第17話 ルディサ観光〈中〉

 目の前の彼を見ていると、心がぎゅっとする。

 痛いとかじゃなくて……なんだろう……?

 気になると言えばそうなのかも知れないけど……。

 多分これは────なんだと思う……。


 彼を見ていると思い出す……。


 私が幼い時にの記憶を思い出したことを─────


 

 私は5歳の時に全ての記憶を思い出していた。

 大泣きをし、嘔吐を繰り返し、叫び声を上げた。

 両親はかなり心配してたんだと思う……。


 記憶を思い出したとはいえ────

 体は子供……心も子供……その精神の許容範囲を上回っていた。


 これを切っ掛けに、子供の心で補いきれなかった感情がいい方向へと向かう事はなかった。


 この日から、極端に雰囲気が暗くなったのを覚えている……。

 幼稚園でも泣いたり嘔吐をしたり、情緒が不安定だった。周囲は私を《変な子》という目で見ていたのだと思う。

 同年代の子たちと遊ばず、いつも1人で居る事が当たり前となり、当然友だちとかはできず、ずっと1人……。


 仲間ハズレの対象にならないはずはなかった……。


 その仲間ハズレは周囲を巻き込み、《いじめの対象》と認識を変えていた。

 そのまま小学校に上がると知識をつけた小学生は明確にイジメをエスカレートさせていった。


 体育の時間には、集中砲火の様にボールをぶつけられ、掃除の時間になると雑巾を洗ったバケツの水をかけられた。

 先生は注意をしているが、それを注意した子供の親が出てきては、モンスターペアレントとなり先生に徹底抗戦をとっていた。


 お互いの親が出たことで少しの間はイジメは鎮静化したがそれはほんの短い期間だった。

 その期間を過ぎるとまたイジメが再開した。

 私は段々学校に行く回数が減り始めていた。

 リスティラードの記憶の影響で、色んな感覚が麻痺に近い状況になっていたことでイジメにも耐えられていた。

 

 だけど、耐えていたというだけで、な訳ではなかった。過去と今の両方から攻撃を受けている状態だった。


 そんな日々が続き、私は小学3年生とり、新入生を迎えていた。

 でも、私はそんな事どうでもよかった。


 イジメは未だ止むことはなく、悪化の一途をたどっていた。ランドセルは窓から投げられ1人ではどうしようもない場所へと落とされていた。

 先生が取ってくれたけど、モンスターペアレントに絡まれたくないのか犯人探しをしなかった。


 そして、過去の記憶と今のダメージが相まって学校に行くのをやめていた。

 それでも親はなんとか行ってもらおうと嫌がる私を連れ出していた。

 今思えば克服してもらいたかったのだと思う……。

 

 私自身も親に迷惑はかけたくなかった。

 嫌だった……嫌だったけど、親も辛いのだと思い、学校へ行き始めた。


 でもいい状況になるわけ無く、初日から水を被せられた。涙は水に紛れ誰もそれに気づかなかった。


 辛い……辛いよ……辛いよ─────


 でも───────


「おい!! おまえたち!! 女の子いじめて楽しいのかーーーー!!」

 

 男の子の声が聞こえた。


 目線の先には私は水を掛けた生徒に突っかかり殴り合いをしていた。


 水を掛けた生徒は私と同級生の生徒……。殴りかかったのは、私と似た髪色をした新入生の男の子……。

 激しい殴り合いをしていると先生が止めに入っていた。


 初めて私の為に怒ってくれる子を目にした────


 翌日、学校に来ると今度はシューズが水浸しにされていた。どうしようもなく、学校の大人用のスリッパ履いて教室に行ったが──パカパカと音を立てながら歩く姿に至っても、標的となり《パカパカ女》と呼ばれ始めた。


 次の日もシューズが無かった……。

 また隠されたのだと思った。



 でも─────


 濡れたシューズを乾かす様に、日の当たりのいい場所へと置かれてあった。

 どういう事か分からなかったが、またスリッパを借りに行こうと、靴箱に靴を入れようと開けた時、中には少し小さめのシューズが置いてあり、貼り付けた紙には、波を打つようなひらがなで、《はけばいい》と書いていた。


 その大きさから1年生の物だと思った。

 少し小さめだったけど、私自身も小柄な方だった。

 きっと男の子の物だろう……。だから、さして影響もなく履けた。

 周りからまた揶揄からかわれるのが嫌でありがたく履かせてもらうことにした。


 教室に向かっていると先生の声が聞こえた。

 誰かに何かを言っている。


「どうしたのぉ!? シューズはどこへやったのぉ!? 哀流君!!」

「わすれたぁ〜」

 私は履いているシューズに目を向けると名前を隠す様にテープが貼ってあった。それを剥がすと《たかなしあいる》と書いてあった。


 目の前の男の子のシューズなのだと分かった。

 放課後にシューズを返すために話しかけた。


「───これ君のだよね……? ありがとう……」 《あいる》と言う男の子は照れながら言った。


「──靴箱まちがえた……」


 ───メモを置いたにも関わらず、つじつまが合わないことを言う……。学年も違うのに……。


 私はその答えに、くすくすと笑いながら言っていた。久しぶりに笑った様な気がする。


「うそへただね〜」


 それから《あいるくん》は毎日昇降口にいた。

 どうやら私のシューズを見張ってくれているみたいだった。

 私に何かしようする子が現れればケンカして。

 その都度騒ぎが起こり、日常茶飯事となっていた。

 それをみかねた先生たちが、ようやく重い腰を上げ動き出した。


 いじめはなくなりつつあったが、信じられない教師に対して両親が、私をいじめていた子供の親に怒りをぶつけた。

 これを切っ掛けに両親は私を違う学校に転校させるという結論になり、私は転校した。


 《あいるくん》と出会った事で、段々と気持ちが落ち着きを見せていた。

 《あいるくん》と出会い、転校を切っ掛けに他の学校では友達ができて、明るさも取り戻した。


 

 再び彼と会ったのは、高校生。

 私が陸上部のメンバーと《新入生確保》という目標を掲げた勧誘の時だった。


「ちょっと結衣! あんたタンクトップで勧誘やめなよ!」

「そうそう! あんたの無駄なそれ男子には凶器なんだからぁ!!」

「そうおぉ? でもこれ走る時邪魔なのよぉ。揺れないようにはしてるんだけど……」

「うちらには嫌味にしか聞こえんわー……」

「オイ! なんでワタシが入ってる!」

 そんなツッコミを入れる友人の姿に笑いながら言った。


「さぁさぁ! 早く勧誘しよ! いい人材がいなくなるかもよ〜」

 私のその言いに、友人は「そうだねー……。あっ!

彼なんてどう? 結構スポーツマンぽくない?」


「えーどれどれぇ〜………」

 ────その姿を見た時私は走り出していた。

 

「うちの目は厳しいよ〜……って! ちょっと結衣!! どこ行くのよ!」


「───勧誘してくる〜!」

 そう言うと2人で歩く、私に似た髪色の彼の腕を抱き言った。 


「ねぇ! 君! 陸上部に入らない?」 


「な、何ですか!?」


「陸上部の勧誘だよ〜」


「あ、あの! う、腕が……!」


「う・で・が何ぃ?」


「い、いや……! そ、その……」


「君! 名前は?」


「た、小鳥遊哀流です!」


「じゃあ、〈哀流君あいるくん〉だねえ〜」



 そんな過去を思い出した……。


 哀流君気づいてるのかなぁ……?


 ───はぁ。ため息だよぉ…

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