第18話 ルディサ観光〈後半〉

 俺とユイ先輩はようやく朝食も食べ終わり、これからどこを回るか考える事になった。


「ユイ先輩、どこか見たいとことかありますか?」

「う〜ん、どうかなぁ……。私がリスティラードこっちにいた時はこの辺りまで来たことなかったし……。まぁ一ヶ所は行きたいとこがあるんだけど、それは最後でいいかな」

「行きたい場所ってどこなんですか?」

 ユイ先輩は口元に指を当て言った。


「このルディサにも私が所属していた聖教会があるからそこに行きたいかな。そこで、祈りを捧げれば〈聖印〉の強化が出来るはずだから、ライテルーザでの戦いに備えてね!」

「じゃあ最後にそこは寄りましょうか……。それまでは────」

 と言おうとした時に、ユイ先輩の視線を感じた。

 テーブルに肘をつき、両手に顔をのせ上目遣いで見ていた。


「ど、どうしたんですか?」 

「ねぇ、哀流君。君、私とリンクした時何か思い出さなかったぁ?」


 そう言われると、確かにからすでに思い出している。俺に至っては……。

 先輩が覚えているか分からないと思っていた。

 まさか、先輩から聞かれるとは思わなかった。

 いじめを受けていた時に俺とユイ先輩が会っていたことを……。


「な、何を思い出すんですか……? 俺あまり記憶力良くないので……」 


 先輩は目を細めジッと見ている……。

 明らかに怪しまれているような気がする……。

 でも、この記憶を話して────ユイ先輩の傷口が開くかもと考えると俺からは言えない。


「ふ〜ん……そうなのぉ〜……?」

 そう言うと、ユイ先輩はとんでもない行動を取っていた。


 店員にウォーターポットを持ってきてもらい受け取り蓋を開けると、なみなみと入っている水を頭から被っていた。 


 ────ザァァァァァ。と音を立て上半身を中心にずぶ濡れになっていた。


 透け感のあるシアートップはさらに透け、メッシュニットを合わせているとはいえ、やはりメッシュであるため胸元が完全に透けていた。


「せ、先輩!! 何してるんですかぁーーーー!?」

「水被ってみたわ……」

 淡々と答えるユイ先輩……。


「それは見れば分かりますよ!」


 小学校のあの時とは違い胸の膨らみがハッキリ分かってしまう。しかも、下着も透けている。


「ユイ先輩! とは違うんですから! 胸透けてま……す、よ……」

 俺は咄嗟に口に出してしまっていた。

 ユイ先輩に目をやると、すごく……本当にすごく悪戯っぽい笑みを浮かべ、頬を少し赤くすると───


「──思い出してたんだねぇぇ……!」

「……あぁ……ですね……。ユイ先輩、わざわざ濡らさないでください」 

「だって、確かめたかったし……。ねぇ、哀流君」

「は、はい……なんですか……?」

「私寒いわ!」

「そりゃあそうですよね! 氷入ってたし!」


 そう返すと、生活に使用できる些細な空間魔法を使った。先輩を覆う様に膜を張ると、先輩の濡れている部分の水分だけを取り除き空間ごと消した。

 乾かすよりも早く、即座に元通りにすることができる。まぁ、便利な魔法なのだ。


「ありがとう哀流君♡ でも、それ空間魔法よね? 大丈夫なの? 私が言うのもなんだけど……」

「ほんとそれです……。でも、大丈夫ですよ……これはほとんど魔力を消費しないので気取られないと思いますよ」

「そっか。ならよかった」

 そう言いユイ先輩は笑顔を向けてきた。

 俺と先輩は店を出て、目的を持たず街を見て回りながら話の続きをしていた。


「哀流君はいつから思い出してたの?」

「そうですね〜。陸上部の助っ人に行って色々と話をしている内にですかね……」

「なんだぁ〜。でもなんで思い出した時に言ってくれなかったのよ?」

「そりゃあ言えないですよ……。それに、思い出していいなら、なんで小さい俺が出てきた時のことを誤魔化したんですか?」

 ユイ先輩は少し頬を膨らませながら言った。


「───分かんないかなぁ……。私の記憶を見て思い出したなんて、なんかイヤだからだよぉ……。私はずっと覚えてたのに……」

 要するに先輩は俺が自分自身で気づいてもらいたかったらしい……。

なぜか分からないけど……。


「それと、俺が言わなかったのは、先輩が当時の事を思い出して、また辛くなったらって思ったら……」

 そう返すと、ユイ先輩は俺の腕を抱き────


「哀流君はやっぱり優しいねぇ〜」

「わ、分かりましたから、腕離して下さい……」

「もう少し一緒に回ったらね!」


 そのまま俺と先輩は祭りを回った。

 朝食を食べたに関わらず、露店で軽いものを買い食べながら見て回った。


 イベントでは魔法を使う障害物競走などがあり、ユイ先輩は張り切って参加しては優勝をしていた。

 やっぱりユイ先輩はこういった競技は得意なんだなぁと感心した。

 時間はすぐに過ぎていき、夕方が近づいた。


「ユイ先輩、そろそろルディサの聖教会に向かいましょうか?」

「うん、そうだねぇ〜」

「その教会はどこにあるんですか?」

 ユイ先輩は街外れの高台を指さすと言った。


「あそこだよぉ〜」


 その方角に目をやると、地球にありそうな建物があった。

 そこに行くまで、他の観光客やら聖職者などとすれ違いながら、20分ほど歩くと見えてきた。


 外観をいえば、イタリアにありそうな聖堂で、アーチの列、重く分厚い壁、少ない窓といったようなのロマネスク様式に似た様な外観だった。

 中に入ると、ザ・聖堂といった感じの佇まいを醸し出していた。


 その一番奥には女神の石像があった。

 ユイ先輩が言うには〈リサラスリア〉という神で、〈聖教会リサル〉が信仰する女神と言っていた。


 ユイ先輩は「ちょっと待っててね」というと、女神像の前まで行くと、両膝をつき両手を胸の前で組み祈りを捧げていた。

 すると、ユイ先輩の周囲に白い輝きが降り一瞬先輩の姿が消えると、間もなくして姿が確認できていた。

 

「ユイ先輩? 終わったんですか?」

「……───あ、うん。終わったよ!」

 少し間を置き返してきた。

 その間に疑問を思いながらも話を進めた。


「ユイ先輩、馬車に乗る前に揃えられるもの揃えましょうか。まずは体力回復薬と解毒薬ですね……」 

「夜食も買わないとねぇ〜」

「……今まで散々食べたじゃないですか……?」

「栄養は必要よ!」

 そう言うとユイ先輩は俺の腕をまた抱いていた。


「……なんでまた腕、持ってるんですか?」

「いいじゃない! 減るもんじゃないしー」

「まぁそうですけど……」

 その言葉に続けて先輩は言った。


「───あとあと! 精力剤買うぅ〜?」

「買わないです」

 即答した。


 その後、アイテムショップに行き、アイテムやら、ちょっとした武器やらを揃えると、ライテルーザに向かう馬車の待合所へと足を向けた。

 

 そこには数台の馬車が用意されており、港町シーラ方面へと向かう物と、俺たちが向かうライテルーザ方面に分かれていた。

 やはり、昼の間に出てない分、待っている人たちは結構多く、順番待ちであった。


 1台に大体15人程が乗るのだが、満員になったら出て、次の馬車が来るまで待つの繰り返しで、順番が来たのは、結局2時間後で、ルディサを出発できたのは夜の22時頃だった。


「これから4時間だから深夜2時くらいですね……」

「やっぱ夜中になるわねぇ〜」

「やっぱりあっちに着いたらテントを用意しないといけないですね……」

「そうねー。本当なら、お風呂に入って哀流君の為に体を清めないといけないんだけどね〜……」

「──しなくていいです……」

 ユイ先輩は頬に手をやると「──え〜。そんなプレイが好きなんだぁ〜」と言ったので前より早く即答していた。


「違いますからぁ!!」


 周囲の視線を集めつつ、俺とユイ先輩ライテルーザに向かった。

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