第16話 ルディサ観光〈前半〉

 店主のひと言に即座に反応した。


「ど、どういうことですか!? 馬車が出ないって!?」

 店主は俺の言葉に答えてくれた。


「言っただろう? 〈祭り〉なんだよ。かなりの人が来ててなぁ……。当然、御者の人達にも家族が居るんだよ。そりゃあここまでの〈祭り〉になれば家族サービスが必要だろ? 因みに俺も家族と祭り回るんだよぉ……。娘が行きたがってなぁ〜」


 店主は顔をニヤつかせながら言っていた。

 きっと娘さんと祭りを回るのが楽しみなんだろうなぁ……。と思えていけない。

 それに続けてユイ先輩も不安を含む声で聞いていた。


「それじゃあ、公爵様も〈ライテルーザ〉に戻れないってことですか?」

「いやいや! 公爵様は専用の馬車があるから、ついさっき〈ライテルーザ〉に向けて出発なされたよ」

 それを聞きたいユイ先輩は安堵し、今度は俺に言ってきた。


「じゃあ、哀流君! 私と〈ルディサ〉観光しよっかぁ〜?」

「観光ですか?」

「そうそう! 馬車が出ないんじゃあどうしようもないし、大きな戦いの前のひと休みってことでしよ!! ねっ!」

「デ、デートですか……」

「そうそう! 行こっか!」

 そう言うと、ユイ先輩は俺の手を引き街へと繰り出した。


 俺たちが居た宿屋は大通りまで、数分歩かないといけない奥まった所にあった。

 そこから大通りに向かい足を進めていた。

 近づくにつれ、人々の賑やかな声が聞こえてきた。


 ユイ先輩の外套を買いに戻った時は結構早い時間だった為に人の往来はそこまでではなかった。

 しかし、今のこの7時という時間では往来も多くなり、朝市などが開かれている影響でかなり賑わっていた。


 宿屋の店主に聞いたところによると、この〈祭り〉は100年という大きな節目の催しであるためにこの時間帯からすでに中央広場などでは色んなイベントが始まると言っていた。


「人通りすごく多いですね〜……」

「本当ね、露店も出始めてるわねぇ……。どこから回る?」

 ユイ先輩は聞いてくるがその前に───


「最初はユイ先輩の服を買いに行きましょうか……」

 そう言うと先輩は手を軽く叩くと「──あぁ! そっかそっかぁ。なんか流れで忘れてたわ!」と言っていた。 

 俺はため息混じりに言った。


「……なんで流れで忘れるんですかぁ? どう考えても忘れないですよね?」

「哀流君……。女性はね、秘密が多いの。だから考える事も多いの!」

「はぁ〜……。わかりました。追求しません!」 

「ふふふっ。よろしい!」


 とりあえず服屋を探そうと大通りを歩き始めた。


 この街〈ルディサ〉の建物の雰囲気は、地球で言えば中央ヨーロッパに位置する、オーストリアの首都〈ヴィエナウィーンに近い感じで、この大通りはさしずめ〈マリアヒルンファー通り〉に似ている感じがする。

 

 マリアヒルンファー通りほど綺麗に整備されているわけではないが、例を上げるなら、──これだ! が当てはまる。


 その大通りを歩き始めると、すぐにブティックの看板が目に入り入店した。

 店内には、────ここはリスティラードか? と思うほどに地球の洋服に近い物が揃えられてあった。


 ユイ先輩は何度か試着をし、ことあるごとに俺に意見を求めてきた。正直俺はあまりセンスがいい方ではないので、ユイ先輩のコーデを推すことにした。


 結果としては、ホワイトのマーブル柄のシアートップスに、さらにグレーのメッシュニットを重ね着し、ワイドストレートデニムを合わせたコーデだった。

 厳密に言えば、地球と似たような服装と言うことになる。

 

「哀流君、広場の方へ行ってみよっか?」


 先輩に手を引かれるまま広場へと向かった。

 途中で露店を見たりしながら歩みを進めた。


 広場に着くと、宿屋の店主が言っていた通り、様々なイベントが開催されていた。

 大道芸や宝石すくい、子供には的当てといったようなものなどがあった。

 それを横目に俺とユイ先輩は、朝食を済ませるためにファミレスの様な所に入った。


 店員に案内された席に着くと、これからの事を話した。


「──今は午前8時過ぎだから、夜の馬車が出るまで12時間あるわね……。その間に解毒薬とか精力剤……じゃなかった、体力回復薬とか揃えないとねぇ〜……」


「……先輩さっきなんて言いました?」


「解毒薬とか体力回復薬とかだけど?」


「…………」


 笑顔の先輩にそれ以上聞くのをやめた。

 なんか大変な事になりそうな予感がして……。


 とりあえず話を進める。


 

「───それで、ライテルーザに着く頃は深夜だと思いますけど、宿とか取れますかねー?」

「う〜ん……。まぁ取れなかったら、またテントだねぇ〜」

「楽観的ですね……」

「まぁ、なる様にしかならないからねぇ」


 そう話をしていると、店員が料理を運んできた。

 プレートにはサンドイッチとコーヒーあるいは紅茶の様な物が並び、野菜サラダにポタージュといった感じただった。


 俺とユイ先輩は早速食べ始めた。


(俺とユイ先輩かぁ……。あの時にはこんな感じになるとは思わなかったな………)


 俺はそんな事を考えながら手を進めた。

 ユイ先輩は美味しそうに食べている。


 俺はユイ先輩の事を知っている……。


 こっちに転生して、リスティラードの記憶を思い出すよりも前に会っている……。


 先輩はどうか分からないけど───────



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