葉に確信した。
───彼女とは会ったことがある……。リデア学園のお姉さんの1人に似た名前があった気がする。
「───ミーヤセルカ……おねぇさま……??」
それに反応し、目の前のミヤは眉を顰め怪訝そうな顔をした。
「あんた……なんでワタシの昔の名前知ってんのさ? どっかで会った事あったかい? ワタシは知らないけどねぇ……」
それは、ミヤの記憶力が悪いと言うわけではなくリスティラードにいた時のユイと、地球での結衣の外見は全く一緒ではないのだ。
確かに、面影を残してはいるが髪の色も違い、あの惨劇から10年以上経っているため、気付く要素がないのだ。
エミラの式神と戦った時のように、大きな魔法を使えば別の話なのだが、普通に過ごしている程度では気付かれることはまずあり得ない。
「あ、いえ……。すみません……。知り合いに似ていたもので……」
彼女は手を振りながら「まぁ似た様な名前はあるしなぁ!」と、表情を戻しひとこと言うと、また空を眺めながら酒を飲み始めていた。
ユイの言葉を聞き、アイルは尋ねていた。
「ユイ先輩……。あの人本当に……?」
「うん、間違い無いと思う……。あの〈白光剣〉は彼女独特の物だったから」
「独特?」
「そうなの……。普通、聖女はね、剣を持ち振り回したりする様な戦い方はしないのよ。でも彼女はすごく接近戦が好きみたいで、普段から独自の剣術を練習していたの見たことあるわ。普通はね、私みたいに魔法で槍とかを出して戦ったりはするけど、それでも、その手に持って接近戦の様な事はしないのよ。防御はできるけど、接近戦は得意じゃないからね」
「でも先輩……〈シール〉の町で冒険者の集団ボコボコにしてましたよね……? あれはもろ接近戦だと思いますけど……?」
「───……………」
「あの、先輩……?」
「……私は基本的に、〈聖鐘〉をメインにして戦うから防御が強固でその間に他の魔法を繰り出せるってだけだからね……」
「──先輩……。流しましたね……」
「ということなの!!」
「分かりました……」
何が分かったのか分からないのだが、アイルは追求をやめていた。
邪魔がいなくなった馬車が動き始め30分程進むと、またしてもブレーキがかけられた!
お酒を飲んでいたミヤもお酒をぶちまけ御者に言った。
「今度はどうしたんだい!?」
「そ、それが……。またアンデットが……!!」
それを聞いたミヤは立ち上がると頭を掻き外を見ながら言った。
「じゃあまたワタシが浄化してやる───なに!?」
ミヤの驚きの声につられアイルとユイは外を見た。
するとそこには、騎士の鎧を着た骸骨数百体が道を塞いでいた。
その後ろに控えるのは小型ではあるが竜種に属するトカゲであった。
小型と言ってもドラゴンと比較したらというだけで、決して小さくはなく頭から尻尾まで約8メートル程ある。その上ゾンビという状態であった。
「なんでこんな所にリザードがいるんだい! しかもゾンビっていうおまけ付きだ!」
ミヤはそう焦っていっていた。
リザードというだけでも厄介な上に、その丈夫さで中途半端な聖属性では大ダメージを与えられないゾンビというさらに厄介な状態であったためだ。
「ユイ先輩……あれは……」
アイルの問いにユイは確信を持って言った。
「あれは恐らくエミラの符魔法だと思うわ……。ご丁寧にゾンビにしてるし……。最初に現れたアンデットといい、あれよりも強い骸骨騎士とゾンビリザード……。聖属性を使う者を選別してるわ……」
「それじゃあ……。これはユイ先輩を探してるってことですか?」
「でしょうね……。ミーヤセルカおねぇさまが聖属性の剣で切ったことで、聖属性を使う者を確認し、このゾンビリザードで魔力量を測ろうとしてるのだと思うわ……」
その間にも骸骨騎士はジワジワと近づいていた。
「でもそれじゃあユイ先輩が聖白魔法を使ったら、完全にバレますね……」
「でも、牛頭との戦いで存在はバレてるでしょうから……。あとはいつ私がライテルーザに来るかを確認したいんでしょーね……」
「じゃあどうしますか?」
「どうするも何も、このまま放っておいたら今も危ないし……この後に来る馬車も襲われかねないし……。ふぅ……」
そうため息を吐くとユイは決意していた。
「──宣戦布告しましょうか! ずっと隠れるのも嫌だしね! ライテルーザでどうなるか分からないけど、被害が広がらない様にね!!」
「じゃあやるんですね?」
そう聞き返すとコクリと頷き同意した。
そして、ユイはゆっくりと歩き出していた。
「ちょッ──!? 何やってんだい! 近づくんじゃないよ!!」
焦る様にユイに注意するが─────
「大丈夫です……ミヤさん。ユイ先輩は強いですから……!」
「──ユ、イ……?」
何かを思い出したのかミヤは繰り返した。
その間に骸骨騎士たちは勢いを増しかかって来ていた!
────だが……!!
「【
ユイはエミラに存在を見せつける様に敢えて多重詠唱していた。
そしてエミラが忘れることがないトドメの魔法を放った!!
──────
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